今日はみなさんが家具の中で、もっとも選ぶことが多いだろう「ソファ」について、書いてみたいと思います。でも今のソファは「シーティングシステム」という言葉で呼びたい、新しい考え方のものばかりなのです。座り方も向き合い方も、使い方も自由。特にイタリアのトップ家具ブランドは、だいぶ前からソファのデザインを大きく進化させています。
日本の一般の住宅、マンションなどでは、どうしてもリビングの広さが限られてしまうことがあります。そして私たちが陥りがちなのは、ソファをテレビや窓など「一方向に向けておく」「壁際に寄せておく」という配置です。一方向に向かって並んで座る。誰かが横になってしまうとみんなが座れない。そんな窮屈な常識に縛られていませんか。

シーティングシステムの先駆者とも言えるブランドが、イタリアの「フレックスフォルム」。ソファの座面がすべて背で覆われてなくてもいい。一部「背が抜ける」ことで、座る向きを決め込まず、ソファが部屋の中央に置かれるセンターソファの考え方を、いち早く提案してきました。
この「パーカー」は代表的なアイテムの一つです。もっと大きなサイズもありますが、日本の家にも収まりそうなサイズでも、背の一部が抜けるだけで、開放感があり簡単なデイベッドにもなりそうです。

また‘’ソファファミリー‘’とでもいうべき、サイドテーブルやアームチェアといった、ソファ周りのアイテムを充実させて、ベーシックなソファの機能にプラスオン。どうでしょう。自然に人が集まってきて、おしゃべりが始まりそうな、雰囲気ですね。

こういう世界のソファの考え方を見ていると、もはや「ソファ」ということばではなく、座る仕組みを自由に組み合わせる「シーティングシステム」という言葉が私にはしっくりくるのです。
フレックスフォルムでは、ソファの素材を一部変え、座る向きを交互にする、そんな製品も出ています。

コード編みのアームがあることで、少しノスタルジックな雰囲気に。ここではなぜかタブレットをタップするのではなく、本を開いて読みたい。そんな気持ちにさせてくれます。
「センターソファ」という考え方も一般的に。壁側に寄せたり、テレビに向けたりしなくても、リビングの中央に360度、どの方向からも使えるソファを置くタイプも激増中。特にタワーマンションなど多方向に景色が広がる住まいが増えてきたことも背景にあります。

とはいえ、イタリア家具の先進性はすごいです。このソファはB&B イタリアで1970年代にマリオ・ベリーニがデザインしたものですが、コンテンポラリークラシックとして復活したもの。「カマレオンダ」というもので、ソファは壁際になくて良い、という考え方を当時から預言していたともいえます。

もこもこしているフォルムが、レトロモダンでかわいいと、若い世代にも人気です。写真は2023年に発表されたファッションデザイナーのステラ・マッカートニーとコラボした限定モデル。「今を生きるデザイン」なのです。
ちなみにB&B イタリアでは最新作でも人が交互に向き合って足を伸ばせるような「コクーン」というソファを発表しています。アントニオ・チッテリオのデザインです。

ソファが弧を描いて、リビングの中に環状のスペースを生み出す「ラウンドソファ」。これも多くのバリエーションが出ています

正直、スペースはそれなりに必要なレイアウトですが、吹き抜けのある大きなリビングや、別荘など、がらんとしてしまいがちな空間に、求心力を生み出す力があります。何といっても座る人全員と向き合えるのが良いと思いませんか?

ラウンドがありなら、セパレートのレイアウトだってありです。
こちらはイタリア・エドラの「オン・ザ・ロックス」というソファ。
多角形の5つのシートピースで、好きな形、数だけ買うことができます。北極海に浮かぶ割れた氷のように、各シートは離しておいても、くっつけてもよし。生活の変化に合わせてレイアウトを変えられるのです。

大きな蛇のようなチューブ形状の背は、むっちりと柔らかく、座る向きや過ごし方に合わせて形を変えられます。ジェリーフォームという特殊な素材が詰められており、柔らかいのにしっかりと体を支えてくれます。これはぜひ一度体験してみて下さい。

モルテーニの「マーティーン」はソファというには、座高が非常に低い、床座に近い感覚のソファ。正方形に近い形の座面とテーブルを交互に組み合わせたりもでき、テーブルと座面がつながっていくような仕組みです。

日本人的に考えると、お座布団がむくむくと大きくなり、ソファになってしまったよう。デザイナーのヴィンセント・ヴァン・ドゥイセンは、大の日本びいきですから、発想はその辺りにあったかもしれません。

そして最後は日本人が好きそうな、多機能ソファ。マルニ木工の「ヒロシマ ソファ」は、ソファの背面に収納を組み合わせて、両側から使えるソファ。

ソファで過ごす時間って、結構忙しいもの。読書、パソコン、タブレットの視聴はもちろん、お茶を飲んだり。リビング周りでつかうものを収納しておけば、立ったり座ったりが減りますね。

補助的なサイドテーブルとは違う、役割をしっかりと果たしてくれます。深澤直人さんのデザインなので、直線的でミニマリスティックなフォルムです。

いかがでしたでしょうか?ここで紹介したシーティングシステムは、私が世界で見てきた数多くの製品のまだまだほんの一部です。今回紹介したものは、すでに全て日本で手に入るものです。

世界にはこんな形ありなの? どう使うの? と驚いてしまうようなシーティングシステムがまだまだあります。ライフスタイルによって変化する座り方、過し方。世界のデザイナーや家具メーカーはそんな人の行動を注意深く観察し、それをデザインに写しとって、私たちの生活の意識を変えてくれているのです。

Report & text 本間美紀(インテリア&キッチンジャーナリスト)
早稲田大学第一文学部卒業後、インテリアの専門誌「室内」の編集者を経て、独立後はインテリア、キッチン、デザイン関連の編集執筆、セミナー、企業のコミュニケーション支援など活動を多岐に広げている。著書「リアルキッチン&インテリア」「人生を変えるインテリアキッチン」「リアルリビング&インテリア」(小学館)で、水回りとインテリアと空間が溶け合う暮らしという新しい考え方を広げ、新世代読者の共感を得ている。ミラノサローネ、メッセフランクフルト、アルタガンマ財団など世界のインテリア見本市や本社から招聘され、イタリア、ドイツ、北欧など海外取材も多数。
インスタグラム @realkitchen_interior










