フランスの暮らしとデザインを紹介する連載の17回目は、1985年の創刊以来、フランス国内外のデザインシーンに多大な影響を与えてきたデザイン雑誌『Intramuros』の創刊者であるシャンタル・クラヴィエ=アマイドさんの14区のメゾンをご紹介します。

Chantal Clavier-Hamaide(シャンタル・クラヴィエ=アマイド)/南西部出身。パリ国立高等装飾美術学校(ENSAD)でインテリア建築を専攻後、ジャーナリストを経て1985年にデザイン誌『Intramuros』を創刊。32年間にわたり編集長や審査員、展覧会のキュレーターを務め、デザインを社会変革のツールとして提唱し、世界的なクリエイターを数多く見出してきた。その多大な功績によりレジオン・ドヌール勲章等を受章。現在はその豊かな審美眼を活かしてセミナーなどの活動を行う。インスタグラム@chantal_hamaide
中庭の緑を眺めながらくつろぎの時を過ごせるリビング。窓のそばにル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアンらが手がけたソファ「フォートゥイユ グラン コンフォール プティ モデル」、ハリー・ベルトイアがデザインした「ダイヤモンド チェア」を置く。

 パリ14区は、古くから多くの芸術家たちが居を構えエリア。シャンタル・クラヴィエ=アマイドさんが住む家もその一つだったという。

「私がこの家を購入したのは1983年のこと。1940〜50年代にかけて建てられたこの建物は、かつてアーティストのアトリエだったと聞いています。ここ14区には、今もそうした創造の場がたくさん残っているのですよ」とシャンタルさん。

リビング全景。グレーのソファの後ろに寝室へ向かう廊下があり、赤い絵の左がキッチンへの入り口。奥の窓があるスペースはダイニング兼シャンタルさんの仕事場。
左・本棚の前の長椅子は、アルゼンチンに生まれ、スイスを拠点に活動を行うアルフレッド・ハベリがデザインした、モローゾ社の「テイク ア ライン フォー ア ウォーク」。右・窓際に置かれる深澤直人のランプ「アマミ」はダネーゼ・ミラノ社から販売。シャンタルさんのお気に入りのひとつ。

 アーティストのアトリエは、北向きの部屋に作られる。その理由は、時間によって刻々と変化する直射日光は創作の妨げになることがあるが、北向きの窓から入る光は、一日中安定しており、色を正確に捉えることができるから。アトリエとして使われた北向きの大きな窓を残すこのメゾンは、二度の大きな改装を経て、現在の姿となったという。

アルミのテーブルはジャン・ヌーヴェルがデザイン、イタリアのモルテーニ社が製造した「レス レス テーブル」。手前のグレーの椅子はアメリカ人舞台演出家・ビジュアルアーティストであるロバート・ウィルソンが彼の舞台のためにデザインした「ハムレット マシン チェア」。黒の椅子はブルレック兄弟の「スティールウッド チェア」。シルバーのテーブルランプは、ミケーレ・デ・ルッキの「トロメロ ミディ テーブル」。壁に貼られたイラストは、20世紀を代表するデザインのパイオニア、ガエターノ・ペシェがシャンタルさんに描いてくれたもの。「私がライトのよう(に明るい)とメッセージ入りです」
本棚の上に名作椅子のミニチュアをディスプレイ。

 「入居の際に建築家のフィリップ・ボワスリエに改築を依頼し、サロンとダイニングの間にあった壁を取り払うなど大きな工事を行いました。実は隣にもアパートを所有していて、この家と繋げた居住空間だったのですが、3人の子供が自立したこともあり、一部を売却しました。建築家になった長男が改築を担当し、現在の形に整えました。広さは約100㎡で、こことは別に1階にゲスト用の独立した住居があり、姪が住んでいます」

 長女は「ディオール」でデザインを、次女は隈研吾のパリ事務所に勤務。長男は大手建築事務所に所属し、つい最近まではレンゾ・ピアノの事務所で働いていたという。「子供たちがデザインの仕事を選んだことがとても嬉しいです」とシャンタルさんは微笑む。

寝室。アルネ・ヤコブセンの「エッグチェア」が空間にアクセントを加える。

 シャンタルさんはパリでインテリアデザインを学び、1985年にデザイン誌「イントラムロス」を創刊。32年にわたり編集長を務め、デザインを「社会変革のツール」と定義して世界中の才能を見出してきた。文化省によるフランス国立産業デザイン大賞、世界最大級のインテリア&ライフスタイル見本市であるメゾン・エ・オブジェの「クリエイター・オブ・ザ・イヤー」の審査員、パリ、ミラノ、ロンドン、ニューヨークにおける展覧会のキュレーターとして活躍。その功績によりレジオン・ドヌール勲章、芸術文化勲章を受章した、フランスデザイン界の重鎮の一人だ。

寝室のコーナー。ピエール・ガリッシュがデザインした1950年代のテーブル。写真は日本の盆栽アート。ランプはアルネ・ヤコブセンが手がけた「AJ テーブルライト」。

 室内を彩るのは、彼女の審美眼が選び抜いた名作家具やオブジェ。「デザイナーが情熱を込めて作り上げた『仕事』そのものを尊敬し、集めてきました。デザイン、素材、機能、パフォーマンス……そのすべてを考えながら、情熱を込めて創作をする彼らの姿勢を素晴らしいと思います。わたしはピュアなデザインに惹かれます。1950年代の人々はとても美しい視点を持っていました。それまでフランスでは、デコラティブデザインが主流でした」

バスルーム。浴槽の上の絵はフランスの重鎮アーティスト、ジェラール・ガルーストの作品。手前はフランソワ・アザンブールがデザインしたフランス初のカーボン製の椅子。シャワールームは入り口が2つあり、写真の左奥からも入れる構造。

 自らもパリでインテリアデザインを学び、その知識をもってデザインのジャーナリストとして数多の現場を歩んできた彼女。「私は服も黒が好きですし、インテリアも白と黒が中心。私も子供たちも、語りすぎるものより、ストリクト(厳格)なミニマリズムを好むのです」

シルバーのシステムキッチンはイタリアのALPES社へオーダー。「好きなものを選んで組み立てられます」
左・よく使うキッチンツールは手が届きやすい場所に並べる。「調理道具は使い勝手が良い日本のものが多いですね」とシャンタルさん。右・調理台を立ててスペースを広く使うこともできる。

 仕事で世界中を飛び回ってきたシャンタルさんにとって、日本は特別な場所。「もう旅は充分ですが、日本にはまた行きたいですね。岐阜で見た包丁作りの工程は実に見事でしたし、日本の庭や建築、そして無印良品のようなデザインにも、共通する『本質』を感じます」

ジャン・プルーヴェ、アルネ・ヤコブセン、フィリップ・スタルク、ジャスパー・モリソンなどの名作椅子が並ぶキッチン。テーブルはベルギー製、ランプはスペイン製。

 「今は、デザインがより『社会的なもの』へと変化しています。環境への責任を持ちながらもの作りを行わなければなりません」 そう語る彼女の眼差しは、流行ではない、デザインの未来を見つめています。

 「良いものは永遠です。よくできたものはいつまでも使えます。例えばフランスのミッドセンチュリー期を代表するデザイナーであるピエール・ガーリッシュの家具は、シンプルですが秀逸です。ブルレック兄弟の仕事もそう。彼らは、時を経ても失われない価値や、長い間、継続して使えるものを見据えてデザインをしているのです」

左・国際的に活躍するアーティスト、フィリップ・ワイズベッカーの作品。「彼はパリ国立高等美術学院の同窓生。古い友人です」右・イケアにオーダーした引き出し式の棚には食器やグラスを収納。

 ボルドー近郊の海辺で育ったシャンタルさんは、現在、自然豊かな海辺の家へとパリを行き来する暮らしを送っている。 「そこは、建築が好きだった祖父が、祖母のためにデザインした家。それを相続して大切に守っています。パリに戻れば、近所に住む息子や、娘たちがここへ集まり、賑やかに語り合います」

ステンドグラスと床のタイルは建物が造られた当時のもの。「家の原点を残したかったので、ここには手をつけませんでした」

 かつてのアトリエに築かれたこの場所は、いまや家族全員にとっての「Maison de Famille(家族の思い出が詰まった特別な家)」。デザインという共通の言語を持つ家族が、それぞれの日常を持ち寄り、対話を重ねる場所となっている。

撮影/齋藤順子(Yolliko Saito)

(プロフィール)

(文)木戸 美由紀Miyuki Kido 文筆家
女性誌編集職を経て、2002年からパリに在住。フランスを拠点に日本のメディアへの寄稿、撮影コーディネイターとして活動中。株式会社みゆき堂代表。マガジンハウスの月刊誌「アンド プレミアム」に「木戸美由紀のパリところどころ案内」を連載中。

Instagram:@kidoppifr

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