星野リゾートが展開する温泉旅館ブランド「界」に共通するのは、「王道なのに、あたらしい。」というコンセプトです。
滞在することで温泉の知識はもとより、ご当地の伝統工芸、芸能、食、歴史を「界」を通して知見を深めるなど、日本の秘めたる面白さを再発見することも大きな楽しみです。
この連載では、ホテルジャーナリスト、せきねきょうこが日本中の「界」を旅し、その奥深い魅力に迫ります。
城下町松本の駅から車で約20分、繁華街を抜け、坂道を登りながら老舗温泉である浅間温泉を目指します。「界 松本」があるのは、松本市街や名峰連なる北アルプスを一望できる高台です。ここは信州の中央部、温泉は西暦698年、何と飛鳥時代、日本書紀に登場する「束間(つかま)」と推定されていますが、その後、何回となく名前が変わり、1000年頃に浅間温泉と呼ばれたと推定されています。浅間温泉旅館協同組合の資料によれば、「江戸時代には松本城の殿様が通い、明治になると与謝野晶子や竹久夢二に愛された」という名湯であり、松本の奥座敷と呼ばれる浅間温泉は効能あらたか、美人の湯として繁栄を続けた歴史的なストーリーが残っています。
その浅間温泉を堪能できるのが、温泉旅館「界 松本」です。宿の上質感やインテリアの斬新なロビーにも驚かされますが、ご当地部屋は江戸墨流しのふすま絵や組子障子、伝統工芸を設えた和室です。黒御影石の温泉露天風呂を備えた「露天風呂付き和室」や、檜の樽風呂とテラスと専用サウナ付き客室などが揃っています。
まずは浅間温泉を楽しむべく、提案されている温泉入浴指南書を手に、泉質や効果的な入浴法8種13通りを満喫するという、まさに「界」の楽しみの真髄に触れる滞在が始まります。
温泉以外にも「界」には楽しみが多くあり、信州松本ならでは‘日本の魅力再発見’となること必至です。「界 松本」が提案するご当地楽の筆頭には、「ワインとロビーコンサート」が挙げられます。広々とした円形ドームで、毎夜開催されるロビーコンサートを聴くことができます。音楽は‘学都’と呼ばれる松本市を象徴する芸術。「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」に見られるように、音楽に親しむ街らしく、ここ「界 松本」のご当地楽のひとつとしてロビーで本格的な演奏会が開催されます。筆者自身も生演奏を満喫し、音楽が人の心に深く感動を呼ぶことを実感した夜となりました。




他にも、発酵食品の代表的存在である信州味噌蔵を訪ね、今なお、木桶で造られる昔ながらの醸造法を目にし、米と共に、貴重な日本の食文化を支える礎である発酵文化の象徴を学び感動しました(3月末まで実施)。一方で、美ヶ原高原の麓で2002年よりワイン醸造・販売を行う小さなワイナリー「山辺ワイナリー」にも足を延ばし、発酵食品の知識をより高め、貴重な学びや気づきが提供されました。こうして、アカデミックで興味深いご当地ならではの体験が揃う「界 松本」です。
ご当地部屋は、江戸墨流しのふすま絵や組子障子、伝統工芸を設えた和室です。黒御影石の露天風呂を備えた「温泉露天風呂付き客室」や、檜の樽風呂とテラスと専用サウナ付き客室など、和室を主流にベッドの置かれた和洋室もあります。

大きな楽しみである食事は、和会席に信州ワインのマリアージュが楽しめます。桔梗ヶ原地域の11のワイナリーを中心に、宿には厳選ワイン約50種を常備。因みに‘桔梗が原’とは松本の隣町である塩尻市に位置し、日本ワイン産地の先進地の一つとして知られています。グルメに知られる信州ですから、信州蕎麦やワサビ、野菜やキノコだけではない食材の宝庫でもあり、信州ポーク、和牛、鶏肉などを厳選し、信州ならではの会席が提供されています。
「界」に泊まる満足感は、日本の温泉旅館の新しい魅力を再発見すると同時に、こうして地元感のある食事や、地元に伝わる芸能、工芸品、歴史や習慣など、その土地の隠れた魅力を体験的に学べる高揚感も大いにあります。「界 松本」では、城下町らしく、松本のここそこに老舗の和菓子、鰹節、飴、蕎麦店や、ギャラリーも多く残っています。浅間温泉を下り、国宝松本城、美術館、ショッピングなど散策も楽しめるため、是非、連泊滞在をお勧めしましょう。


取材・文/せきねきょうこ
Photo/界 松本
せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト
スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数。
Instagram: @ksekine_official
DATA
星野リゾート「界 松本」
長野県松本市浅間温泉1-31-1
界予約センター:050-3134-8092(9:30~18:00)