いよいよ春本番。山菜や二枚貝と色合いも嬉しい今日この頃。とはいえ、日々献立に頭を悩ませてしまうものだが、この原稿を書いている今日3月3日は、ちらし寿司にしようと決めている。桃の節句は女の子の健やかな成長を祈る日であり、そこには確かに華やかな料理がよく似合う。実際にそういう理由で江戸時代に定着したらしい。

ちらし寿司が、大切なお祝いの日であったり、お客さまをおもてなしする際の一品に選ばれるのはとても納得がいく。それは一品であるにも関わらず、海のもの、山のものと多くの材料を集める必要があり、さらに煮たり焼いたり酢漬けにしたりと工程が多く手がかかるからでもある。手軽で時短なものが優先されが ちな昨今、それでも丁寧に誰かを思って作る食事は尊く、そういったものはずっとずっと心に残ってゆくものだと思うのだ。

そんなちらし寿司だが、もとは岡山県に起源があるとされている。鎌倉時代、備前福岡の料理屋で出された混ぜ飯に、酔っ払った武士が酸っぱいどぶろくを混ぜたという。これが思いの外美味しかったことがきっかけになったというのだ。時は進み江戸時代、池田光政の治世に大洪水が起きた。財政再建の必要が叫ばれ、民衆には倹約のため一汁一菜令が発令された。そうは言われてもね……、では1つに纏めてしまいましょうかということで、桶の下に具材をたっぷり敷き詰めて、卵を乗せて、その上からお米で覆ってしまえば上から見ればシンプルなご飯。そして食べる時にひっくり返すと、あら、びっくり!私たちに馴染みのある、ちらし寿司のスタイルになったそうだ。

ちらしと言っても関西と関東ではやや趣が異なる。関西のものは味付けをした乾物などを甘めの酢飯に混ぜ込んで、上からは火の通った海老や穴子などの材料を散らす。生ものは使わず、米の部分を五目ごはんと呼ぶ。

一方で関東のものは、米の部分はシンプルな酢飯。上からは鮮魚を散らす。大きめに切り分けられた魚がのっていると豪快な海鮮丼という雰囲気だし、細かく刻まれた具材が宝石のように並べられると途端にハレの気分が出る。個人的には甘めに仕上げられた五目の混ぜ飯に、漬けなどにした生の刺身を乗せた、いわば関西と関東の両方の要素を取り入れたものが好みなので、今回は我が家の五目ちらし寿司をご紹介したい。

器は呉須染付寿龍文皿だ。景徳鎮で作られていた古染付とよく似ているが、これは中国南部、福建省の漳州窯(しょうしゅうよう)で明時代終わりから清時代初めにかけて焼かれていた呉須(ごす)染付と呼ばれるものだ。日本からの注文で作られた古染付に比べて、伸びやかで勢いのある線が特徴で、高台には焼成時の砂がベッタリと付いている。一般的に染付とは酸化コバルトを主成分とする藍色の顔料のことを指す。かつてこの染付がどこで作られていたか判明していなかった時期に中国南部を当時日本では呉須と呼んでいたことから、呉須染付という名称になった。漳州窯で作られた呉須手の多くは見込みに円が描かれ、中と外と柄や文字が描き分けられている。魯山人の福の字が中央に描かれた有名な染付の器は、呉須手から影響を受けており、その本歌とも呼ぶことができるだろう。

この器は見込みに寿の字が描かれた晴れやかなもの。「寿を司る」という字面の良い「寿司」を、寿の字が描かれた器に盛り付けることで、これからの卒業、入社入園という節目をお祝いしたい。

五目ちらし寿司と呉須染付寿龍文皿

―材料(3〜4人分)

  • ご飯 600g
  • 鯛 1冊
  • 鮪 1冊
  • 卵 2個
  • 茗荷 適宜
  • 絹さや 適宜
  • 海苔 3~5g

――酢飯

  • 米酢 100g
  • 砂糖 100g
  • 塩 15g

――かんぴょうの甘煮

  • かんぴょう 20g
  • 塩 30g
  • みりん 50g
  • 砂糖 60g
  • 醤油 40g
  • 出汁 75g
  • 酒 75g

――どんこ(干し椎茸)の煮物

  • どんこ 8枚
  • みりん 30g
  • 砂糖 30g
  • 醤油 30g

――菜の花のおひたし

  • 菜の花 適宜
  • 出汁 300g
  • 薄口醤油 10g
  • 塩 2g

1、寿司酢を作る。米酢100g、砂糖100g、塩15gを合わせて火にかけて混ぜて溶かす。酢飯用に60gを取り分け、残りは茗荷の酢漬け用に置いておく。

2、かんぴょうの甘煮を作る。

20gのかんぴょうをハサミで食べやすい長さ7cmくらいに切っておく。これをボウルに入れてひたひたの水を張り、10分ほど置いてから水気をしっかりと取る。

ここへ塩15gを入れてしっかりと揉み込み、さらに塩15gを加えてよく揉む。すぐに水で洗ってから、

かんぴょうが柔らかくなるまで10~30分ほど落とし蓋をして茹でる。これをザルなどにあけて粗熱と水分が切れたら、

別鍋にみりん50g、砂糖60g、醤油40g、酒75g、出汁75gを入れ、落とし蓋をして煮しめる。

3、どんこの煮物を作る。どんこを一晩水につけて戻してから、軸を切り落とす。みりん30g、砂糖30g、醤油30gとひたひたの戻し汁と強めの火にかけてアクを取ってから、火を弱めて落とし蓋をして煮しめる。

4、菜の花のおひたしを作る。出汁300g、薄口醤油10g、塩2gの地を作っておく。菜の花を短時間茹で、粗熱を取ってからここへつける。

5、海苔を火で炙ってパリパリにし、手で細かくしておく。

6、米を炊いておく。

7、錦糸卵を作る。全卵2個をよく混ぜて、一度漉してから、薄く焼く。テフロンの場合は油をひかないほうが綺麗に焼ける。これをくるりと丸めて細切りする。

8、絹さやは、ヘタと筋を取ってから分量外の塩を入れた湯でさっと茹でる。

9、茗荷の酢漬けを作る。茗荷を1分ほど湯掻き、水気を切ったら1の寿司酢につける。

10、鯛を薄切りにする。鮪も薄切りにし、分量外の醤油につけておく。

11、飯台に米600gを入れる。杓文字に寿司酢60gを伝わせるようにしながら米にかけて混ぜる。

かんぴょうのみじん切り50gと、どんこのみじん切り50g、海苔を加えて混ぜる。

12、器に米、茗荷の酢漬け、錦糸卵、鯛、鮪、絹さや、菜の花の順に重ね、さらに茗荷をもう一度乗せる。

料理家 千 麻子

学習院大学文学部哲学科および経済学部経営学科を卒業し、同大学史料館に勤めた。また美味しいもの好きが高じて美食の街、リヨンのポールボキューズ料理学校をはじめ、国内外問わず料理を学び、フランスではミシュラン3つ星のレストランの厨房でも研鑽を積む。

Instagram:@asako_sen

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