春爛漫の京都には、桜満開の優美な光景をひと目見ようと世界中の人々が観光にやってきます。心まで華やぐこの季節、桜と‘古都’の風景は何よりもの自然の贈り物であり、多くの人を惹きつける魅力はエレガントで感動的なのです。
‘水辺の私邸’とうたわれる日本旅館「星のや京都」も、今、まさに特別な季節を迎えています。嵐山は山肌を染める桜が大和絵のような美しい情景を魅せ、その麓に木々に包まれるように佇む「星のや京都」が、1年で最も優しい趣の彩に包まれています。
京都は千二百年の都、その始まりは平安京に遷都した794年のこと。当時の公家や平安貴族たちは、極上の隠れ家としてこの嵐山を避暑や休暇に選び、こぞって別邸を建てたという歴史が残っています。それゆえ嵐山は京都の奥座敷と言われ、現在はその貴重な自然を保つために、京都でも指折りの厳しい景観保護規制にある土地柄です。そんな中嵐山の麓で木々に包まれ「星のや京都」が佇んでいます。宿へ行くには、渡月橋から宿専用の舟で深い瑠璃色の大堰川(桂川)を遡ります。嵐峡を遡る舟に乗った瞬間から幽玄の世界が始まり、ゲストは胸の高まる思いで到着の瞬間を待ち詫びるのです。
筆者が初めて「星のや京都」を訪れたのは、開業時の2009年12月の少し後、まだ庭園も真新しく、作庭工事の途中でもあった時のことでした。京都に名庭園が多い理由は優れた作庭家が多いからと言われていますが、ちょうどこの時に、160年も続く加藤造園の名庭師と会話を交わす機会がありました。その時に聞かされた言葉が耳に残っています。「自分が作る庭は、5年後、10年後を見据えている。真剣勝負の毎日だ」と。あれからすでに7、8回は「星のや京都」を訪れていますが、毎回、敷地内の庭園を見るたびに、庭師が技術を込めて作り上げたことを想い出し、季節ごとに違う情景を愉しんでいます。敷地内には趣の異なる庭園がいくつかあり、中央には池泉式庭園、そして路地庭園、奥庭には枯山水の庭園が造られ、季節が織りなす彩の変化を楽しむことができるのです。
そして客室は、1室たりとて同じデザインはなく、彩も、造りもアートも異なり、何度訪れても新たな興味の対象となります。見逃せないのは、昔の職人技が光る室内のディテールです。昔のままに残された鴨居や天井、欄間や襖など保存状態の良い建築と、芸術的な技の数々に職人の美学が伝わってきます。そこにモダンな現代デザインを駆使した家具や調度品が加わり、和洋折衷の高級旅館「星のや京都」が出来上がっています。また室内には、桂離宮や二条城など、国宝を手掛ける匠の本城武男氏の手による格調高い揉み唐紙が使われ、部屋の趣に格式を添えているのも見逃せません。こうした客室は全室がリバービューであり、桜はもちろん、初夏の新緑、眩い紅葉が映える秋、雪を被る冬の風情など、四季を通じて美しさは情緒的です。
「その瞬間の特等席へ。」をコンセプトに時を刻む圧倒的非日常を提供する「星のや」ブランドは、京都がそうであるように、その地の風土、歴史、文化を宿に繊細に織り込み、その季節にしか味わえない最高の瞬間を体験できるようプランも多く提供しています。京都では、春が終われば、駆け足でやってくる初夏から夏の7月1日~8月31日まで、夏季限定で涼を感じる「奥嵐山の納涼滞在」が用意され、「空中茶室」での特別夕食、食後は「水の庭」での夜奏会、翌朝の大堰川での舟遊びなど、自然の中で涼やかな夏が楽しめそうです。
取材・文/せきねきょうこ
Photo/星のや京都
せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト
スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数、21年4月、新刊出版。
DATA
星のや京都
京都府京都市西京区嵐山元録山町11-2
📞: 050-3134-8091(星のや総合予約)