東京駅からは新幹線と伊豆急行を乗り継ぎ、最短90分ほどで到着する伊東。特急踊り子号(直通110分)なら、もう少し車窓を眺めながら旅の情緒が味わえるかもしれません。伊東温泉は、別府温泉(大分県)、湯布院温泉(大分県)と並ぶ日本三大温泉といわれ、有名な隣町の熱海温泉にも負けず、源泉数750本以上という静岡一の総湯量を誇る歴史ある温泉地なのです。
この伊東温泉の海沿いに「界 アンジン」があります。温泉旅館ではありますが、海の絶景を眺めるオーシャンリゾートの趣があります。アンジンという名は、漢字なら‘按針’と書き、日本の‘サムライ’となった初めての西洋人として知られています。16世紀に日本に漂着し、その後は徳川家康に仕え、日本名「三浦按針(ウィリアム・アダムス)」を名乗っていた英国人なのです。「界 アンジン」は、アンジンが西洋式の船を造船した所縁の地に建っているといいますから、滞在しながら歴史に想いを馳せ、かつての日本が世界に向けて門戸を開き、西洋文化到来の黎明期を彷彿とさせられます。

「界 アンジン」の客室は全室がオーシャンビューで、船旅をイメージしてデザインされています。東京からわずかな距離の場所に大航海時代のロマンを彷彿とさせてくれる…と、多くの滞在ゲストはこの温泉宿から太平洋の大海原を眺めそう思うに違いありません。その温泉ですが、館内には海を一望する大浴場が造られています。泉質は刺激の少ないアルカリ性単純温泉、夏祭り花火の時期には露天風呂にゆったりと浸かり、頭上で繰り広げられる日本の風物詩を鑑賞するのも醍醐味でしょう。湯上り処にはサンブエナデッキがあり、潮風にあたりながら快適な夕涼みが可能です。さらに‘湯上りドリンク’が用意された湯上り処では、IPAビール「インドの青鬼」やソフトドリンクを自由に飲むことができ、多くのゲストが集います。
夜に2度開催される「界」ならではのご当地楽では、「アンジン紀行」と銘うつショートムービーが開催され、按針と大航海時代のロマン溢れるストーリーを紹介しています。他にも土地に纏わる数々の「ご当地楽」やアクティビティが提案されていますので、お気に入りに参加するのも思い出作りになるでしょう。





誰もが期待する食事は、期待以上に喜ばせてくれます。新鮮な海の幸が並ぶほか、なんと三浦按針の出身である英国のエッセンスを加えた和会席が提供されています。夕食には英国式‘ハイティーツリー’をイメージした器で遊び心をくすぐり、また特別会席をオーダーすれば‘伊勢海老と金目鯛のブイヤベース会席’が豪華にテーブルを飾ります。伊東ならではの新鮮な魚介類が様々な調理法で提供され、都会では味わえないダイナミックな料理となって食を楽しませてくれるのです。「ご当地朝食」もボリュームたっぷり。地元の食材をメインに「界 アンジン」流の和食膳が用意されます。中でも英国伝統料理の野菜や豆類、きのこがたっぷり入った英国風スープ「スコッチブロス」が、和風仕立ての白味噌スープ(味噌汁)に姿を変え、朝食に華を添えます。細やかな日本流のもてなしと良質な温泉、満足度の高い食事、そして異国文化を感じながらの滞在は思い出深い旅となることでしょう。



取材・文/せきねきょうこ
Photo/界 アンジン
せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト
スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数、21年4月、新刊出版。
DATA
界 アンジン
静岡県伊東市渚町5-12
📞050-3134-8092(界 予約センター)