数年前のことだが、「あなたが好きそうだったから」と言って主人が手土産を持って帰ってきた。それは上品で柔らかく暖かみのある土に、銹絵(さびえ)と染付で穏やかな線描の松が描かれ、口縁は輪花形になっていて華やかさもある器だった。一眼見て好きになったこの向付はいわゆる古清水と呼ばれる焼き物で、それは京焼の一種である。

もともと京都では長く焼き物は作られてこなかった。それは京が都であるが故、各地から焼き物が集まっていたためである。しかし桃山時代の茶の湯の人気により、市中でも器が焼かれるようになった。初期は高麗や唐物の写しから始まり、次第に裕福な町人の求めに応じて、豊富な用途と作風の焼き物が生まれた。例えばそれまで木や漆でつくられていたような棗や硯箱も。さらに野々村仁清が色絵の上絵付けに成功したことによって、都ならではの雅さも京焼の特徴となった。

17世紀前半には粟田口焼、八坂焼、清水焼など場所にちなんだ名前の窯があちらこちらに築かれたが、どこで作られたものなのかを見分けることが難しいほど、どの窯でも作風が似通っていた。そして18世紀前半頃に清水焼が隣接する音羽焼と一体化し、陶器だけでなく磁器も製作するようになった。そのためそれ以前のものと区別が必要となり、一部の例外はあるものの、京都でそれまでに作られてきた陶製の焼き物を古清水と呼ぶようになった。

古清水のなかでも今回つかったものは、御菩薩(みぞろ)焼だ。これは京都盆地の北部にある深泥池(みどろがいけ)のあたりで江戸時代に作られた焼き物のこと。この池は遡ること十数万年前に自然に形成されたもので、周囲は低い山に囲まれている。本来寒い地域で育つような北方系の植物が、ここで生息するなど氷河期の名残が今もある稀有な場所だ。現在の水深は2.3メートルほどで、名前の通り池の底に泥が深く重なった池である。

古くは奈良時代に僧行基がここに地蔵菩薩が現れるのを見たとか、近年ではタクシーの運転手が乗せた客がこのあたりで消えたとか、今も昔もまことしやか様々な逸話が残る場所でもある。和泉式部も「名を聞けば 影だにみえじ みどろ池に すむ水鳥の あるぞあやしき」と歌を詠み、底が見えない沼に対する漠然としたイメージが、おそらくよくわからぬものに対する怪しさに繋がり、長きにわたりえもいわれぬ世界観が共有されてきたのかもしれない。

池の名前は現在の深泥池とされることもあれば、平安時代にはぬかるんでいることから泥濘池と呼ばれたり、また近くに地蔵菩薩を祀ったことから御菩薩池と呼ばれた時代もあった。江戸期には御菩薩池が一般的な呼び名であったため、この器が製作された頃には御菩薩焼と名前が付けられた。

この池は、ミツガシワなどが生息する貴重な環境の保全のために深泥池生物群集として現在は天然記念物となっている。そのため魯山人が特別だと称賛した潤菜(じゅんさい)も今は食卓に上がらなくなってしまったが、過剰に繁茂してしまっているようだから、いつか食せる日が来るのではないかと今からその日を心待ちにしている。

さて、今回は白味噌を練り込んだ鶏団子をご紹介したい。いわずもがな、寒い時期の京都といえば白味噌椀が思い浮かぶ。ここへ柔らかな鶏団子と、九条葱、柚の皮と山椒を組み合わせて体が温まる一品とした。

白味噌鶏団子

―材料(2人分)

  • 鶏挽肉(もも) 200g
  • パン粉 10g
  • 出汁 330g
  • 塩 4g
  • 白味噌 70g
  • 九条葱 適宜
  • 柚子 適宜
  • 片栗粉 8g
  • 粉山椒 適宜

1.パン粉10gに出汁30gを入れておく。

2.鶏の挽肉に塩4gを入れて、粘り気が出るまでしっかりと練る。ここへ白味噌20gを加えてさらに練り、最後に1で準備したパン粉を加えて全体に馴染ませる。これを食べやすい大きさに丸めておく。

3.九条葱を斜め切りにし、沸騰した湯でさっと湯掻いておく。

4.別鍋に湯を沸かす。柚子の皮を白い部分が入らないように薄く包丁で剥き、この鍋で短時間湯掻く。ザルにあげて、粗熱が取れたら千切りにしておく。

5.柚子をゆがいた鍋で、鶏団子をしっかりと茹でる。火が入ると浮かんでくる。そのまま弱火で2-3分ほど。

6.汁の準備をする。8gの片栗粉を倍程度の水で溶き(片栗粉1:水2が使いやすいのでこの場合水は16g程度)、水溶き片栗粉を作っておく。鍋に出汁300gを入れて、白味噌50gを溶き、温まったら水溶き片栗粉でとろみをつける。

7.器に鶏団子、汁をたっぷり注ぎ、九条葱、柚子の皮、山椒をかける。

料理家 千 麻子

学習院大学文学部哲学科および経済学部経営学科を卒業し、同大学史料館に勤めた。また美味しいもの好きが高じて美食の街、リヨンのポールボキューズ料理学校をはじめ、国内外問わず料理を学び、フランスではミシュラン3つ星のレストランの厨房でも研鑽を積む。

Instagram:@asako_sen

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