フランスの暮らしとデザインを紹介する連載の6回目はパリのコンセプトストアの先駆けとも言われるフレンチ・トロッターズのオーナー、デルーズ夫妻が2020年に購入した、19区のアパルトマンをご紹介します。

 Clarent Dehlouz(クララン・デルーズ)/パリのコンセプトストア、フレンチ・トロッターズのオーナー。パリ出身。15歳から父親の転居を機にロンドン、N.Y.での生活を経てフランスへ戻り、南仏・ニームのビジネススクールで広報を学ぶ。パリ第8大学へ入学し、アート写真を専攻。2005年に妻のキャロルとフレンチ・トロッターズを開業。https://www.frenchtrotters.fr/

 パリ大改造計画の一環として19世紀に完成したビュット=ショーモン公園。パリで三番目に大きな公園であり、元採石場の起伏を生かした緑豊かな英国風庭園は、散歩やピクニックを楽しむ市民で常に賑わいを見せる。この公園の北側に2020年、クララン・デルーズと妻のキャロルは住まいを購入した。

 「1895年に建てられたアパルトマンで、広さは85㎡。間取りはリビング、寝室、キッチン、バスルーム。リビングは前の住民が壁を取り払い、2部屋をつなげて広い空間にしたそうです」とクラランさん。

 リビング。ダイニングテーブルはイギリスの老舗家具メーカー、アーコール。椅子はヴィンテージで、バウハウスを代表するデザイナー、マルセル・ブロイヤーが手がけた名作「チェスカ アームレスチェア」。
 様々なデザインのキャンドルはキャロルさんが購入。ガラス器のキャンドルは、画家から調香師に転身したジャスパー・リーと共同経営者のエイドリアン・ユーが2021年に立ち上げたフレグランス・メゾン、トバのもの。花瓶はデンマークのブランド、ラーウィーの「ストローム」。

 クラランさん夫妻はこの家に越す前も、ビュット=ショーモン公園のそばに在住。「より広い住まいに移りたくて、引っ越しを決意。公園の周りは今非常に人気で、なかなか気に入った物件が見つからず、20件は内見をしました」

 購入後、工事にかけた期間は4ヶ月。「寝室は自分たちでデザイン。壁に木を貼り、ドレッシングルームやクローゼットを設置。キッチンも全部リノベーション。廊下だった場所に浴室を作りました」

 リビング。アートブックのコレクションが並ぶ本棚はイギリスのヴィツゥのもので、ディーター・ラムスが1960年にデザインしたモジュラー家具「606 ユニバーサル・シェルビング・システム」。ペンダントランプはイサム・ノグチの照明彫刻「アカリ」。スツールは共にフランス人デザイナーのもので、右からシャルロット・ペリアンの「ベルジェ スツール」、ピエール・シャポの「S31 スツール」。
 黄色のソファはミッシェル・デュカロワがデザインをし、1973年に発表したリーン・ロゼのベストセラー「ロゼトーゴ」。壁のヒーターは専門業者に頼んで元々あったものを取り外し、古いペンキを剥がして黒く塗り直してもらった。

  インテリアのテーマは旅。「妻と営むコンセプトストアフレンチ・トロッターズのコンセプトも旅なのです。ショップでは旅先で出会った洋服や雑貨、インテリアグッズ、家具を販売。大好きなN.Y.や地中海、日本、スカンジナビア諸国、そしてパリ。そうした場所で見つけたものを、ショップにも自宅にも集めています」

 家具は蚤の市などで探したヴィンテージも多数。「生活雑貨では、店で扱うフラマの商品を愛用。デンマークのブランドで、フレグランスやバス用品など、良質なものが見つかります」

 クラランさんの仕事机。大学で写真を学び、アマチュア写真家としても活動。右の2枚の写真は彼が撮影したもの。ランプはフランスの照明デザイナー、ジャック・ビニーが1957年に発表したビニー・テーブルNo.231。壁のアートは共にフランスのアーティスト、グイド・マッジョーリの作品。
 リビングの壁に設置した本棚はスウェーデンの建築家ニルス・ストリングが1949年にデザインした「ストリングシステム」のウォールシェルフのヴィンテージ。前の住まいでも使っていたお気に入りの家具。

 パリ出身のクラランさんは、父親の仕事の都合で15歳から17歳までロンドンで暮らした。その後N.Y.へ転居した際に、ICP(国際写真センター)で1年、写真を学んだ。フランスに戻ってからは、南仏の街・ニームのビジネススクールで広報を2年間学び、卒業後、パリ第8大学に入学。芸術写真を専攻した。「当時はアート写真家を目指していました。そして2003年に、同じ学校で学んでいたキャロルに出会ったのです」

 二人は様々な場所を旅し、特にインスピレーションを受けたのがN.Y.や東京、コペンハーゲンだったという。そこで出会った洋服や生活雑貨、コスメなどが並ぶ、ライフスタイルをテーマにしたコンセプトストアフレンチ・トロッターズを2005年、11区のシャロンヌ通りに開店。「当時、僕たちの打ち出したコンセプトは斬新で、店はたちまち成功を収めました。その頃のファッションの主流は、ファスト・ファッションかリュクスなメゾン。独自性のあるコンセプトショップは非常に少なかったのです」

 本棚にはアートやデザイン、フォトブックが並ぶ。「妻とはファッション、インテリア共に好きなテイストが同じ。家具を選ぶ際の話し合いはいつもスムーズです」
 ピエール・ボンコンパンの画集。表紙の絵と同じテイストの花瓶はザラ・ホームで見つけた。

  2009年には、マレ地区に2号店を開店。「メンズにターゲットを当てた店で、とても人気が出ました。2012年、この店を売却して近くに広い店を開き、レディス、メンズ、インテリア雑貨、コスメをラインナップするフラッグシップショップをオープン。オンラインショップも始めました」

 他都市にも店を開く可能性を尋ねると「マレ店とシャロンヌ店以外に、店を拡大するつもりはありません。フレンチ・トロッターズのコンセプトは『パリのここでしか見つからないもの』。オリジナル商品と、ブランドと協力して生産する限定品を多数扱っています。例えばメンズファッションなら、ハリス・ワーフ・ロンドンの服、アンソロジー・パリの靴、レディスファッションならポマンデールなどのブランドとコラボしています。洋服は僕がメンズ、妻がレディスをセレクト。ライフスタイルに関する商品は二人で選んでいます」

 ベッドルーム。壁に木材を貼り、落ち着いた雰囲気に改装。右の壁面にはキャロルさんの専用のクローゼットを設置。左のドアの向こうにクラランさん用のウォークインクローゼットを作った。左のスタンドランプはセルジュ・ムイユの「ランパデール・1リュミエール」。天井のランプはフロスの「IC S2 ペンダントライト ゴールド」。ロンドンを拠点に活動するデザイナー、マイケル・アナスタシアデスが手がけた。
 寝室の奥にあるクラランさんのクローゼット。洋服と靴が整然と並ぶ。「好きなスタイルはカジュアルシック。様々なシーンで毎日着られる洋服を選びます。店の洋服も同じコンセプトでセレクト。良質な素材で着心地がよく、その服と共に人生を過ごしていける。慎み深さがありながら、オリジナリティもある。そんなデザインの服を好みます」

 現在、パリから西に車で2時間ほどの距離にある、バス・ノルマンディ地域圏のペルシュ地方の田舎家を改装中だという。「美しい庭と森に囲まれた家です。リビング、キッチン、寝室が4部屋あり、ここにフレンチ・トロッターズで扱っている家具、ホームリネン、食器などを置きます。フランス語でメゾン・ドットと呼ばれる1棟貸しのバケーションハウスとして準備を進めており、2025年5月頃に開業予定。イベントスペースとしても理想的」

 今後はできる限り長く店を続けていたい、とクラランさん。「僕と妻が好きなもの……旅、良質な服、美しいデザインなどを、お客さまや友達、家族と共有すること。それが人生の喜びです」

 バスルームは購入時に廊下だったスペースに新設。バスタブを置き、右側にシャワーコーナーを設けた。
 ご夫妻でデザインしたキッチン。右の棚にはクラランさんの大好きなナチュラルワインが並ぶ。「料理は二人とも得意。僕は朝食を担当し、オムレツなどの卵料理、アボカドトーストなどを作ります。近所にとても美味しいブーランジュリーがあり、そこに毎朝パンを買いに行っています」

撮影/篠あゆみ(Ayumi SHINO)

(文)木戸 美由紀/文筆家
女性誌編集職を経て、2002年からパリに在住。フランスを拠点に日本のメディアへの寄稿、撮影コーディネイターとして活動中。株式会社みゆき堂代表。マガジンハウスの月刊誌「アンド プレミアム」に「木戸美由紀のパリところどころ案内」を連載中。インスタグラム@kidoppifr

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