友人が訪ねて来たら連れて行きたいお気に入りの店が誰にでもひとつはあります。街の人々に愛される店こそ、胸をはって紹介したい“わが街の味”。この連載では、そんな街で人気のお店を紹介しています。今月は東京でも珍しい、チーズをテーマにしたフレンチ『バール ア フロマージュ スーヴォワル』。チーズの専門家でもあるソムリエとシェフが織りなす、料理とワインのペアリングに魅了されます。
紹介する街●二子玉川
【フレンチ】
フォトジェニックなフレンチに隠されたチーズ使いのテクニック
「チーズの風味を料理に生かせればと考えています。
それもできるだけ新しい組み合わせを提案したいんです」
とにこやかに話すのは、チーズを愛するオーナーソムリエの谷田浩巳さん。
チーズプロフェッショナルでもある谷田さんの経歴はなかなかユニークだ。海上自衛隊で料理人としてのキャリアをスタートさせ、その後は神戸のフレンチなどを経て東京へ。駆け出しの料理人時代、勉強のために訪れた高級イタリアンで、初めてカートでのチーズサービスを経験したという谷田さん。
その時に、チーズの多様性に感銘を受け、チーズプロフェッショナルという仕事に興味を持ったのがチーズの世界への入口だった。やがて自身の店を開くならチーズを料理に使いたいという気持が芽生えたという。「チーズを料理にどう生かすか」、そんな課題を考えていた頃、東京・恵比寿にあったチーズ料理店「スブリデオ レストラーレ」に出会った。そこでソムリエの募集にすぐさま応募。東京へ上京し、働きながらチーズを生かす料理の方向性がだんだんと見えてきたという。
「ただ料理にチーズをかけるというような使い方ではなく、
チーズの風味を調味料として使うことで、
新しい味わいを生みたいと考えています」。
運ばれてきた白子のフリットは、白と緑のコントラストが美しい。パリッと香ばしいフリットの下に、春菊とパルミジャーノ・レッジャーノのリゾットをひいている。その周りをすじ青のりでたっぷりと囲んでいるので、のりの青い磯の香りやハーブのように使った生春菊の香りが食欲をかきたてる。食べてみると、パルミジャーノチーズと青のりの相性の良さにも驚かされた。
相性がいいトリュフとパルジャーノから発想を得て、トリュフの替わりに青のりの中でも際立って香り高いという、すじ青のりを使っている。さらに合わせるワインも秀逸。産膜酵母で酸化熟成させたヴァン・ジョーヌなど、フランス・ジュラ地方の白ワインという意外な組み合わせだ。ワインと白子は難しいペアリング。赤ワインでは白子の生臭さが浮き出てしまうが、酸化熟成した白ワインならそれをうまく隠してくれる。
殻ごと提供される、大ぶりのオーブン焼きの牡蠣はフォトジェニックなヴィジュアルにテンションがあがる。ウドと白菜を水キムチに仕立てたもの、白菜のムース、カスピアンヨーグルト、柑橘のジュレがおりなす、清々しい冬のメニューだ。
そして、まるでチーズショップのように、カウンターのショーケースに並ぶチーズも圧巻。フランスの有名なMOF熟成士・エルベ・モンス氏がてがけたものを中心に、谷田さんがセレクトしたチーズが並ぶ。ちりめんキャベツに包まれたやぎのチーズや日本一に輝いた国産のカマンベールなど、興味深いチーズは目移り必須。単品でオーダーして味わってみたい。
ワインはナチュラルなものが中心。先ほどの白子とヴァン・ジョーヌのような攻めたペアリングも楽しく、その世界観を楽しむならぜひペアリングコースをお願いしたい。
チーズとフレンチは近しい関係だ。でも定番に落とし込むのではなく、新しいチーズと料理の関係を探そうとするこの店の料理は、まだ出会ったことのないチーズの魅力を教えてくれる。
バール ア フロマージュ スーヴォワル
住所:東京都世田谷区玉川4-5-6 尾嶋ビル1F
電話:03-6805-6399
営業時間:17:00~23:00 (フードL.O. 22:00) 、土曜、日曜、祝日12:00~15:30 (フードL.O. 13:30)、 17:00~23:00 (フードL.O. 22:00)
定休日: 火曜、第1水曜
※掲載価格は税別価格です(2023年2月現在)
取材&文/岡本ジュン 写真/マツナガナオコ