フランスの暮らしとデザインを紹介する連載の3回目はメイクアップアーティストのココさんのお宅を訪問。2022年に購入し、全面リノベーションをしたアパルトマンについてお話を伺った。

COCO(ココ)/メイクアップアーティスト。トゥールーズ生まれ。ピレネー地方で育ち、18歳でパリのビジネススクールに入学。モデルとして活動し、出産後に現職へ転向。23歳の娘と20歳息子の母。ヨガ教師でもある。
Instagram@cococlanet @tyty.yoga(ヨガ用インスタグラム)

 高級住宅街として知られるパリ16区に夫と息子、猫と暮らすココさん。2022年に購入したアパルトマンは建物の最上階にあり、フランス語でデュプレックスとよばれるメゾネットタイプの物件。エントラスのある4階には、 3つの寝室、仕事部屋、浴室、シャワールームがあり、5階はダイニングキッチンとリビング、その両面にテラスを設けた。

 「1970年代に完成した物件。古い建物が多いパリでは新建築と呼ばれています。広さはテラスを含め120㎡。2022年に購入したときからデュプレックスでした。購入後、インテリアデザイナーだった夫の兄弟に相談をしながら全面リノベーションをしました」とココさん。

4階フロアにエントランスがあり、階段の上がるとダイニングキッチン、リビングがある。「大理石の階段はもともとあったもの。階段の壁と床は入居時に張り替えました」

 改装前は下のフロアにキッチンとダイニング、リビング、上階に3つの寝室、浴室があった。「上階の広いテラスの場所には以前、寝室が2つありました。その隣に長い廊下があって、廊下を挟んで浴室、そしてもうひとつの寝室。細かく仕切られていた空間の壁を壊してひとつの部屋にしてテラスを作り、下のフロアを寝室とバスルームに改装。工事は3ヶ月の予定だったのですが、結局6ヶ月かかりました。予定が伸びてしまったので、仮住まいを探すのが大変でしたね。義理の両親の家にもお世話になりました」

ダイニングキッチン。左に大きなテラスがあり、テーブルの隣に階段、右にオープンキッチンを設置。ランプはフロスの「アルコ」。テーブルはデンマークのデザイナー、ヨハネス・アンダーセンのもの。

 

 インテリアのテーマは特に設けず、部屋には一目惚れをしたものやヴィンテージの家具を置いている。壁には写真や絵などのアート。アーティストである友人の作品も多いという。

 独身の頃はアパルトマンの最上階にあるシャンブル・ド・ボンヌ(小間使いの部屋)に住んでいたというココさん。「最上階の住まいが好き。当時住んでいた部屋はストゥディオと呼ばれる小さなワンルームでしたが、屋根が斜めになっていて、小さな窓からは建物の連なる屋根が見えて、とても気に入っていました。上に人が住んでいないから、足音が気にならず静か、という点も最上階の利点。ただし購入価格は下のフロアに比べて高い、というのが難点」

ヴィンテージ家具やアートをミックスするリビング。モスグリーンのソファはアビタ。「イームズのロッキングチェアはあまり実用的ではなく、座ることはめったにありません。リビングにテレビがないのは、夫が映像の編集者でテレビよりも映画を見る機会の方が多いため。工事の際にプロジェクターをどこに設置するか、よく考えました。」向かって右側の壁上部にスクリーンを設置し、左のソファでくつろぎながら映画鑑賞をして過ごす。

 気に入っている点は一日中日光が入り、明るいところ。「欠点は暖房が効きにくいこと。冬は暖房をずっとつけていますので、エコじゃないですね。ただ、この建物の暖房は環境対策の取り組みでパリ市が供給しているため、暖房にかかる費用は安いのですよ。歩道の下に暖房用の配管を通し、そこに流れる温水を、通りに面する建物に供給するシステムです。それと、最上階は泥棒が入りやすいのです。ソファで昼寝をしていた時に、テラスにどん、と物音が2回したことがありました。まだ半分寝ていたのでゆっくり起き上がると、屋根に上り直して逃げようとしている、二人の男性の足が見えて驚きました。泥棒も人がいると思わなかったのでしょう。未遂に終わってよかったですが……」

(左)キッチンはIKEAでオーダーメード。ガス台はスメッグ。鉄とガラス製のレンジフードもオーダーしたものの「換気扇をつけなかったのであまり役にたっていません」。包丁は日本製を愛用。東京へ旅行した際に買ったものや、夫や家族からのプレゼント。
(右)壁一面を収納棚にし、食材などを収納。冷蔵庫と冷凍庫はビルトイン式で統一感を出した。

 広々としたキッチンはイケアへオーダー 。壁一面の収納棚もイケアのもので、冷蔵庫と冷凍庫、食材のストックなどを収納する。「ビルトイン式の冷蔵・冷凍庫はサイズが小さくて、一体式ではなく冷蔵庫と冷凍庫を2つ買いました。夫と息子は料理が大好き。小さい冷蔵庫だと食材や調味料が入り切らないのです」

 12年前にベジタリアンに転向。「環境のために、CO2排出量の多い畜産の肉を食べることはやめようと考え、有機野菜を中心とする食生活に切り替えました。それ以来、肉を欲さなくなりました。家族は私以外、お肉を食べます。私に料理を任せているとお肉が登場しないことから、息子は料理に興味を持ちました。今となっては、我が家の腕利きの料理人となりました(笑)」

オレンジとココナツ、トウモロコシのスムール、古代麦のケーキはイギリスでモダン中東料理を提案するシェフ、ヨタム・オットレンギのレシピ。「彼の提案する料理はどれも美味しい。スパイスなど食材を色々使い、作るのに時間がかかるため『午後は料理をしよう』と決めて取り組みます。それも癒しの時間ですね」カップやお皿は南仏・ユゼス在住の友人によるアンナ・カミーユ・セラミックのもの。
テラスのバーベナを摘み、ハーブティに。「とてもいい香り。生ハーブを使ったお茶はドライよりずっと美味しい」

 フランス南西部で生まれ育ったというココさん。18歳の時に進学のため、パリに上京をした。「ビジネススクールに入学をしましたが、目的は勉強よりパリに住むことでした。両親を説得するために進学したので、あまり勉強には身が入らず……進級試験に落ち、1年で学校を辞めました」

 退学後はモデルとして活動。20歳で夫と知り合い、2児を授かった。「23歳の娘と20歳の息子がいます。出産後にモデルを引退し、メイクの勉強を始めました。ファッション撮影やショーの仕事が専門です。映画の仕事にも興味はありましたが、携わる期間が長く、1ヶ月以上の出張は当たり前。子供がまだ小さかったので、映画に比べると拘束時間が短いファッションの仕事を選びました」

 とはいえ、早朝から始まる撮影やショーの仕事も多いという。「某老舗メゾンのショーでは80人のモデルが出演。そのためメイクとヘアアーティストが計60人、朝4時30分から働きます。日の出後の青い光で撮影をしよう、となったときは朝3時に集合。大変でしたが、とても綺麗な空が見られて早起きの甲斐がありました」

4階のベッドルーム。カバーはインドで購入。ワインの箱には純文学の本が並ぶ。「壁は白にブルーをミックス。白いカーテンだと寒々しいので、黄色のカーテンで温かみをプラス」
バスルーム。壁の塗料はペンキではなく、タイル用の接着剤を使用。「ユゼスの友人が夫と民宿を作った時に、この素材をバスルームに使い、素材感や色が気に入りました。ペンキより安いのですよ」。蛇口はイタリアのステラのもの。
バスルームのコーナー。ミケーレ・チアッチョフェラのアート作品、山本昌雄の写真、ネパールの僧侶の靴やサンゴを飾る。

 下のフロアにある夫婦の寝室には、専用のバスルームを設置。仕切りの上半分をガラスと鉄素材にし、広く見えるように工夫をした。「早朝の仕事の際にバスルームを使うと、夫を起こしてしまう。そこで仕事の前日に浴槽に浸かるか、朝、別の場所にあるシャワールームを使うようにしています」

 大学生の息子の部屋は自分でペイント。白かった壁の一面を黒く塗り、もう一面にはこちらも自分でペイントしたというクラインブルーのキャンバスを飾る。「大学では経済を専攻。彼の芸術の創作意欲はアートより料理へ向いています。盛り付けも洗練していて、とても上手」

 娘は大学を卒業し、就職。現在は家を出てボーイフレンドと暮らしている。「息子は来年4ヶ月間、スペインへ留学する予定。また、猫は娘のもので、もうすぐ彼女が連れていってしまう。夫婦2人になると寂しくなりますね」

20歳の息子の部屋。黒い壁とブルーのキャンパスは自分でペイントしたという。棚のポルシェのオブジェはレゴ。足を怪我して動けなかった際に作ったもの。

ペピート(13歳・♀)はペルシャ猫。水道から水を飲むのが好き。
下フロア。廊下の左はシャワールーム、息子の部屋、娘の部屋。右は上フロアへの階段、仕事部屋、夫婦の寝室とバスルーム。キャビネットは夫の祖母の家から運んだもの。上にワインの箱を並べ、アートブックを収納。上に飾るアボリジニ族の絵は友人のアートディーラーから購入した。

 実はヨガ教師としても、活動をするココさん。「コロナ禍の間、ヨガに興味を持って独学で習得。その後、ヨガの職業訓練と研修を受けて教師になりました。息子が学業を終えて独立したら、子供部屋を改装してヨガ教室を開くのもいいかな、と考えています」

 ギターにも情熱を持ち、音楽はボサノバやサンバといったブラジルミュージックを好む。「ブラジルが大好き。ブラジル人の友人が、文化や歴史を教えてくれたことから興味を持ちました。家族旅行をきっかけに、夫は公用語であるポルトガル語を習い始めたのですよ(笑)。とにかく人が優しくて、街中でもビーチでも、誰かが歌を口ずさんでいる。そんな素敵なところです。バイーアのビーチは綺麗で、特におすすめ」

 将来の夢はブラジルに家を買うこと。「そう思っているうちにどんどん地価が上がってしまいました。買うのは難しいかもしれませんが、次の長い旅行は絶対にブラジルへ行きたいと思います」

趣味はヨガとギター。リビングにアコースティックギターを置き、弾き語りをする。

リビングの壁にアメリカ人フォトグラファー、ソール・ライターの作品を飾る。
広々としたテラスには柚子やリンゴを栽培。「夏はバーベキューをしたり、食事を楽しんだり。シャワーもあり、日光浴をした後に水浴びもできます」

撮影/井田 純代(Sumiyo IDA)

(文)木戸 美由紀/文筆家
女性誌編集職を経て、2002年からパリに在住。フランスを拠点に日本のメディアへの寄稿、撮影コーディネイターとして活動中。株式会社みゆき堂代表。マガジンハウスの月刊誌「アンド プレミアム」に「木戸美由紀のパリところどころ案内」を連載中。インスタグラム@kidoppifr

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