友人が訪ねて来たら連れて行きたいお気に入りの店が誰にでもひとつはあります。街の人々に愛される店こそ、胸をはって紹介したい“わが街の味”。この連載では、そんな街で人気のお店を紹介しています。今月は豪徳寺にある南チロルの郷土料理にこだわったイタリアン。世界中の料理が集まる東京といえども、他では味わいない料理が満載の稀有な一軒です。
紹介する街●豪徳寺
【南チロル料理】
日本人も親しみやすい
山のイタリアが育んだ郷土料理
三輪亭は、南チロル料理に特化したちょっとニッチなレストランだ。南チロル地方はイタリア北東部、オーストリアと国境を接するトレンティーノ-アルト・アディジェ州にある。南チロルという地名は、オーストリアの領土であったことに由来するのだとか。この地方は海から遠い山岳地帯として、バラエティに富んだ乳製品や燻製した生ハムなどの肉の加工品が発達した豊かな食文化を築いている。
「日本人にはあまり馴染みがありませんが、
南チロルはヨーロッパではリゾート地として人気の場所なんですよ」
と話すのは店主の三輪学さん。
イタリア修行時代を南チロルで過ごし、その料理の魅力にすっかりはまってしまったのだという。南チロルの郷土料理はもちろん、サラミや生ハムなど、肉の加工品も本場仕込みの製法ですべて手作りする職人気質の料理人だ。
「現地のレストランのように、家族で来てもらえる店にしたいと思っていました。
そこでお子さんやお年寄りにも親しんでもらえるように
店名も覚えやすく『三輪亭』としたんです」と三輪シェフは笑う。
あえて住宅街に店を構えたのもそんな思いがあったからだ。木の扉を開くとアットホームな雰囲気が漂う店は、思い描いた通りの温かい場所になった。創業して16年が経ち、家族連れで長く通ってくれる常連も多いという。
三輪シェフのスペシャリテは『自家製ハトサラミの盛り合わせ』。本場仕込みの肉の加工品は他ではなかなか味わえない『三輪亭』ならではのお楽しみだ。肉にさまざま具を混ぜて四角くかたどりした『フライッシュケーゼ』を始め、モルタデッラ、スモークした生ハム『スペック』やスモークしたパンチェッタなど10種以上の自家製サルーミ(肉の加工品)の盛り合わせは圧巻だ。生ハムやパンチェッタをスモークするのは、南チロル独特の手法なのだという。またシカやイノシシなどのジビエを使ったものもあり、こちらは長崎県・対馬の猟師から送られてくる食材を使っている。
三輪シェフは農家直送の野菜など産地から送られてくる食材も積極的に取り入れている。その理由を聞くと、
「発注するのではなく、おまかせで届く野菜で料理を考えることや、
知らない野菜を調べたりすることで発想力がつきます。
作りたいものをただ作るよりも、与えられた素材をどう生かすかを考えることで、
料理人としてのスキルも磨かれると考えています」と教えてくれた。
この日、三輪シェフが作ったもう一品は、南チロル風オムレツだった。メレンゲ状に泡立てた卵を使ったオムレツで、スフレのようにふわふわ。中からトロリとチーズがとろけだし、食べ出すと止まらない。
三輪亭は人気店としてもの地位も確立しているが、コロナ禍にあって変わったことも多かったという。その一つが、得意の肉の加工品の製造を増やし、飲食店などへ卸を始めたこと。そのために座席数を少し削って店の中に工房を造った。フロアには製品を熟成されるセラーが並べられ、その様子はテーブルからも眺められる。またテイクアウトを始めたことで、多くの人に『三輪亭』の料理を知ってもらうきっかけとなったそう。
今まで少し敷居が高いと思っていた地元の人たちが、レストランへ来てくれるようになったのだとか。店の前には冷凍の自動販売機を設置し、より多くの人に南チロル料理を届けることができるようにもなった。
特別な日に家族でわが街のレストランへ行けるのは何よりも幸せなこと。それが『三輪亭』のような唯一無二のレストランであればなおさらうれしい。きっとかけがえのない家族の思い出となってくれる。
cucina tirolese 三輪亭 per famiglie
クッチーナ チロレーゼ みわてい ペル ファミッリエ
住所:東京都世田谷区豪徳寺1-13-15 ツノダ第1ビル1階
電話:03-3428-0522
営業時間:11:30~15:00(LO14:00)、18:00~22:00(LO21:00)
テイクアウト:11:30~14:00LO※15時閉店、18:00~20:00LO ※受け取り20:15まで
定休日: 火曜、水曜(祝日の場合は翌日休)、不定休あり
※掲載価格は税別価格です(2022年12月現在)
取材&文/岡本ジュン 写真/マツナガナオコ