星野リゾートが展開する温泉旅館ブランド「界」に共通するのは、「王道なのに、あたらしい。」というコンセプトです。

滞在することで温泉の知識はもとより、ご当地の伝統工芸、芸能、食、歴史を「界」を通して知見を深めるなど、日本の秘めたる面白さを再発見することも大きな楽しみです。

この連載では、ホテルジャーナリスト、せきねきょうこが日本中の「界」を旅し、その奥深い魅力に迫ります。


日本一の周囲長を誇る汽水湖‘浜名湖’(海水と淡水が混じり合っている湖沼)を望む絶景となだらかに広がる茶畑、まさに日本らしい穏やかな情景が楽しめる「界 遠州」のロケーションです。全33室が揃う「界 遠州」では、すべての部屋がレイクビューとして、また‘ご当地部屋’として造られ、江戸時代から続く地域の伝統「遠州綿紬」が客室内にも設えてあり、和洋折衷の空間に和の要素が加わり旅情を感じさせてくれます。遠州綿紬を設えた懐かしい雰囲気の部屋には、ベッドライナー、障子などからも職人の技が伝わり、ここそこにご当地‘遠州’を感じながらゆったりと過ごすのも情緒あふれる‘界’らしさです。また、全室に茶処リビングカウンターが設えてあり、1日のシーンによって好きなようにお茶が楽しめます。さらに、行動派には付近の‘曹洞宗舘山寺’まで遊歩道を歩いて散策し、展望台に上れば、風光明媚な浜名湖が見晴らせます。

遠州の地域は静岡県の西部一帯の地域を指して言います。具体的には、浜松市、磐田市、掛川市、菊川市などがその中心であり、海の近くの御前崎市あたりまでを含むといいます。その遠州はかつて遠江(とおとうみ)と呼ばれていました。古くから農業が盛んで、今では誰もが知る日本一の茶どころとなった掛川や菊川などは緑茶産地として知られているのです。新幹線を使う方なら、きっと東京から西へ向かうときに過行く車窓には、どこまでも続く緑の絨毯のようななだらかに続くみごとな茶畑が映り、日本一の生産量を誇る日本伝統の風景に旅の情緒を掻き立てられます。

ロビーの全景。チェックイン、アウトの際にはここで。ロビーではティーセラーで知らないお茶を楽しむもよし。茶香炉の香ばしい香りに包まれ、お茶ストーリーが始まるロビー空間。

さて「界 遠州」では、始まりから終わりまで、つまりチェックインからアウトまで、お茶に歓迎され、お茶を楽しみ、お茶の魅力を再発見する滞在となり、まさにお茶三昧が楽しめます。日本茶好みの私は訪れる前から興奮気味でした。‘日本茶インストラクター’が教えるお茶の淹れ方、茶葉の選び方、茶葉の特徴、冷茶、抽出の仕方などなど、渋みが出ないようにと美味しく飲む繊細なコツも享受してくれました。

今冬の時期、富士山麓にある茶畑で収穫され、村山浅間神社で祈祷されたお茶を甘酒と合わせた「屠蘇茶」を提供。
ご当地部屋は「遠州つむぎの間」。写真は茶処リビング付和洋室(定員2名)。茶処カウンターとリビングスペースつき、窓からは湖と茶畑、絶景が楽しめる。
宵闇迫る「湖向きベッド和洋室」の夕暮れ時。

一方、温泉も満喫できる「界 遠州」では、全国的にも塩分濃度が高い塩化物強塩温泉という舘山寺温泉ならではの特徴を体感できます。大浴場には、ヒバを使った「華の湯」と、檜造りの「湖都(こと)の湯」が用意され、「華の湯」では無農薬茶葉を籠に詰めて浮かべた「お茶玉美肌入浴」や、お茶と温泉とのコラボレーションが提供されています。何しろ、日本にお茶が入ってきたのは1200年も前のことと伝わり、現在のように茶葉が生産されたのは18世紀になってからと言われています。いずれにしても古から、日本人はお茶の文化を育み、お茶に癒され、美容も、健康も、ずっと日本茶と共にあるライフスタイルを送ってきました。今、「界」ではその楽しみを”美茶楽(びちゃらく)” として提供しゲストをもてなしています。最後に訪れた時には、無農薬茶の茶畑に出向いて、そこで実際にお茶農家さんとお茶摘みを楽しみ、摘んだばかりの茶葉を煎り、手で何度も何度も撚って茶葉にする体験も想い出です。  

こうして温泉旅館の「界」では、いずれもその土地の特徴である温泉、食事、伝統工芸、アートなどを客室「ご当地部屋」にも、館内随所にも投影し、日本再発見はもちろん、参加型で楽しい‘ご当地楽’と共に、思い出深い滞在となるのです。最近訪れた「界 秋保」でも、歴史に目を向け、伊達政宗公へのオマージュのように斬新なご当地楽が用意され、楽しいひと時を過ごしました。良質の温泉や居心地の良さだけでなく、「界」ではその土地に根付いた文化や歴史に触れる‘記憶の目覚め’があり、「界」のリピーター客が多いのも納得なのです。

浜松はうなぎの産地であり、また遠州灘で水揚げされるふぐも絶品と称される名産地。写真は贅沢な「ふぐづくし会席」。ひれ酒、てっさ(お造り)、から揚げ、ふぐ鍋など「とらふぐ」を味わいつくす贅沢な会席。
旬の食材を取り入れた会席料理。先付から甘味まで、写真は焼き物より牛肉とウナギの寄せ鍋。
界 遠州では夕食の料理に合わせたティーペアリングをドリンクメニューに追加、会席料理の一皿ごとに最適なお茶が全7種類。
大浴場にある「華の湯」は円形の大きな桶型にお茶玉が浮かぶ露天風呂。
遠州綿紬の風鈴がかかる情緒あふれる空間。

取材・文/せきねきょうこ

Photo/界 遠州

せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト

スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数。

http://www.kyokosekine.com

Instagram: @ksekine_official

DATA

界 遠州

静岡県浜松市中央区舘山寺町(かんざんじちょう)399-1

界予約センター:050-3134-8092(9:30~18:00)

https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaienshu/

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