2024年も残すところ2週間。一年を振り返った時に、今年は想像もしなかった出来事が例年に比べて多かったように思う。それは個人的なことだけでなく、社会的にも当てはまっていて、元日に起こった能登半島での地震にはひどく心を痛めた。石川県には好きな神社があり、家族でも1人でもたびたび訪れていたし、またもう少し時間にゆとりができたら、能登半島にある輪島市にも足を伸ばしてみたいと、かねてより熱望していた。

輪島とのご縁というとおこがましいが、それは子供が産まれて離乳食が始まった2年ほど前に遡る。離乳食が始まった当初は落としても割れないという観点から丈夫なイメージのある磁器を使っていた。もちろん世の中にはテーブルにくっつけて使えて、電子レンジにもそのまま入れられるようなものがあることも知っていたが、私も主人も器へのこだわりが強いこともあり、子供扱いせず、大人が使うものと同じものを最初から使いたいと思った。磁器は丈夫で便利な反面、落として足にでも当たるととても痛い。ある時、食器棚の奥の箱の中から入れ子状になった赤い漆のセットが出てきた。薄い、軽い、美しい!これはいいかも、と早速その日から離乳食の器に取り入れた。軽いから落としても怪我に繋がらない、食べ終わって丁寧に水滴を拭き取って再び入れ子状に戻してコンパクトに食器棚に収まるのも気持ちが良い、さらに漆の器には殺菌効果もあるという嬉しいことばかり。また、その見た目からは想像もできないほど多くの工程を経て作られる漆の器は十分に丈夫だが、特に輪島塗はこの地特有の地の粉を使っているため非常に耐久性に優れているようだ。

この器というのは輪島に工房を構え、塗師をしておられる赤木明登さんのもの。しばらく経ってから、赤木家から息子への出産祝いとして朱色で小ぶりのお椀を頂戴した。それから毎日使っているうちに愛着が湧き、ついに自分用にも赤木さんのお椀が欲しくなり、先日展覧会の折に夫婦揃って手に入れた。これまでの器は、手に入れて初めて使うときの高揚感が最大だとすると、このお椀は使っていくほど気持ちが入っていくような不思議な感覚を覚えている。これまで黒い漆のお椀は手元にあったが、これは初めての赤い漆。赤は元気の出る力強い色で、食卓を華やかにしてくれる。あんまり手の込んだ料理よりも、家庭的なものを、しかもどっさりと盛り付けていただくのが今の気分だ。おもてなし料理がテーマなので、今回は控えめに盛り付けているが…(笑)

今回の料理はけんちん汁。東は岩手県、西は大分県といくつかの地域の郷土料理とされている。茨城出身の母を持つため、私が幼い頃からよく食卓に上った懐かしい一品。若い頃は動物性たんぱく質ばかり好んで食べていたが、けんちん汁は例外で唯一きちんと野菜をたっぷり摂取できていた料理かもしれない。

そもそもけんちん汁とは、鎌倉の建長寺に創建者の蘭渓道隆が伝えた「建長汁」が訛ったとか、普茶料理の巻繊(けんちん)から来ているとか諸説あるが、いずれにせよお寺に起源があり、そのために動物性のものが使われていないのだろう。まとめて作っておけるので、年末年始など体を労り、心身ともにゆっくり休みたい時期に最適な料理ではないか。

けんちん汁

―材料(2~3人分)

  • 長ネギ 2本
  • 人参 1本
  • 大根 4分の1本
  • 牛蒡 2本
  • 油揚げ 50g
  • 蒟蒻 100g
  • 絹ごし豆腐 300g
  • 塩 7-8g
  • 薄口醤油 小さじ2と2分の1
  • 出汁(昆布と鰹) 800ml
  • ごま油 適宜

①野菜を切る。長ネギは輪切り、大根は銀杏切り、人参と牛蒡は乱切りにする。牛蒡は水にさらしてアクを抜く。油揚げは細切り、蒟蒻は短冊切り、豆腐は角切りにしておく。

②鍋にごま油を入れ、長ネギ、人参、大根、牛蒡を炒める。ここで塩を2つまみ。全体に馴染んだら油揚げと蒟蒻を加えて、ひたひたに出汁を注ぐ。さらに塩を2つまみ加えたら、豆腐を加えてあまり触らないように火を入れる。15分ほど経ったら味見をしながら薄口醤油と塩を少しずつ足していく。さらに10分ほど経つと野菜が十分に柔らかくなっているので火を止めて、そのまま冷まして味を染み込ませる。

③使いたいタイミングであらためて加熱して、味を整える。濃くならないように注意する。

④器に盛る。上から長ネギの緑色の部分を乗せて出来上がり。

赤木明登さんの最新情報は、こちらからご覧ください。

https://www.instagram.com/tokochan37/

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料理家 千 麻子

学習院大学文学部哲学科および経済学部経営学科を卒業し、史料館に勤めた。また美味しいもの好きが高じて美食の街、リヨンのポールボキューズ料理学校をはじめ、国内外問わず料理を学び、フランスではミシュラン3つ星のレストランの厨房でも研鑽を積む。

Instagram:https://www.instagram.com/asako_sen/

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