星野リゾートが展開する温泉旅館ブランド「界」に共通するのは、「王道なのに、あたらしい。」というコンセプトです。

滞在することで温泉の知識はもとより、ご当地の伝統工芸、芸能、食、歴史を「界」を通して知見を深めるなど、日本の秘めたる面白さを再発見することも大きな楽しみです。

この連載では、ホテルジャーナリスト、せきねきょうこが日本中の「界」を旅し、その奥深い魅力に迫ります。


山口県の北部山間部に広がる長門湯本温泉は、約600年の歴史を持つ山口県最古の老舗温泉です。歴史あるこの温泉の開湯は‘神のお告げ’と言われ、大寧寺の定庵禅師が神と崇める住吉大明神からのお告げによって発見されたと伝わっています。古い歴史がある一方、この温泉街には、新しい未来プロジェクト「長門湯本観光まちづくりプロジェクト」が始まっています。ここではまず、星野リゾートが深くかかわり、先導する画期的な地域再生の‘まちづくり’についてご紹介しましょう。官民が連携し始められた計画の拠点となっているのが、星野リゾートの温泉旅館「界 長門」なのです。

「界 長門」の全景。趣のある日本家屋は江戸時代の「御茶屋屋敷」をデザインした造り。情緒的な趣が情景との一体感を感じさせる温泉宿。
広々としたロビー空間ではガラス越しに桜並木が見え、川沿いが春には百花繚乱の華やかな風景となる。

具体的には、2016年から山口県長門市と星野リゾートが協働する温泉街再生へ向けての取り組みがスタートしました。長門温泉の資料によれば、関係者の歓びが伝わる解説も見つかりました。『(略)2020年3月、「界 長門」の開業、地域の若手による立ち寄り湯「恩湯(おんとう)」の再建、既存温泉のリニューアルなどから、温泉街は晴れてリニューアルオープンを迎えました。温泉街全体をひとつながりの空間としてとらえ、街を流れる音信川(おとずれがわ)に沿って「外湯」「食べ歩き」「文化体験」「そぞろ歩き」「絵になる場所」「休む・佇む空間」 の6つの魅力が散りばめられています』とあります。

ご当地部屋「長門五彩の間」。地元工芸品の徳地和紙、萩焼、萩ガラス、大内塗が室内を彩り、地方に伝わる伝統に包まれる。
別館の1階には、広いリビングスペース、坪庭と露天風呂をしつらえた4室だけの特別室が。
大浴場。長門湯本温泉はアルカリ性単純温泉で、無色透明、アルカリ度も高く肌に柔らかな泉質。化粧水のようだと言われる美肌の湯。冬でも湯冷めをしにくい。一人旅も大歓迎の「界 長門」。

長門市、星野リゾート、地元地域が一体となったこの未来プロジェクトは、観光で癒される‘持続可能な温泉地’を目指すという取り組みです。2020年春には、「オソト天国」という言葉をコンセプトに温泉街が一新しました。源泉自慢の恩湯、雁木広場や川床テラス、萩焼カフェやご当地グルメ店が次々と開業し、川沿いのそぞろ歩きを楽しむ旅行者が増え、まさに「オソト天国」へと向かい始めたのです。

「界 長門」が起点となったこの未来プロジェクトは、「市民参加型プロジェクト」として一般公開されています。街の再生プロジェクトに賛同したまちづくりのキーマンである大谷山荘の大谷和弘さん、宿の改装をいち早く決めた玉仙閣の専務取締役・伊藤就一さんら、各旅館の若旦那集が共に中心的存在として活動。観光まちづくり振興のために、専門家の検討会議や住民のワークショップ、何度も重ねた意見交換会などを経て、官民連携の新温泉街誕生へと向かいました。表には見えない努力を重ねたサステナブルな地域再生の実績から、次々と新たな提案も生まれているようです。「界 長門」は命を吹き込まれたように輝いて見えます。星野リゾートには、今後も、北海道・弟子屈町 川湯温泉の「阿寒(あかん)摩周(ましゅう)国立公園川湯温泉街まちづくり」がプロジェクトにあり、同時開発計画の進む「界 テシカガ」の開業が待たれます。

伝統工芸の徳地和紙と肉厚のてっさ(ふぐの刺身)。山口県では縁起物の「福」とかけ「ふく」の愛称で親しまれる。
秋冬の特別会席では、メイン料理にふぐ刺し「てっさ」と、「てっちり」の界 長門風「源平鍋」(出汁やつけだれにみかんを使った鍋料理)を提供。
前を流れる川床テラスでは夕涼みがてらのそぞろ歩きも推奨、せせらぎの音や涼風に癒される。

「界 長門」の役割

山口宇部空港からは車で飛ばしても90分ほどかかります。到着した時に誰もが感じる桃源郷のような一画が‘山間の隠里’である長門湯本温泉です。全国に点在する「界」では、ご当地に伝わる文化や伝統、芸術など魅力を再発見し、旅の情緒を満喫できるよう、各客室のインテリアがその土地らしさで飾られ「ご当地部屋」として情緒たっぷりにゲストを迎えています。 

「界 長門」のご当地部屋は‘長門五彩の間’として、地元工芸品である徳地和紙、萩焼、萩ガラス、大内塗などが鏤められた客室デザインが目を惹き、窓からの景色と共に長門湯本温泉の山間の情緒を味わえます。「界 長門」は長門湯本温泉の中心地を流れる音信川沿いに建っています。

「界 長門」は開業以来、歴代の総支配人が個性を発揮し努力を積み重ね、スタッフ総出で温泉街の魅力づくりに闘志を燃やしてきました。宿には現在独自のアクティビティも数々揃い、朝の「ご当地朝食」の後、「現代湯治ウォーキング」や、赤間硯体験のご当地楽「大人の墨あそび」、温泉街の歴史にふれる「早朝参拝そぞろ歩き」、夜間景観を美しく撮影する「音信あかりみちさんぽ」など、スタッフが案内する興味深い提案が幾つも揃っています。「界」の醍醐味を満喫しながら、地元地域の伝統や歴史、魅力を再認識し、大いに楽しむ…、これが日本各地に点在する温泉旅館「界」の真骨頂であり使命でもあるのです。

取材・文/せきねきょうこ

Photo/界 長門

せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト

スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数。

http://www.kyokosekine.com

Instagram: @ksekine_official

DATA

「界 長門」

山口県長門市深川湯本2229-1

界予約センター:050-3134-8092

https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kainagato/

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