アートファンなら絶対見ておきたい、至宝の数々がそこに。
世界でも稀に見るような、長い芸術の歴史を紡いできた日本。鮮やかな色彩、大胆な構図、繊細な細工。ときには驚くほど現代的で、遊び心に満ちた造形もあったりして、日本美術の世界は、私たちが想像する以上に、多彩で自由な魅力にあふれている。
そんな日本の美、しかも至宝とも呼べる作品たちを、東京の真ん中で楽しむ絶好の場所が誕生する。それが11月3日にグランドオープンする皇居三の丸尚蔵館だ。
この幕開けを記念して開催されるのが展覧会「皇室の至宝 ― 美いづるところ」。正倉院の宝物から、狩野永徳、伊藤若冲など絵師たちの傑作、そして美術品や工芸品など、約190件の名宝を紹介するもので、私たちが教科書や美術本などで見るような国宝や重要文化財も数多い。

丸の内、大手町のとなり、大手門の先に。
皇居三の丸尚蔵館は、皇室に代々受け継がれた絵画、書、工芸品、歴史資料などが1989年に国に寄贈されたのを受け、その保存と研究、公開を目的に1993年に開館した。そして、2019年からは収蔵庫と展示室を拡充する新たな施設の建設が進められてきた。
今回の展覧会は、2027年1月24日までの期間中、前期・中期・後期の3部構成からなり、展示作品を期ごとにすべて入れ替えながら、日本の美の多様な表情を紹介していく。
千年の時を超えて輝く、装飾の美。
まず注目したいのが、前期に登場する正倉院宝物だ。正倉院といえば、日本史の学習に出てきたことを覚えている人も多いだろう。奈良にある東大寺に建物が現存するが、そこには聖武天皇と光明皇后ゆかりの美術工芸品などが収蔵されていた。今回の展示では、この正倉院宝物が初めて皇居内で展覧される。

たとえば《八角鏡 平螺鈿背》(はっかくきょう へいらでんはい)は、中国・唐時代の8世紀に作られた鏡で、その背面には螺鈿(らでん=貝殻の真珠層の輝きを木地や漆面の表面に嵌め込む装飾技法)の華麗な装飾が施されている。細やかな文様が織りなす色彩と素材、煌めきの競演は、まるで精巧なジュエリーのようだ。

また《螺鈿紫檀琵琶》(らでんしたんびわ)も見逃せない。しずくのような美しい琵琶の造形に、流麗な文様と、精巧な螺鈿の装飾。こうした鏡や楽器という実用の道具に、贅を尽くした装飾を施す・・・。1200年以上も前の工芸品に、すでに美しいものを日々の暮らしに取り入れ、それを愛でるという、今と変わらない豊かな感性が息づいていたことに、心を動かされる。
伊藤若冲や、めったに見られない狩野永徳の名画まで。
日本美術といえば、まずは余白を生かした静寂の表現や、わび・さびといった奥ゆかしさを思い浮かべるかもしれない。しかし、この展覧会では、華やかで力強い、もう一つの日本文化の側面を見ることができる。

前期には、江戸時代中期の京都の絵師、伊藤若冲(1716〜1800)の《旭日鳳凰図》が展示される。これは京都・錦小路の青物問屋の跡継ぎとして生まれた若冲が、その家業を弟に譲り、自分は画業に専念することを決意した年に描かれた作品。若冲ならではの精密な描写と鮮やかな色彩で、想像上の霊鳥である鳳凰が表現されているが、動植物の生命感や現実を超えるような独創的な世界は、当時の他の画家にはなかったスタイルだった。
彼はこののち、《動植綵絵》という30幅からなるシリーズを描き、現代では日本美術の代表作の一つとして国内外で注目を集めている。今回の展覧会に引き続き開催される皇居三の丸尚蔵館グランドオープン記念特別展の第二弾「国宝 動植綵絵 いろどりの世界」(2027年2月4日から開催予定)で30幅を一斉展示するという極めて貴重な機会があり、これにも注目が集まる。

そして後期に登場するのは、室町時代中期から安土桃山時代、江戸時代末期まで画壇の中心にあった絵師集団、狩野派の名画。今回はこの画派のなかでも代表的な絵師、狩野永徳(1543〜1590)と狩野常信(1636〜1713)が残した《唐獅子図屏風》(国宝)がお目見えする。
狩野永徳は、その力強い構図や緻密な画風で織田信長や豊臣秀吉らに気に入られた。安土城や聚楽第(じゅらくだい)の障壁画などを描いたが、戦国時代で建物ごと焼失、破却された作品も多く、48歳という若さで亡くなったこともあって現存作品が多くない。彼の特徴でもある迫力ある構図と戦国時代の豪放な美意識を感じるマスターピースともいえるこの《唐獅子図屏風》は、絶対に見ておきたい一枚だ。
今ではそこに、のちの世の狩野常信が永徳の図柄に呼応するように描き加えた左隻(させき、一対になった屏風絵の左側のこと)と合わせた一双として伝わっている。二人の「狩野派」の競演を比較してみるのも楽しい。

教科書で見たあの絵から、鎖国時代の世界地図まで。
「どこかで見たことがある」作品を、本物で体感できる機会は貴重だ。「細部はこんなことになっていたのか」「迫力が違う」など、自分の記憶との比較でより深く鑑賞できる。その代表が、後期に展示される国宝《蒙古襲来絵詞》(もうこしゅうらいえことば)。鎌倉時代、二度にわたる蒙古襲来、いわゆる「元寇」の様子を描いた絵巻である。歴史の教科書などで見たことのある人も多いのではないだろうか。

この絵巻の主人公は蒙古軍と実際に戦った肥後国の御家人・竹崎季長で、自らの戦いぶりを描かせたものとされる。勇ましい鎌倉時代の武士の奮闘ぶり、蒙古軍の装束や武器、戦場の緊張感までが生き生きと伝わってくる。

中期には、少し珍しい作品も登場する。《萬国絵図屏風》(重要文化財)だ。描かれたのは、江戸時代の17世紀。南蛮貿易やイエズス会宣教師の渡来によってもたらされた西洋の地図などをもとに制作されたものだという。海の向こうにどんな文化があり、どんな人々が暮らしていたのかという、当時の日本人が抱いた「世界への好奇心」が伝わってくるようで興味深い。
日本美術の歴史をたどる出会いを、皇居の森で。
このほかにも、古くは飛鳥時代の名品から、最近では近代の美術・工芸まで、千年以上にわたる多彩な作品が紹介される。私たちはつい「日本美術」を、日本のなかで完結したものとして見てしまいがちだが、中国や朝鮮半島、あるいはさらに遠い異国の文化を取り入れながら、独自の美を創りあげてきたのだとわかる。
同時に、今と変わらない感性や観察眼、時には卓越した技術や圧倒的な絵心で多様な芸術のスタイルを生みだしてきたことも、この皇居三の丸尚蔵館を通じて知ることができそうだ。
皇居東御苑の緑に包まれながら、時を超えて受け継がれた美に浸る。都心の美術館巡りの時間に、ぜひ加えてみたいスポットだ。


皇居三の丸尚蔵館グランドオープン記念特別展
「皇室の至宝—美いづるところ」
会場:皇居三の丸尚蔵館
会期:2026年11月3日(火・祝)〜2027年1月24日
〈前期〉11月3日(火・祝)〜23日(月・祝)
〈中期〉11月26日(木)〜12月20日(日)
〈後期〉12月23日(水)〜2027年1月24日(日)
※〈前期〉〈中期〉〈後期〉ですべての作品が入れ替わります。
※日時指定予約制
休館日:月曜日(ただし2026年11月23日、2027年1月11日を除く)、および11月24日、11月25日、12月22日、12月28日〜12月31日、2027年1月1日〜1月3日、1月12日
開館時間:午前9時30分〜午後5時(入館は午後4時30分まで)、毎週金曜・土曜は夜間開館。午後8時まで開館(入館は午後7時30分まで)
詳しくは展覧会ウェブサイトへ
https://shozokan.nich.go.jp/feature/grand-opening/beauty/index.html
※記載情報は変更される場合があります。
※最新情報は公式サイトをご覧ください。
(文)杉浦岳史/文筆家、アートナビゲーター
広告コピーライターとして活動しながら2009年に渡仏。美術史やアートマネジメントを学ぶパリ芸術高等学院(IESA)を修了。パリで独自の展示企画やコーディネートに携わる。現在は京都を拠点に、15年間のパリ滞在をもとにポッドキャスト配信、アート・工芸の学びと実践の場「Curiozika」の運営に携わる。
Instagram : @paritore_podcast
















