フランスの暮らしとデザインを紹介する連載の6回目はパリのコンセプトストアの先駆けとも言われるフレンチ・トロッターズのオーナー、デルーズ夫妻が2020年に購入した、19区のアパルトマンをご紹介します。

パリ大改造計画の一環として19世紀に完成したビュット=ショーモン公園。パリで三番目に大きな公園であり、元採石場の起伏を生かした緑豊かな英国風庭園は、散歩やピクニックを楽しむ市民で常に賑わいを見せる。この公園の北側に2020年、クララン・デルーズと妻のキャロルは住まいを購入した。
「1895年に建てられたアパルトマンで、広さは85㎡。間取りはリビング、寝室、キッチン、バスルーム。リビングは前の住民が壁を取り払い、2部屋をつなげて広い空間にしたそうです」とクラランさん。


クラランさん夫妻はこの家に越す前も、ビュット=ショーモン公園のそばに在住。「より広い住まいに移りたくて、引っ越しを決意。公園の周りは今非常に人気で、なかなか気に入った物件が見つからず、20件は内見をしました」
購入後、工事にかけた期間は4ヶ月。「寝室は自分たちでデザイン。壁に木を貼り、ドレッシングルームやクローゼットを設置。キッチンも全部リノベーション。廊下だった場所に浴室を作りました」


インテリアのテーマは旅。「妻と営むコンセプトストアフレンチ・トロッターズのコンセプトも旅なのです。ショップでは旅先で出会った洋服や雑貨、インテリアグッズ、家具を販売。大好きなN.Y.や地中海、日本、スカンジナビア諸国、そしてパリ。そうした場所で見つけたものを、ショップにも自宅にも集めています」
家具は蚤の市などで探したヴィンテージも多数。「生活雑貨では、店で扱うフラマの商品を愛用。デンマークのブランドで、フレグランスやバス用品など、良質なものが見つかります」


パリ出身のクラランさんは、父親の仕事の都合で15歳から17歳までロンドンで暮らした。その後N.Y.へ転居した際に、ICP(国際写真センター)で1年、写真を学んだ。フランスに戻ってからは、南仏の街・ニームのビジネススクールで広報を2年間学び、卒業後、パリ第8大学に入学。芸術写真を専攻した。「当時はアート写真家を目指していました。そして2003年に、同じ学校で学んでいたキャロルに出会ったのです」
二人は様々な場所を旅し、特にインスピレーションを受けたのがN.Y.や東京、コペンハーゲンだったという。そこで出会った洋服や生活雑貨、コスメなどが並ぶ、ライフスタイルをテーマにしたコンセプトストアフレンチ・トロッターズを2005年、11区のシャロンヌ通りに開店。「当時、僕たちの打ち出したコンセプトは斬新で、店はたちまち成功を収めました。その頃のファッションの主流は、ファスト・ファッションかリュクスなメゾン。独自性のあるコンセプトショップは非常に少なかったのです」


2009年には、マレ地区に2号店を開店。「メンズにターゲットを当てた店で、とても人気が出ました。2012年、この店を売却して近くに広い店を開き、レディス、メンズ、インテリア雑貨、コスメをラインナップするフラッグシップショップをオープン。オンラインショップも始めました」
他都市にも店を開く可能性を尋ねると「マレ店とシャロンヌ店以外に、店を拡大するつもりはありません。フレンチ・トロッターズのコンセプトは『パリのここでしか見つからないもの』。オリジナル商品と、ブランドと協力して生産する限定品を多数扱っています。例えばメンズファッションなら、ハリス・ワーフ・ロンドンの服、アンソロジー・パリの靴、レディスファッションならポマンデールなどのブランドとコラボしています。洋服は僕がメンズ、妻がレディスをセレクト。ライフスタイルに関する商品は二人で選んでいます」


現在、パリから西に車で2時間ほどの距離にある、バス・ノルマンディ地域圏のペルシュ地方の田舎家を改装中だという。「美しい庭と森に囲まれた家です。リビング、キッチン、寝室が4部屋あり、ここにフレンチ・トロッターズで扱っている家具、ホームリネン、食器などを置きます。フランス語でメゾン・ドットと呼ばれる1棟貸しのバケーションハウスとして準備を進めており、2025年5月頃に開業予定。イベントスペースとしても理想的」
今後はできる限り長く店を続けていたい、とクラランさん。「僕と妻が好きなもの……旅、良質な服、美しいデザインなどを、お客さまや友達、家族と共有すること。それが人生の喜びです」


撮影/篠あゆみ(Ayumi SHINO)
(文)木戸 美由紀/文筆家
女性誌編集職を経て、2002年からパリに在住。フランスを拠点に日本のメディアへの寄稿、撮影コーディネイターとして活動中。株式会社みゆき堂代表。マガジンハウスの月刊誌「アンド プレミアム」に「木戸美由紀のパリところどころ案内」を連載中。インスタグラム@kidoppifr