モデル、ライターを経て、現在は旅や美容を中心とした暮らしにまつわるコラムやエッセイを寄稿している前田紀至子さん。
これまで、さまざまなインテリアを探求してきた連載『家具を買う、家具と暮らす』がリニューアル。今回からは、『好きと共に暮らす』と連載名も新たに前田さんとともに、暮らしを豊かにするモノ、コトに触れていきます。


今回は特別に、前田さんとも親交の深いイラストレーターの湯浅 望さんをゲストに迎え、湯浅さんも足繫く通う『銀座 伊東屋』でK.Itoya B1階 フレームコーナー・マネージャー 黒木敦伸さんにアドバイスをいただきながら額縁をオーダーします。



誰もが知る

文房具の聖地『銀座 伊東屋』


創業は、1904(明治37)年で、119年の歴史を持つ『銀座 伊東屋』。その名の通り銀座の一等地にあり、赤いクリップが目印のビル一棟全て、文房具関連の商品を扱っています。

その本店のガレリアを通り抜けた先に、伊東屋の創始者、伊藤勝太郎のイニシャルを冠したもう一つの伊東屋、K.Itoya(別館)があります。




絵画をより美しく見せ、また飾られる部屋に調和するような額装を提案し続ける場です。額縁のサンプルは約1,500種類、マットサンプルは約500種類で、その組み合わせは無数。そこから洋服を選ぶように、お気に入りの額とマットのコーディネートを探します。




予算や部屋のイメージから

お気に入りの額を見つけ出す


前田さん「今日はせっかくなので、のぞみさんの絵を額装したいと思っています。額装はどんなふうにご相談すればいいのでしょうか?」


黒木さん「まずは、額装したい作品をご用意いただくこと、そしてイメージをお話いただくことです。まったくご要望やイメージが無い場合にはこちらからいろいろと提案させていただきながら、イメージを見つけていくという方法もあります。額とマット(額縁と作品の間を埋める厚紙)、色や素材の組み合わせは無数にあって、マットも2枚、3枚と重ねることもできます」


前田さん「私自身はいつもカジュアルな感じで、ドローイングやレコードのジャケットを飾るのが好きなんです。マットを入れると仰々しくなってしまうのかなと素人的には思ってしまうのですが、どうでしょうか」




黒木さん「絵をマットの上に乗せると、カジュアルな雰囲気がでますよ。紙を破った雰囲気を残すために、わざと影が出るようにすることもできます」


前田さん「なるほど。さりげない雰囲気でかわいいですね」


黒木さん「こうやって例を出して見ていくと『これは好き。これは嫌い』というのがわかってくるんですよ。その上で、じゃあその好きなものをどこに飾るかっていう話も加えて、だんだんと決まってきます。さらに重要なファクターとして予算をお伺いし、ご希望に合わせたものをご提案するようにしています」


前田さん「額の予算は想像がしづらいのですが、小さいから安いというわけではないんでしょうか」


黒木さん「そうですね。例えば、注文をうけたあとに木を削り始めて作る額があって、そういった特別なものはやはり高額になります。既製品ならもっと手ごろですし、小さな作品で、予算を抑えたいのであれば写真立てを使って3000円程度からでも額装が可能です」


前田さん「じゃあ、イメージと大体の予算があれば、目安ができるわけですね」


黒木さん「そういうことなんです。今回はどんなイメージを持っていらっしゃいますか」


前田さん「私の家にある額は、すっと細くて基本的にはメープルが多いんです。絵が力強いものだとグレーや黒にすることもありますね。今回はそこに入っても浮かなくて、なおかつ差し色的にコントラストの出るものがあるといいなって思っています」




黒木さん「そういった感じで揃えるのでしたら、細めの額で木を生かしたものや、グリーンや紺色が綺麗かと思います。ちょっと思い切るなら金色がぱっと入っても違和感はないかなと思います」


前田さん「基本的には木の素材感がある方向性が私はいいかもしれません。色付きの額も綺麗ですね」



プロならではのコーディネートで

絵がもっと美しく


前田さん「のぞみさんに提案なのですが、色付きの額に合わせた絵を描いてもらうことはできますか?」


湯浅さん「もちろんです。お気に入りの額を見つけたときは、それにサイズを合わせて切って、額を嵌めながら絵を描くこともありますよ」


前田さん「そういうことなら、ぜひお願いしたいです。絵を描いていただきながら、マットの色味を選ぼうと思いましたが、これはすごく悩みますね…」




湯浅さん「マットも単に白と言ってもスノーホワイトとかオフホワイトとかたくさん種類がありますからね。私は額装する作品を描く時には、色を複雑にするようにしているんです。どんな色味にも合うように、ちょっとマルチカラーっぽくしているんですよ」


前田さん「そうなんですね! この洋服の部分の色、お花みたいでとっても素敵です」




黒木さん「では、この絵に合わせながらマットを探していきましょう。白でもクリーム色っぽい白、赤みがかった白など絵に合わせて置いてみるとまた印象が違って見えると思います。また、2枚重ねで差し色を入れるのも素敵ですよ」


前田さん「確かに、ピンクっぽい白は、この絵が綺麗に見えるけど、黄色っぽい白だとちょっとくすんだ感じがしますね。これ、顔映りが良く見える洋服を探すのと似てますね」


湯浅さん「マットってこうやってプロにアドバイスをもらわないと、選ぶのが難しいんですよね。私はなかなか冒険できなくて、結局シンプルなものを選びがちで」


前田さん「私も何回か挑戦したけど、自分でやると無い方が良かったんじゃないか、という気持ちになるんです。のぞみさんも同じようなことがあるんですね」


黒木さん「小さな絵をたくさん並べて飾るときには絵のサイズぴったりの額でも良いですが、数枚を並べて飾るときにはマットの幅がある程度広いほうが、バランスよく見えます」


前田さん「これだけマットで雰囲気が変わるなら、額もほかの色味を合わせたくなってきました。この紫っぽい額だとフレンチな仕上がりになる気がしますね」




黒木さん「ほかにも合いそうなマットを出しますね」


前田さん「すごい! 私の好きなニュアンスカラーがどんどん出てくる…魔術師ですね」


黒木さん「マットの色だけでなく、切り方によってもまた印象が変わります。あとは、照明も考慮したほうがいいですね。白っぽいライトとオレンジっぽいライトでは全く見え方が変わります。この部屋にはいろんなライトを設置してライトに当てたイメージも確認いただいています」


前田さん「確かに、寝室は間接照明だったりもしますし、昼と夜でまた変わりますよね。先に選んだ緑か、紫っぽい額で迷います。のぞみさんだったらどっちにしますか?」


湯浅さん「緑のほうは優しい印象で、紫のほうがちょっとセクシーな感じがしますね。きしこさんの女性らしい部分が好きなので、紫かな。額の色の名前が『紫ねず』っていうのが、また私はぐっときてます」


前田さん「じゃあ、やっぱりこの紫かな。こうやって絞られていくんですね。最初はこれがいいと思っていたけど、やっぱりこっち…と」


湯浅さん「緑の額を乗せて描いたのに、不思議ですよね」


黒木さん「いま、絵の右上に額の見本を置いていますが、今度は左下に置いてみてください」


前田さん「あ、なんだかソリッドな雰囲気が出ました。面白い。こっちに置くと色が強く見えますね」




湯浅さん「こういうお話を聞いた後に、美術館に行くと、額装に目が行くようになりますよ。今まではさらっと絵しか見てなかったけど、『この額と合わせたか!』と(笑)」


黒木さん「それは完全に額屋の見方ですね(笑)」


前田さん「顔色も良く見えるし、マットのさりげない差し色も素敵で、この組み合わせに決めました。いつもこういう組み合わせが難しくて結局諦めるのですが、自己流が一番難しいんだと改めて気づきました」


湯浅さん「作家でもできないですよ。自分の絵は客観視するのが結構大変なので、提案してもらうとすごく新鮮に見えるんですよね。出来上がった額装の作品を見たら、さらに愛着がわきますよ。ほこり1つなくて、箱を開けた瞬間にものすごく感動します。カウンセリングしてもらってよかったなとか、あの人に額装してもらってよかったなとか、私はすごく心に残っています」


前田さん「出来上がりが楽しみです! 1回この体験をしたら、またほかの額装もしてみたいって思いますね」


黒木さん「ハマると額装が楽しくて、だんだん額に入れるものを探し始めるようになります。そうすると自分の好みだけではなく、いろんな可能性の扉が開かれて、複数の雰囲気の額が部屋の中に溢れてきて、それだけでまた新しい額が増えていくんです。私はこれを『額道楽』と呼んでいます」


前田さん「そうなる気持ちもわかります。昔、アート好きの人から、マットを切るのがうまいのは伊東屋さんだよ、と教えてもらったんです。だからいつか、私は伊東屋さんで額装できるようになるんだって憧れていたんですよ。今回のぞみさんの絵を素敵に額装していただくことになって一生ものになりました」


黒木さん「予算は5000円ぐらいでも可能ですし、もちろんご相談だけでも大丈夫ですから、気負わずにお越しいただきたいですね。額に入れるものも、お子さんの描いた絵でも好きな本の切り抜きでも、立体物でも素敵になりますから」


・今回の額装の参考価格

額5,300円、マット加工代4,350円(マット2枚使用) 合計9,650円(すべて税別)

納品までは7~10日程度 ※2023年3月現在。金額や納期は条件によって変わります


■取材後記


リニューアル後初の取材はイラストレーターの湯浅 望さんと共に、というなんとも贅沢な企画になりました。

のぞみさんがさらさらと魔法のように描いてくださったポートレートに、これまた伊東屋の黒木さんが魔法のように見立ててくださった額とマットを合わせて作りあげる作品。そうなると、もはやその瞬間から一生の宝物になることが約束されているようなものです。


ですが、宝物になるのは決して特別に描いてもらったイラストや高価なアート作品に限ったことではないでしょう。ご家族が書いたサンデー・ペインティングはもちろん、思い出の場所で購入した絵葉書や、記憶に残る展覧会で購入したポスター、お気に入りの雑誌を切り抜いたコラージュなど、額装を施すことできっと世界に一つの大切な宝物になるはず。


よく「日本人は比較的壁に絵や写真、アートを飾ることに慣れない」と言われますが、まずは気軽に一つ、何か飾ってみることで一気にハードルが下がると素敵だと思います。

もしも壁に穴を開けるのが嫌という場合は軽やかな額を選んでみたり、ラフなムードで床に直置きしてみても良いかもしれません。


ぜひ自分の感性を刺激する美しいものを額装して、より一層視界から暮らしを愉しんでみてくださいね。




銀座 伊東屋 本店

〒104-0061 東京都中央区銀座2-7-15

TEL:03-3561-8311

営業時間:平日 10:00~20:00 日曜・祝日 10:00~19:00 CAFE Stylo(G12階レストラン)11:30~21:00(L.O.20:00)

HP: https://www.ito-ya.co.jp/




前田紀至子

インスタグラム:@ki45m

Note:https://note.mu/kishikomaeda




湯浅 望

イラストレーター/アニメーター。水彩絵の具や万年筆で描く女性らしくファッショナブルなイラストが人気を集め、雑誌や書籍を始め、国内外のさまざまなブランドとのコラボレーションを展開。現在はニュージーランドを拠点として世界的に活躍の場を広げている。

2023年3月27日までPOLA GINZAにて『みどりのゆび展』を開催。

https://www.pola.co.jp/company/news/po20230222/index.html

インスタグラム:@joetonozomi

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