「Inspiration Life」では、さまざまな分野で活躍されている方のご自宅を訪ね、ルームツアーのように空間を巡りながら、暮らしのこだわりや仕事への想いを伺います。

空間設計士としてホテルを中心にした空間を手がけてきた水村真理子さん。その経験や感性をいかし、築45年のマンションをフルリノベーションして暮らしています。家具やタイルまでも自作したという徹底したDIY、そこから生まれた人とのつながりなど、水村さんらしさの詰まったご自宅について語っていただきました。

過ごし方も含めた空間を提案する空間設計士

――「空間設計士」はどういったお仕事なのでしょうか。

ビルや建物の骨組みや躯体を設計するゼネコンや建築家と、家具や小物の配置を考えるインテリアコーディネーターのちょうど間のような仕事で、私は「空間設計士」と呼ぶようにしています。インテリアデザイナーというと家具のコーディネート、建築家は建物そのものを作る方を指すことが多いのですが、私の場合は内装の設計にフォーカスした仕事と言えるかなと思います。床や壁、家具や照明など人が一番触れる空間を、建築的な目線で設計していく仕事です。 

――これまでどういったお仕事をされていたんですか?

比較的ホテルが多いのですが、最近では京都・銀閣寺の近くにある「うたひ」という一棟貸しの宿を手がけました。陶芸家の方が営む宿で、1階に居間、地下に寝室とお庭がある 斬新な空間なんです。そこでは設計のほか、お客様にどう過ごしてもらうのがよいか、プロジェクトの初期段階から体験プログラムもオーナーと一緒に考えました。庭で体調に合わせた薬草を摘んでハーブティーにしたり、お灸をしてもらったり、自分とゆっくり向き合う時間を過ごしてもらうリトリートの場所になりました。

そんなふうに空間以外にも、何を着るか、食事はどうするかなど、施設全体のブランディングまで気にしながら組み立てていくことが好きですね。そのほうが空間が生きるし、一貫したメッセージが伝わり、お客様にも心地よく過ごしてもらえるんです。 

――お仕事をされる上で、大切にしていることは何ですか?

スタイルが決まった作品を作るアーティストと違って、デザイナーは人の悩みを解決し、人が思い描く理想の世界観をオーダーメイドで叶える仕事。その人の暮らしや大切にしていることを何度もヒアリングして、その人が過ごしやすい動線や雰囲気の空間を導き出すことを大切にしています。 

――インスピレーションはどこから得ることが多いですか?

私は人と会うことや、旅先で新しいものを見ることを大事にして、一人で黙々と考えないようにしています。週に1〜2回は人と会っていろんな話をしてヒントをもらうこともあるし、隙間時間で展示会に行ったり日帰り旅行をしたり。昨年は何度も京都に行き、初めてオーストラリアに一人旅にも行きました。移動距離が長くなるほどクリエイティビティが高まることがあるので、できるだけ動いて頭を柔らかくするようにしています。

――特に印象に残っている場所はありますか?

京都には何度も行くうちに、心が落ち着く場所になってきて、今は故郷のように感じています。もし次に自分で新たな挑戦をするなら、京都でやってみたいと思うほど。私は生まれも育ちも東京ですが、仕事を通じて家族のように仲が深まり、環境にも馴染めたのは新しい感覚ですね。

築45年のマンションをフルリノベーション、DIYにもチャレンジ

――今のお部屋に住み替えたきっかけは?

以前は中目黒の賃貸に7年ほど住んでいました。便利な場所でしたが、賃貸なので満足な空間にできないまま人をおもてなししているのがストレスで。人のためにはデザインしているのに、自分のためには全然できていないと感じたんです。

そこで探し始めたら、1軒目でこの物件に出会い、築45年と古いマンションですが一目ぼれ。もともとは2DKで部屋が区切られていて狭く見えました。壁は一面に収納棚があり、印象もかなり違っていましたね。そこをワンルームにして、真ん中に円卓を置きたいというのが最初のイメージ。四角い部屋だとそれが叶いやすいし、窓が一面で採光が良く、もうここしかないとすぐ購入を決めました。ここで自分が満足できる空間づくりの実験をしてみよう!と。

そこから4か月ほどかけて設計し、壁と天井の取り壊しや水回りなど大掛かりな部分は工事を依頼。仕上げは自分の手でDIYしました。金額は抑えつつ理にかなった家にしたくて、プロジェクターを投影する壁、メイク時に光を反射させる壁など壁は必要なところだけ。他は糊の剥がし跡も味わいとして残しています。

――DIYのご経験はあったのでしょうか?

全くありません。でもずっと自分でものを作りたい思いがありました。仕事では職人さんがいるので自分が作るわけにはいきませんが、自分の家なら自分がクライアント。ここでやるべきだと思いました。壁塗りも床の染色もタイル貼りも、できるところは全部やらせてくださいとお願いして、工務店の方に教わりながら作り上げました。

――多くのご友人が手伝いに来てくれたとか。

人生で一番高い買い物をしたこのプロジェクトを、自分だけで終わらせるのはもったいないと思って。家づくりを見る機会ってなかなかないですよね。そこで、普通は完成後にお披露目するところを、工事前から工事中、完成まで5回ほど集まる日を作りました。DIYを手伝いたいと来てくれる友人も多く、みんなで作り上げた家になりました。本当にやってよかったです。

ルールを作らず寛容に。人とモノが集まる空間

――リノベーションのテーマを教えてください。

人が集える場所、そして飽きずに過ごせる場所。
「今から家に行っていい?」と聞かれたら慌てて片付けるのが普通ですが、人が来る前提だと絶対に片付けるし、空気も綺麗になって頭もすっきりする。健康的に過ごせるんですよね。なので、人を呼べる家というテーマは自分のためでもあります。実際は、すぐ散らかっちゃうんですけどね(笑)。

――テーマに合わせた設計のポイントはどこですか?

人がたくさん来られるよう、なるべく広いスペースを作りました。畳スペースは寝室にもなるし、布団をしまえばお茶会もできる。空間を有効に使うためにいろいろ兼用できるようにしています。また、円卓・畳・ソファと大きく3エリアに分け、床はカーペットにして、床・ソファ・椅子と座り方も3種類。コンパクトでもバリエーションを作ることを心がけました。

――収納もたっぷりですね。

ものが多いので、収納を作りつつ狭くならないよう、畳スペースの床下はすべて収納に。そして全部しまうのは大変なので、本棚や靴などは見せる収納にしています。

――見せる収納でもごちゃつかないポイントはありますか?

「これだけしか置かない」と決めないこと。例えば白だけにすると赤を置いたときに目立ってしまう。色も形も絞らず、和も洋もジャンルのない空間を目指しました。決めごとが多いと「これ移動しちゃいけないのかな?」と気になってくつろげないので、何でも受け入れられる寛容な家にしたいと思っています。

お揃いにしない、インテリア選びのコツ

――インテリア選びのこだわりはありますか?

インテリアは必ずお揃いにしないようにしています。器もペアで買うと3個目が仲間外れになるので、あえて形が違うものを選ぶ。そうすると一人の時も選ぶのが楽しいし、何人来ても同じ仲間として使えます。小物を並べる時は3つずつ仲間を作るように置くと、なんとなくまとまって見える気がします。

――円卓の椅子もすべて違いますが統一感がありますね。

家具は既製品からコンセプトに合うものを選ぶのが難しくて。それなら自分で設計したほうが合うものができると考え、テーブルはDIYで作りました。椅子は一人では作れないので設計だけして工場に依頼。ファブリックやレザーなど素材はバラバラですが、形に統一感があって兄弟のような雰囲気が気に入っています。

――畳スペースのテーブルのタイルもお手製なんですね。

とても人気のある陶芸家の阿部慎太朗さんと仲良くしていただいていて、「タイル焼きたいんです」とダメ元で相談したら、「僕もお皿しか焼いたことないけど窯を使っていいよ」と言ってくださって。そこから工房に4回ほど通い、型を作り粘土を作り…1か月ほどかけてタイルを完成させました。お忙しい中で楽しんで一緒に作ってくださって、今は新たなお仕事もご一緒しています。家づくりで人の輪が広がるのも嬉しいですね。

タイルまで手作りしたテーブルの天板

――特に気に入っている場所はどこですか?

奥行きたっぷりのソファスペースでリラックスすることが多いです。太陽を見ながら足を伸ばして本を読んだり、壁に映画を投影してゆったり観たり。友人が泊まれるようベッドにもなる設計なので、寝転がるのも気持ちいい。フレキシブルなところが気に入っています。

暮らすほどに新しい発見がある

――この部屋での暮らしで感じられていることはありますか?

畳スペースは個室感を出すために両サイドにカーテンを作りました。このカーテンレールが意外と便利で半乾きの洗濯物を干せることにも気づきました。こんなふうに生活しながら気づく面白さがあります。最初から全て計算して設計するのは難しいので、「こういう使い方もあるんだ」と発見するのが楽しい。そうした気づきは、次に取り入れてみようかと、仕事にもつながることもありますね。

――そんな家の様子をインスタグラムで発信されていますが、どういった想いがありますか?

みんなで作った家なので、その後どう使われているかも共有したくて。一人の時はこう、人を呼んだ時はこう、と。完成して終わりではなく、完成してからどう変化していくかも見守ってもらえたらなと思っています。アカウント名「マリコテ(@malycote)」も、友人たちがつけてくれた愛称で、マリコ邸が変化したもの。家のことをそんな風に親しみを込めてみんなが自然に呼び出してくれたのが嬉しいですね。

――これからこの家をどう変化させていきたいですか?

将来的にはもっとオープンな場所にしていきたいですね。友人以外にも触れてもらえるよう、撮影スタジオとして使ってもらったり、ワークショップをしたり、いろんな人が借りられる場所にしたいと思っています。人の目に触れることで、また新しい使い方が見えてくるのではないかという気がします。

水村真理子さん

空間設計士。多摩美術大学にて、建築、インテリア、ランドスケープを学ぶ。ムラヤマ、CHANELにて空間設計とブランディングに携わる。「歴史の継承と更新」をテーマに、経年変化が楽しめて、何年経っても鮮度が落ちないタイムレスな空間づくりを目指す。近作に、設計からブランディングも伴走した、京都・銀閣寺近くの一棟貸しの宿「うたひ」がある。

水村真理子さんInstagram:@malycomizumura

マリコテInstagram:@ malycote

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