フローリストの福寿満希さんは、「みんなみんなみんな咲け」と願いをこめたスローガンを掲げるフラワーショップ・ローランズの代表を務めます。ローランズでは、花のギフトや空間装飾の制作に、障害や難病と向き合うスタッフが多数参加しており、従業員142名のうち100名以上が当事者として活躍しています。花と人がともに咲くための環境づくりやその根底にある想いを伺いました。

※「障害は本人にあるのではなく、社会側にあるもの」という福寿さんの考えの元、”しょうがい”の表記には害の文字を使用しています。

子どもたちの夢を実現したいという想いからローランズ創業へ

――ローランズ創業のきっかけを教えてください。

学生時代に特別支援学校の教員免許を取得したことが大きいです。教育実習で子どもたちと触れ合う中で、お花屋さん、ケーキ屋さん、パイロットなど、みんな本当にいろんな夢を語ってくれました。

ただ当時の就職率は23.7%という現実がありました。また就職できたとしても選択肢はとても狭く、ほとんどが清掃の仕事。もっと幅広い選択肢がある社会になってほしいと強く思いました。

その時は手段も分からなかったのですが、「今は選べない職種を提供できる会社をいつか自分で作りたい」と、心の中で決めたことが創業につながっています。

――その後、実際に創業するまでの経緯を教えてください。

大学を卒業して社会人になりましたがうまくいかないことも多く、心が鬱々としていた時期がありました。そんな日々の中、通勤途中にお花屋さんがあって、前を通るたびに心がリセットされる感覚があったんです。それがきっかけで花を生活に取り入れるようになり、仕事帰りに勉強も始めました。

そして学生時代、担当していたクラスの子が「お花屋さんになりたい」と言っていたことを思い出して、「花の仕事なら、いつかあの子たちの受け入れ先を作れるかもしれない」と思うようになりました。思いと経験が重なり、23歳で独立しました。

――社会人をしながら2年で起業されるのはすごいですね。

私自身、「普通」と言われることがうまくできない、納得できないことがあると前に進めない性格です。そんな私には、決められた時間に出社して上司が帰ったら帰る、という時間や規則に応じた働き方が合いませんでした。

特別支援学校の子どもたちも「普通じゃない」と言われることがあるけれど、それはネガティブではなく、むしろ違いがあることは良いことことだとも思っていて。違いが肯定されず否定されることに違和感がありました。

だからこそ、特別支援学校の子どもたちの居場所、そして自分の居場所を自分で作ろうと思ったのが起業の理由の一つです。細かく考えると怖さはあったと思いますが、自宅の一角で個人事業主として始めたスモールステップだったので、ハードルはあまり感じませんでした。

――そこからどのように障害者雇用につながったのでしょうか。

「子どもたちの夢を叶えたい」という思いはありましたが、最初は目の前の仕事に精一杯で、やりたいけれどできないという状態でした。

身の丈に合った仕事をコツコツ積み重ねて、3年目にようやく「就労継続支援A型」の事業で障害者雇用をスタートました。 A型は、すぐに一般企業などで働くことは難しくても、福祉的サポートがあれば働き続けられる方と雇用契約を結び、仕事の訓練として提供する仕組みです。そうした制度をうまく活用しながら、障害と向き合う当事者の方々の雇用をスタートしていきました。

――スタッフとの会話で印象に残っていることはありますか?

初めて障害者雇用で採用したスタッフから「仕事をくれてありがとう」と言われたことが、とても印象に残っています。そのスタッフは精神障害を理由に一度仕事を離れた経験があり、再び働き始めるまでにはさまざまなハードルがありました。だから「仕事があることが本当に嬉しい」と伝えてもらった時、胸に響きました。

それまでは、仕事を作ることに必死でしたし、スタッフの給料を払うために自分の給料が出せない時期もあり、人を雇うことはなんて大変なんだろう、と感じていました。

でも、そのスタッフの言葉で、雇用することって、なんて素晴らしいことだと心から思えるようになりました。

今でも、お給料の振込日は一番嬉しい日です。「この数字を噛みしめてくれる人がいる」と思いながら振り込めることは、給与を払う側の醍醐味だと感じています。

――多様な人材を採用されているの中で感じているのは、どんなことですか?

現在、ローランズでは多くの障害と向き合うスタッフが働いています。なかでも精神障害の手帳保持者が多く、障害者手帳を持つスタッフの約8割を占めています。自社だけでも約80名の精神障害の当事者が働いていますが、社会全体で見ると精神障害の方は特に働き盛りの世代で年々増えていますし、働く中で突然発症することも多い障害です。

精神障害と向き合う方が抱える困難は、外からは気づかれにくいことがあります。だからこそ、そうした見えない困難と向き合っている人たちが、より長く働き続けられる環境づくりをしっかり整えていきたいと思っています。

例えば、ローランズでは仕事上の上司とは別に、もう一つの相談先として、精神面や生活上の悩みを相談できる「ヒューマンサポートチーム」という部署を設けています。従業員が心の状態を崩す前に、気軽に相談できる場所をつくることで、孤立をなくすようにしています。

こうした工夫は、ほかの企業にも役立つ形にしていきたいですね。

人と比べなくていい、誰もが咲ける場所がある

――お客様には、お店でどんな時間を過ごしてほしいですか?

店舗では、障害者が作りました、とは打ち出していません。一番伝えたいのは、人と比べなくていい、誰もが活躍できる場があって、「誰もが咲ける」ということです。

「誰もが花咲く社会」が実現した状態とは、隣にいる人を咲かせられる人があふれている状態だと私たちは考えています。そのために、ローランズがこれまで大切にしてきたことを「人を咲かせる人であれ」という、9つのバリューにまとめました。

そして、その価値観を社内だけのものにするのではなく、商品やお店を通じてお客様にも感じていただきたいと考えました。そこで、ローランズの商品のラッピングペーパーには、バリューのうち8種類それぞれの言葉とイメージ画像を掲載しました。8種類すべて集めていただくと、9つのバリュー「百花」が完成するという仕組みです。

花を贈る時は、言葉を添えることが多いですよね。ただ花を贈るだけではなく、人との関わり方が少し良くなるような言葉が添えられていると、人が花咲くということにプラスの影響があると思っています。

「みんなみんなみんな咲け」という社会づくりに、店舗で感じること・商品を手にとっていただくことを通じて参加していただけたら嬉しいです。

――商品での特徴はありますか?

ドライフラワーを取り扱っていますが、最も多くの当事者スタッフが参加して制作しています。特徴的なのは、一つの商品に最大で30人ほど関わって作ることもあるという点です。工程を10個に分けて、それぞれが得意なことを担当しながらつないでいく。通常の花屋では一人が一つの商品を最初から最後まで作るのが一般的ですが、その常識をひっくり返して、多くの人が関われる製造体制をつくっています。

――ファームの運営や、コーヒー店とのコラボレーションなど、幅が広がっていますね。

お花屋さんをやっていると、市場からは規格ぴったりのお花が届くんですよね。例えばひまわりなら、花の輪が10センチ…とか。

一方で農場に行くと、規格に収まらない花たちがたくさんあります。そういったお花もローランズは使っていくべきじゃないか、という話が出て、横須賀の農家さんに協力いただき、季節のお花を栽培・出荷するファームの立ち上げができました。ここでは、10名の当事者スタッフが花作りに従事しています。

コーヒーに関しては、カフェでコーヒーを提供する中で、もっとスキルアップしたいという当事者スタッフからの声があがってきたことがきっかけです。北参道エリアのコーヒー焙煎店と連携し、コーヒーバッグ「花咲くブレンド」を開発しました。コーヒー豆の選別やパッケージ封入、検品作業などの工程に当事者スタッフが関わっています。「バリスタを目指したい」「焙煎士になりたい」など、コーヒーの専門家としてステップアップしたい思いを持つ仲間とともに、今後も技術開発を進めていく予定です。

私たちの事業づくりは、お客様からの「こういうものを作ってほしい」という声と、当事者の「働く嬉しさ」が重なった時に新しい展開が生まれることが多いです。

――最後に今後の展望があれば教えてください。

これまで多くの企業が見学に来てくださったのですが「同じようにはできない」と、障害者雇用を諦めてしまう企業を何社も見てきました。

もっと多くの企業が取り組めるようにしたい。その思いから障害者の共同雇用という新しい雇用の形を開発し、推進に取り組んでいます。

ローランズに仕事を発注していただくと、その仕事をもとに新しい雇用を作り、それを両者の雇用としていく。算定特例制度を使うとそれが可能になります。

今は不動産、飲食、石鹸メーカー、法律事務所など多様な20社と障害者雇用を進めています。

「誰もが咲ける」社会のために、強いモデルケースをローランズから作っていきたいですね。

福寿満希(ふくじゅ・みづき)さん

株式会社ローランズ代表取締役、一般社団法人ローランズプラス代表。1989年石川県生まれ。大学卒業後、2013年に株式会社ローランズを設立。複数の中小企業が実雇用率を通算できる事業協同組合算定特例制度を活用して、企業が共同で障害者雇用の拡大に取り組むウィズダイバーシティ有限責任事業組合の発起人でもある。

ローランズ原宿店

住所:東京都渋谷区千駄ヶ谷3丁目54−15 ベルズ原宿ビル1F

営業時間:平日:11:30-17:00(L.O.16:30) 土日祝:11:30-19:00)(L.O.18:30)※営業時間が異なる場合や、臨時休業がございますので予めご了承ください

TEL:03-6434-0080

HP:https://lorans.jp/

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