いまこそ摂りたい野菜、春菊

気づけばはや2月。年始のお雑煮や花びら餅の食べ比べと、食の楽しみの多い生活が標準になってしまい、例年この時期になると、ふと我に帰る。いくら食べてもお腹が空くし、毎日決まった時間にお菓子を食べる癖までついてしまって、体が重たい。そこで今月はからだに良くて、今だからこそ食べたい免疫力アップが期待できる春菊の黒胡麻和えをご紹介しよう。

苦手な野菜の上位にしばしば名前が上がる春菊。残念ながら年々収穫量が減少している食材だが、その効能は侮れない。春菊の独特な香りはa-ピネンという成分に由来しており、これは針葉樹林の空気中に含まれている香りと同じもので、体をリラックスさせてくれるし、ペリルアルデヒドには強い抗菌作用があり、食中毒を防いでくれるとも言われる。地中海沿岸が原産の春菊は、西洋では花を観賞する植物として育てられた。やがて中国に伝わり、初めて食用として栽培されて、食べる風邪薬として重宝されるようになった。感染症が流行している今のような時期には、ぜひ積極的に摂取したいものである。


身近なのに奥深いごまの話

今回春菊に合わせたのは、黒練りごま。

紀元前1世紀頃、西域(胡)から渡来した油分を含んだ種子(麻)として、胡麻と呼ばれるようになった。原産はアフリカのサバンナ地帯で、日本では縄文時代からすでに存在していた。ごまは和食には欠かせない食材の1つだし、ごまそのものでなくても、ごまから作った油を常備している家庭も多いのではないだろうか。それだけ身近な食材であるが、実際のところ99パーセント以上を輸入に頼っているという驚くべき事実がある。


※写真は左から、いりごま・すりごま・ねりごま

ひとえにごまと言っても、まず皮の色で白・金・黒と違いがあり、さらにそこから、いりごま・すりごま・ねりごまと細分化される。いりごまはその名の通り、ごまの粒の形をそのまま残した状態で煎ったもの。すりごまは、いりごまの粒を擦ったもの。擦るという言葉を忌み嫌い、すり鉢をあたり鉢とも呼ぶことから「あたりごま」と表現されることもある。さらに練りごまとは、ごまの粒がなくなりペースト状になるまで練り上げたもののことを指す。

今回は春菊のような個性のある食材にぴったりの黒ごまを使用する。また、練りごまは自ら煎ったり擦ったりする手間が省けるので家庭料理との相性が良いように思う。



使った器は、現在の中国杭州付近の越州窯で10世紀頃に作られた青磁稜花盤。

どこか金属器を思わせるような薄作りで、シャープさの感じられるもの。規則的な輪花とは異なり、不規則な口縁に魅力がある。またとろっとして鮮やかな青みの青磁とは違い、マットで灰褐色がかった黄緑色が特徴的だ。



越州窯では三国時代(220~265)に青磁が完成し、紆余曲折ありながら、5つの王朝と地方政権が興亡した五代十国時代(907~960)に発展を見せた。この器は晩唐から五代十国時代のものだと思われる。この頃は外国との貿易も盛んで、我が国にも多くの中国磁器が舶載された。平安時代の「源氏物語」や「宇津保物語」では、当時もたらされたこれらの青磁について触れられている。その奥深い色合いから「ひそく(秘色)」と呼ばれことのほか珍重された。古典文学にも登場する青磁だが、今自分の手の中にある器は、どのような歴史を辿ってきたのだろうかと想像するのはロマンがある。前の時代を否定するように破壊が繰り返されてきた中国、そして自然災害で多くの美術品が失われてきた日本で、ほとんど無傷で生き残っている姿を見るだけでなんだか励まされるような気持ちになってしまうのだ。

春菊の黒胡麻和え


―材料(2人分)

・春菊 1パック

・黒練り胡麻 10g

・砂糖 6g

・醤油 2g

・味噌 7g

・水 5g

・すりごま 適宜


①鍋でお湯をたっぷり沸かし、分量外の砂糖を加える。目安は小さじ1程度。春菊の茎側から湯に入れる。20~30秒ほど経ったら全体を入れて、食感が残るように1分弱さっと湯がく。



②春菊を冷水に取り、水分をできるだけしっかりと絞る。食べやすい長さに切り分ける。

③タレを作る。分量の黒練り胡麻、砂糖、醤油、味噌、水をよくかき混ぜておく。

④タレに②の春菊を加えてよく混ぜる。

⑤器に盛り付けたら、上から香ばしいすりごまをかける。好みで海苔を散らしても。


(撮影・古本麻由未)



今回の器との出会いはこちら。

大熊美術 Okuma Gallery

「今を貫く美しいものをテーマに、遥か過去の人が美しいと思い、今も美しく、未来の人たちが見ても美しい中国陶磁器を中心とした古美術品」を扱っているお店。



※完全予約制

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HP http://okumagallery.com/

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料理家 千 麻子

学習院大学で美術史と経営学を専攻し、博物館に勤務。美味しいもの好きが高じてフランス随一の美食の街、リヨンのInstitut Paul Bocuseで料理を学び、ランスのレストランL’assiette champenoise(ミシュラン三つ星)の厨房で研鑽を積む。
Instagram: https://www.instagram.com/asako_sen/

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