星野リゾートが展開する温泉旅館ブランド「界」に共通するのは、「王道なのに、あたらしい。」というコンセプトです。

滞在することで温泉の知識はもとより、ご当地の伝統工芸、芸能、食、歴史を「界」を通して知見を深めるなど、日本の秘めたる面白さを再発見することも大きな楽しみです。

この連載では、ホテルジャーナリスト、せきねきょうこが日本中の「界」を旅し、その奥深い魅力に迫ります。


秋もたけなわの10月中旬、 杜の都仙台に降り立ち、整然と美しい市街地を抜け、星野リゾート運営の温泉旅館「界 秋保(あきう)」に向かいました。東北随一の発展を遂げている仙台市街から車でわずか30分余り。車窓を楽しみながら一路郊外へ、そしてほどなく山が近くなり始める頃「界 秋保」へと到着です。わずかな時間で山へと入り込み、「日本三御湯」のひとつとして全国的にも知られてきた秋保温泉にたどり着きます。

初めて訪れた秋保温泉は大型旅館やホテルが点々と建ち、古くから地元でも愛される人気の高い温泉地である様子がうかがえました。その歴史は、古今和歌集や新古今和歌集にも‘秋保の里’とうたわれ、古墳時代(531〜570年)まで遡ると言いますから驚きです。この頃には、「第29代欽明天皇(大和時代(飛鳥時代)の539~571年頃)が秋保の湯で皮膚病の一種を癒やした」という説があるほど、温泉の効能はすでに知られていたのです。

‘秋保温泉旅館組合公式サイト’によりますと、「秋保」の名の由来は明確にはわからず、「平安時代にこの地を治めていた「藤原秋保」という人物にちなむ」という説など、実に諸説あるのが現実です。実際のところはわかりませんが、手つかずの自然と渓流美、1400年もの間親しまれている温泉地は、まさに仙台の奥座敷と言われ、今も尚、顧客も多く親しまれているのです。

その秋保温泉の景勝地に2024年4月25日に開業した「界 秋保」には、敷地内の2本の源泉を引いた自家源泉かけ流しの「あつ湯」、心身ともにリラックスできる「ぬる湯」の2つの浴槽が設置され、外には趣のある岩組の露天風呂もあり、温泉を楽しむにはもってこいです。そして温泉を利用するゲストには若者の多いことも驚きでした。カップルや若いご夫婦、女性同士など、奥座敷と言われる秋保温泉の「界 秋保」にも若い人のエネルギーを感じました。

ご当地の歴史や文化、自然、工芸にまつわる本やこの地に伝わる物語などの置かれる「せせらきラウンジ」。テラスには足湯も設置。渓流・名取川を望みながらプライベートタイムを。因みに‘せせらき’は‘せせらぎ’の古語、意味は浅瀬に水が流れる音の他に‘その時々’と言う意味もあり。
「せせらきラウンジ」ではコーヒーが用意され、秋保ワイナリーのワインや季節のドリンク、石巻市のお茶ブランド「和紅茶」も。仙台藩の時代から続く「仙台駄菓子」(黒砂糖や穀物を使った江戸時代からの伝統菓子)や、季節に合わせた美しい和菓子‘上生菓子’も用意される。

客室は全部で49室、「界」シリーズには必ず用意されている‘ご当地部屋’ですが、「界 秋保」には「紺碧の間」が設えてあります。秋保温泉を流れる渓谷、磊々峡(らいらいきょう)から着想を得た紺碧色に染まる部屋は、窓からの景色がフレームの中の絵のように美しく、緑濃い色が紺碧色に見え、室内もまた紺碧色の調度品に統一されています。ちなみに「磊々」とは石がゴロゴロしている様を表し、眼下を流れる渓谷を表しています。私の泊まった客室からも紺碧色に染まる感動的な瞬間がありました。

「界」のご当地部屋はこのように、その土地の特徴をよく捉え、地域最大の魅力を備えた客室づくりをしています。たとえば、「界 熱海」には「あたみ梅の間 特別室」という熱海梅園に因んだ梅がテーマの部屋があり、音楽の都と言われる楽都「界 松本」のご当地部屋は「オーディオクラフトルーム」がテーマ。松本のクラフト文化と音楽の要素がインテリアを飾る、モダンな「ご当地部屋」があるように。それぞれの「界」の‘ご当地部屋’を通して、知らない伝統文化に出会うことなど、旅の情緒は確実にランクアップします。

紺碧色の部屋の窓に秋の情景が映り、人工物の無いまる秋盛りの紅葉はまるでフレームの中の油絵のように美しい。
温かな温泉が何よりも嬉しい、冬を迎えた「界 秋保」の客室。
開湯や発見の伝承が古代にまで遡(さかのぼ)るまさに日本を代表する‘古湯’のひとつ。大浴場には岩造りの露天風呂もあり、渓流音を聞きながらゆったりと。

さらに仙台と言えば、歴史上の人物‘伊達政宗’が浮かびます。「界 秋保」では、食事もモダンな伊達の陣羽織をモチーフにした先付けや数々の料理が塗りの脚付膳に並びます。仙台麩、牛テール、海の幸、仙台味噌など、味自慢のご当地食材が、大名の食事をイメージした脚付きの御膳で供され、しばし大名気分を味わってはいかがでしょう。

毎夜開催される‘ご当地楽’にも参加しました。軍旗のモチーフが目を引く宴空間に誘われ、酒の歴史の話から宮城の地酒を味わうために、伊達の殿様流に声を発し‘乾杯’をします。そして最後には、参加者全員で伊達政宗の手拍子「三国一」を3と1の調子で打つ手締めをして解散、‘伊達の殿様’流で楽しいひと時を過ごしました。まさに「王道なのに、あたらしい。」という「界」のコンセプトは、ここ秋保温泉「界 秋保」にも随所に生かされ、温泉と歴史、土地の魅力を満喫する‘アクティブ・ラーニング’滞在となりました。

会席料理の始まりは、仙台麩に牛テールと仙台味噌のリエットをつけて味わう先付けから。大名をイメージした脚付き膳で運ばれる。
山も海もある宮城県。写真は贅沢な特別会席から「新伊達会席」の一品。米どころをイメージして牛肉を米俵のように見立て雲丹を巻いて、トリュフ入りの出汁にくぐらせる豪華な鍋。
面白く興味津々で楽しんだ「ご当地楽」のひとつ、「伊達な宴」。紺地に金の丸が輝く軍旗のモチーフが目を引く宴空間を舞台に、仙台藩にゆかりのある地酒で乾杯。酒席の心得が幾つもあり、出席者全員が声を挙げて楽しんだ。

取材・文/せきねきょうこ

Photo/界 秋保

せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト

スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数。

http://www.kyokosekine.com

Instagram: @ksekine_official

DATA

「界 秋保」

宮城県仙台市太白(たいはく)区秋保町湯元平倉1番地

界予約センター:050-3134-8092(9:30~18:00)

https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaiakiu/

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