いよいよ1年も折り返し。すでに良きことも、そうでないことも経験し、日常のルーティンをこなすことのできる幸せに改めて感謝する6月。じめじめとした湿っぽい気候に負けないように、今月はスタミナをつけようと考えた一品、牛ヒレ肉のステーキとおかひじきのマスタード和えをご紹介する。

スタミナというと、ギトギトの脂とか、濃いめの味付けとなってしまうけれど、ここ数年体調が定まらない時にそういうものをいただくと、その後しばらく動けずに一日を棒に振ってしまうことがあった。学生時代なんてどれだけファーストフードを食べようとも胃もたれなんてしたことがなかったのに! これが年を取るということなのだろうか…?

体に負担をかけず、美味しく、でも栄養はしっかり摂りたいとなると牛のヒレ肉は理想的なのではないか。ヒレ肉はサーロインの内側にあり、運動量の少ない部分なので繊細で柔らかい。肉の女王と呼ばれるのも納得だ。ヒレ肉と言っても、テートと呼ばれるサシの入らない赤身、シャトーブリアンという程よくサシの入った部分、さらにフィレミニヨンという小さいが霜降りで味の濃いところ、そしてその3つの部位に対して平行に存在するスジが細かく入ったサイドマッスルと4つの部分に分けることができる。いずれも鉄分やビタミンが豊富で低カロリーと魅力的だ。

合わせるのは、おかひじき。おかひじきは山形県の伝統野菜で、もとは砂浜に植生するもので、葉の形がひじきに似ていることから、丘のひじきとして呼称されるようになった。アクがあるため、軽く下茹でして使うが、クセがなくシャキシャキとした食感が楽しく、ラーメンやうどんのトッピングにしたり、ソースに細かく刻んで入れたり、卵にくるんだりと様々な食べ方ができる。そして、緑黄色野菜なので栄養価も高く、旬の今ぜひ取り入れたい食材だ。

今回の器は三彩蓮池水禽文皿(さんさい れんちすいきんもんざら)。16世紀から17世紀にかけて中国の福建省で作られた華南三彩の器だ。初めて華南三彩の器を意識して見たのは、サントリー美術館で2015年に開催された乾山展であった。透明感のある緑色の皿に愛らしい鳥の紋様が彫られ、その上から黄や紫釉が施されている姿は、どこか柔らかな気持ちになるものだった。

三彩とは釉薬の多色を意味し、唐時代に登場するまでは、焼き物にいくつもの色彩を同時に使うことはなかった。16世紀まで登場を待つことになった華南三彩は緑や黄、そして褐色の釉薬が使われていることに特徴がある。中国でこの時代に焼かれた焼き物はかつて日本ではベトナムで作られた、ないしベトナム経由の交易船で積み出されたと考えられ、交趾焼(こうちやき)と呼ばれることもあった。

展覧会を見たときは、国を跨いだ焼き物の時代変遷のことはわからなかったけれど、後から学べば織部焼の濃い緑は、三彩から影響を受けているし、もちろん古九谷もその流れにあり、それどころか楽焼だって華南の三彩の技法を使って焼き始められたのだ。

花と格子紋が見込みを囲むように描かれ、そこには水鳥が水面を泳ぐ姿が愛らしく表現される。涼やかで、眺めているだけで心が和む一枚だ。

牛ヒレ肉のステーキとおかひじきのマスタード和え

―材料(1人分)

牛ヒレ肉 100-140g 

おかひじき 20g

粒マスタード 10g

バター 10g

塩 適宜

1、おかひじきに火を入れる。分量外の塩を入れて沸いた湯で、おかひじきを20秒ほど茹でて、冷水にとる。

2、しっかりと水気を絞り、食べやすい長さに切り、マスタードと和える。

3、牛肉を20-30分ほど常温に出しておく。

4、耐熱の袋に空気を抜くようにして、牛肉を入れる。

低温調理器があれば、鍋の湯を63度に設定し、この中に3の肉を15分入れる。

5、袋ごとさっと冷水に取って冷まし、肉を袋から取り出し、表面の水分を拭き取る。

6、バターをフライパンで熱し、ここで肉の両面に焼き色がつくように動かしながら焼いて取り出す。

7、肉の両面にしっかりと塩を振って、焼いた時間と同じだけの時間を休ませてから、食べよいサイズにカットする。

8、肉を器に盛り、その上からおかひじきのマスタード和えをのせる。お好みでマルドンの塩など牛肉に合う粒の大きな塩をのせても。

※低温調理器がない場合、温度計で測りながらの湯煎も可能だが、65度を超えてしまうと、肉がぱさつく原因になるので気を付ける。また、低温調理をせずに直接フライパンで焼く場合は、なるべく早く冷蔵庫から肉を出し、内側と外側の温度の差ができるだけないようにして、油で片面焼く。下側から色が変わってきたら裏返し、油を捨て、同じフライパンにバターをたっぷり加えて、スプーンでバターの泡を表面にかけながら両面同時に火を入れる。焼き上がりの目安は、肉を触った時に、親指と中指をくっつけた時の親指の付け根の下くらいの硬さの跳ね返りを感じたら。

※耐熱の袋は、フリーザーバックやアイラップなども可能。事前に必ずその袋の耐熱温度を確認することを忘れずに!

料理家 千 麻子

学習院大学で美術史と経営学を専攻し、博物館に勤務。美味しいもの好きが高じてフランス随一の美食の街、リヨンのInstitut Paul Bocuseで料理を学び、ランスのレストランL’assiette champenoise(ミシュラン三つ星)の厨房で研鑽を積む。

Instagram:https://www.instagram.com/asako_sen/

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