今年の夏は例年に比べて暑い。毎年同じことを口にしている気がするけれど、それでも今年のように外出を躊躇うほどの暑さはあまり記憶にない。世界的には熱波の影響は甚大で、メッカの大巡礼では1,300人を超える人が志半ばで命尽きたという恐ろしいニュースも聞いた。国内でも連日、体温を超えうだるような日々が続き、私自身もついに夏バテで珍しく食欲が減退してしまった。なんでも34度を超えると、人間の労働生産性が50%も減退するそうだ。この猛暑、それに伴う豪雨や突風はもはや珍しいものではなく、新しい日常、ニューノーマルになるなんて耳にするだに、これからは暑い季節に体を適応させられるような食生活をしたいと強く感じた。そんなわけで、これからの夏に欠かせなくなるであろう栄養豊富な冷や汁をご紹介したい。

冷や汁は、宮崎県が発祥の食べ物で、一度にたっぷりの食材を摂取できる栄養食。初めは農作業中の食事として、麦飯に味噌を乗せ、冷たい水を注いで食べられたという。暑さが和らいで、汗で流れた塩分を取り戻すことができる生活の知恵ともいえよう。

現地では、温かい米に冷たい汁をかけて、生ぬるくなったところをいただくようなのだが、私は米を冷やして、さらにそこへキンキンに冷えた汁をかけることで、冷たさが長続きするような食べ方が気に入っている。出汁を取る、魚を焼く以外に火を使う必要がないので、真夏の台所で暑い思いをしなくて良いのも嬉しい。米に、味噌、魚の旨みに加え、喉越しの良い絹ごし豆腐や、みずみずしい胡瓜、そして口をさっぱりさせてくれる薬味と満足度の高い食べ物だ。一品で完結するような栄養食であることもありがたいが、何より、堂々と食べることのできるねこまんまだから、箸が止まらないのかもしれない。

今回の器は、12-13世紀の南宋時代に今の福建省のあたりで作られた珠光青磁輪花碗(じゅこうせいじりんかわん)だ。青磁というと砧青磁(きぬたせいじ)のように、透明感と気品のある整った焼き物というイメージが強いが、今回ご紹介する珠光青磁は、やや黄ばみのある濁った灰緑色で、フリーハンドで大雑把に描かれた線描が特徴的だ。わび茶の祖とも言われる室町時代の茶人、珠光がお茶にはこのくらい枯淡なもののほうが合っていると好んだことから、後世になってこのタイプのやきものが珠光青磁と呼ばれるようになった。

手にした時の土のややごつごつした塊や、ざらっとした肌触りが親しみやすく、不思議と飽きが来ず、使うほどその魅力に気づく器だ。見込みのダイナミックな雲の模様は開放感があり、側において見ていると楽しい気持ちになってくる。

冷や汁(作りやすい量)

  • 出汁(昆布と鰹節) 400ml
  • 味噌 80~120g※
  • 鯵干物 2枚
  • 絹ごし豆腐 2分の1丁
  • 胡瓜 1本
  • 茗荷 2本
  • 生姜 5g
  • 大葉  5枚
  • すりごま 5g
  • ごはん 適宜

1、出汁を取り、分量の味噌を溶く。

※使用する出汁と味噌の組み合わせで塩味や風味が大きく異なるため、味見をして美味しいと感じる量を調節する。私の場合は過去に紹介した昆布と鰹節でとった出汁に、塩味がまろやかな米味噌を使用しているため、味噌を使用する量が多くなり、120gが適量。一方で市販の出汁パックを使うとしっかりした味になるので、味噌の量を少なめに調節するか、味噌の種類を選ぶと良い。

2、鯵の干物は焼き、骨を外しながらほぐす。

3、ごはんは、冷水で洗って水を切り、冷蔵庫で食べる直前まで冷やしておく。

4、胡瓜は薄く切る。スライサーを使うと簡単。茗荷、生姜はみじん切り、大葉は千切り、絹ごし豆腐は1~2センチの角切りにする。

5、1の出汁に2と4を全て加え、さらにすりごまも加える。これを冷蔵庫で冷たくなるまで冷やす。

6、冷やした米に5の冷や汁をかける。

料理家 千 麻子

学習院大学で美術史と経営学を専攻し、博物館に勤務。美味しいもの好きが高じてフランス随一の美食の街、リヨンのInstitut Paul Bocuseで料理を学び、ランスのレストランL’assiette champenoise(ミシュラン三つ星)の厨房で研鑽を積む。

Instagram:https://www.instagram.com/asako_sen/

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