行けば必ず心ときめく瞬間に出会える──誰にでもそんな一軒があるもの。この連載では、素敵なライフスタイルを送る方のお気に入りのお店で、生活にプラスしたいモノ・コトを一緒に探します。 前回に続き登場していただくのは、ファッションコーディネーターの佐藤匠さん。今回訪れたのは、行くたびに新たな驚きに出会えるというレストラン「AGUNÌTE(アグニテ)」。ソムリエでもある店主、そして茶師の話に耳を傾けながら、ペアリングを楽しみました。

料理と飲み物が対等に語り合う、AGUNÌTEのペアリング
目黒不動尊のほど近くに佇むAGUNÌTE。店名は、不動尊にちなんで火を司る神・アグニから名づけられました。 文化が交錯する東京という土地で、日本の食文化をただ踏襲するのではなく、日本の風土に多様なカルチャーを重ね合わせ、一皿の中に新しい日本料理を描いています。料理を手がけるのは、パリの日本料理店でミシュランの星を獲得したシェフです。

ここで、ぜひ味わってほしいのが、料理と互いの個性を高め合うペアリングです。アルコールはナチュールワインや日本酒、ノンアルコールは茶葉やスパイスをその場で調合しながら淹れるブレンドティー。脇役ではなく、料理と対等に語り合う存在として味わいを広げてくれます。

そして何よりの楽しみが、幅広い知見を持つスタッフとの会話です。
料理の味や香り、道具や所作の美しさ、心地よい空間、そして店主や茶師から共有される知識。五感が自然とひらいていくような、ここにしかない体験が待っています。
空間や道具一つひとつに表現を宿す

店内に入ると、まず目に飛び込んでくるのは大きなカウンターテーブル。
匠さん「このダイナミックなカウンターがあって、洗練された空間で味わえるのがまた特別ですよね。内装でこだわった部分はどこですか」
店主「コンセプトとして“両義性”をどう表現するかを考えました。漆喰に赤を入れてブラウン寄りにし、岩肌・木肌の生命感を出す一方で、硬質でクラシックな白漆喰のシンプルさも残す。その両方を一つの店の中で表現したかったんです。さらに火を見せたいという想いがあり、日本らしい炭火の燃える表情が見える設計にしました」

匠さん「食だけでなく、音楽やアートにも通じる感性がありますよね。歴史や文化がお好きなんですか?」
店主「開業にあたり様々な本を読んで学びを深めたんです。飲食業界で働く中で、食の技術はあっても、食文化や食のリテラシーを理解している人は少ないと感じてきました。例えば中国では縦なのに日本では箸を横向きに置く理由など。受け取る側は難しく考える必要はありませんが、提供する側としては知ったうえで配置することで、使うものひとつひとつに表現が宿ってくるんです」

五味五色五法を映す、野菜の盛り合わせ
今回の料理は、AGUNÌTEらしい特徴のある三品。一皿目は野菜の盛り合わせです。


店主「日本料理でよく使われる“五味五色五法”を表現した一品です。野菜は日によって変わりますが鎌倉野菜を使い、『とうふ工房 ゆう』のとうふや味噌をベースにしたドレッシングで仕上げています」
匠さん「五法は、生・茹で・焼き・揚げ・漬けですね。どれも野菜本来の味わいがそのままで嬉しいです。五色を色紙で表現しているのも素敵。お店の皆さんが手作業で紙を切っているんですよね」
店主「そうなんです。この料理は、グラフィックデザイナーの原 弘さんが紙の専門商社・竹尾と開発した紙を見て着想を得ました」

合わせるアルコールはナチュールワイン、アレクサンドル・バン ラ・ルヴェ・トラント・トロワ・モワの白。
店主「ナチュールワインの豊かさで全体を包みながら、このワインだと余韻に品種由来の野菜っぽさと青リンゴのような香りが出るんです。それで余韻を引っ張るようなイメージです」
匠さん「その青リンゴの清涼感が、野菜との相性がよく、すっきりしますね」

ノンアルコールは、みなみさやかの茎茶とウーロン茶、三年番茶を合わせたブレンドティー。
茶師「茎茶は“萎凋(いちょう)”という製法で、しおれさせることで香りを引き出しています。しおれるというと一般には悪いイメージですが、良い面もある。どんなことにも良い面があるというメッセージを込めています」
匠さん「冷たいのにこれだけ香りが立つのが不思議ですね」
茶師「茎茶を軽く焙じることで香ばしさと風味が出ます。それを氷で急冷することで、冷たくても香りが立つんです」
杉板の香りと、日本酒・スパイスの効いたブレンドティー
次は白身魚の杉板焼き。じっくりと燃える杉の木に白身魚が覆われ、香りが移っていきます。

店主「見た目も味わいも、こういった形にすることで僕らが目指している料理になると思っています」

合わせるのは日本酒。
店主「新政の最上級ライン “Astral Plateau” のひとつ、異端教祖株式会社。白麹を使っていてすっきりしていますが、それだけじゃなく、温度が上がると酸が主体になり、シャープさが出る。白麹は焼酎で使われる麹なので、酸がキレるんですよね」

匠さん「その酸のためか、ワインのような風味も感じられますね。杉板の香りを邪魔せず、ほんのり漂います」
店主「香りが華やかなワインだと味がぶつかってしまうので、魚の風味と杉板の香りの下にすっと入って支えるイメージのお酒を合わせています」

合わせるお茶は、クロモジや干し柿の皮、ジュニパーベリー、旨みのある緑茶などをブレンドしたもの。
茶師「焦げた杉板の香りだけに寄せず、フレッシュな香りを加えることで、魚の甘さやタレとのつなぎ役になると考えました。今回はスパイスを挽く道具の違いも楽しんでいただきたくて薬研(やげん)を使います」
匠さん「スパイスと言うと乳鉢のイメージがありました」
茶師「もちろんそれも良いのですが、硬さのあるものをすりたい時や、大きさが必要な時があって。そして薬研の“動き”を取り入れたいという想いがありました」
匠さん「そうした動きも含め、お茶を目の前で淹れてもらう所作の美しさまで楽しめるのは贅沢ですよね」
変わらないおいしさをシンプルに
三皿目は和牛の炭焼き。

店主「コースの後半のメインプレートとして出しています。和牛の味をまっすぐ楽しんでいただきたいので、手を加えすぎないようにしています」
匠さん「ほかのお料理は季節で変化しますが、この和牛ステーキだけは変わらないですよね。やわらかくて、誰が食べても美味しいと感じられるお肉だといつも思います」
店主「合わせるのはこちらもシンプルにおいしい、クラシックな赤ワイン『マルク・ロワ ジュヴレ・シャンベルタン ヴィエイユ・ヴィーニョ』です」
匠さん「もう間違いのない組み合わせですね」

お茶はサイフォンで抽出する、AGUNÌTEを象徴するブレンドティー。

茶師「番茶をベースに11種類の素材を合わせています。懐かしさがありつつ、ほんのりオリエンタルな香りがあって。これはお店で初めてブレンドしたお茶。東京でお店を開くにあたって、いろんな要素が自然と入ってくると思うんです。そのひとつひとつの風景が目に浮かぶような香りになればと思って素材を選びました。お肉料理と合わせることを考えて、ボディがしっかりとした味わいにしています」
匠さん「香りの重なりがあって、スイーツをいただいているような幸福感があります。このお茶だけでも味わいに訪れたいと思うほどです」
取材後記
空間と料理、お酒やお茶、そして皆さんとの会話。そのすべてが融合して「完璧」と思わせてくれるお店がアグニテです。 今回は3種のペアリングを楽しみました。普段はワインを飲むことが多いのですが、ここでは日本酒など種類が豊富で、いろんな出会いがあります。また、お茶はその場で淹れる所作を見ているだけでも楽しく、まるでもう一つコースを味わっているかのような満足感。今、ノンアルコールペアリングのお店は増えてきていますが、ウーロン茶だけ、ジュースだけというお店もまだ多い。その中で、ここはお酒を飲めない人もペアリングの楽しみを共有できます。 食事をしに来たはずなのに、ただ「おいしい」だけではなく、たくさんの知識や気づきを持ち帰ることができる、そんな特別な時間がここにはあります。

佐藤 匠(さとう・たくみ)さん
大学卒業後は大手商業施設に就職し、バイヤー、ディレクターを務める。
2019年よりファッションコーディネーターとして独立し、さまざまなブランドのスタイリング、商品企画、などファッションに携わる活動をスタート。
食や暮らしに関する発信も同世代の女性たちから支持される。
Instagram:@hello_takumi

AGUNÌTE
アグニテ
住所:東京都品川区西五反田5-11-14
電話:03-5747-9727
営業時間:11:30~15:00 (L.O. 14:00)、17:00~2:00(L.O. 1:00)、日曜20:00~2:00 (L.O. 1:00)
休日:月~水曜日
Instagram:@agunite.jp
取材・文/SUMAU編集部 撮影/古本麻由未
















