友人が訪ねて来たら連れて行きたいお気に入りの飲食店が誰にでもひとつはあります。街の人々に愛され、みんなが通い続けるレストランこそ、胸をはって紹介したい“わが街の味”。この連載では、そんな街で人気のレストランを紹介しています。今月は大人が住まう街・たまプラーザ。落ち着いた住宅街で愛され、育てられた、蕎麦の名店をご紹介します。


紹介する街●たまプラーザ

【蕎麦】 

古い建具や道具類に囲まれた

居心地のいい空間もごちそう

手打そば 風來蕎

てうちそば ふうらいきょう

高級住宅街であり、広い空と豊かな自然を併せ持つたまプラーザは、ゆったりとした街の空気感が魅力だ。そんなこの街で14年前に開店したのが『手打そば 風來蕎』。以前は駅の反対側にあったが、7年前に駅の南側へ移転し、さらに雰囲気の良い広々とした店となった。

ミシュランガイド横浜で、毎年1つ星を獲得し続けているだけに、蕎麦はもちろん、工夫を凝らした美しい料理にも定評がある。ご主人の吉田多加展(たかのぶ)さんは食べることが大好きという。あちこちを食べ歩くことも多く、若い頃にフレンチレストランなどでアルバイトをした経験もある。そんなことが「料理を考える上で役立っているのかな」と笑う。


長いカウンターや坪庭を眺めるテーブル席、古民家の建具など情緒ある設えが日常を忘れさせる。


蕎麦前という言葉があるように、蕎麦屋には酒とあてを楽しむ文化がある。最近では居酒屋顔負けの多彩な料理を出す店も増えているが、吉田さんが作るのはそこからさらに一歩進んだモダンな和食だ。鮮魚のカルパッチョはジュレにしたソース添え、自家製の鴨の生ハムもある。魚のソテーには青菜のソースなど、日本酒だけでなくワインともよく合うメニューが多い。


前菜盛り合わせ コース5500円より
左から、鴨の生ハム、鯛のよせもの しょうがソース、自家製のゆばさし、鮮魚のカルパッチョ シークワサージュレとポン酢ジュレ


実は吉田さん、前職は舞台制作などの仕事をしていたそう。しかし独立後に問題に直面し、転身を考えていた頃、八王子の蕎麦店『車家』に出会った。すぐに「求めていたものはこれだ!」と直感して蕎麦の世界に飛び込んだという。そう聞くと意外な転身にも思えるが、自身の中では違和感がなかったという。


真鯛のソテー 青菜のソース 5500円のコースより
5500円のコースは、前菜、蕎麦がき椀、季節の料理2品、天ぷら、蕎麦、デザート。写真は季節の魚料理。前日までの要予約、2名~(数量限定)


「お蕎麦屋さんは、蕎麦を食べるだけの場所ではなく、例えば古民家のような建物や器、空間、そして料理やお酒も含めてトータルプロデュースができる仕事だと気が付きました。そこで過ごす時間も含めて楽しんでもらう場と考えると、その世界観を作りあげることは、自分がやりたかったことの延長線上にあると思えたんです」と吉田さん。


新潟産常陸秋蕎麦、茨城・会津、長野など、選び抜いた国内産蕎麦を自家製分で手打ちにする。


それに目の前ですぐに結果が出るのもうれしいという。映画の制作では、構想から結果が出るまでに数年かかることはざらだが、飲食の場合は、目の前のお客さんの反応ですぐにリカバリーや修正ができるからだ。


吉田さんがセレクトする日本酒のラインナップも充実。


今では、ミシュランガイドで星を獲得するほどの店に成長したが、オープンした頃を振り返ると、まだまだ至らないことは多かったという。それでも一生懸命に頑張る姿を、地元のお客さま達が支えてくれたのが励みになった。ときには、着物でサービスする奥様に高価な着物を譲ってくれたり、手塩にかけた盆栽を季節ごとに店に飾るように貸してくれたり、食べに来るだけでなく、温かく見守ってくれる人ばかりだったという。

一流を知り、それを惜しみなく若い店に伝えていく。そんな大らかな住民との上質な交流が生まれる街こそ、いい店が育つ街の条件なのかもしれない。


住所:神奈川県横浜市青葉区新石川3-13-26 オリエンタルビル1F

電話:045-507-7803

営業時間:11:30~LO14:30、18:00~LO20:30

定休日: 火曜夜、水曜、第3木曜

12月30、31日は夜のみ営業(完全予約制、コース料理)

※掲載価格は税別価格です(2021年12月現在)

(取材&文・岡本ジュン 撮影・貝塚隆)

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