キャンプと言えば、アウトドア派には欠かせないテーマです。テント設営を楽しみ、自然の声を聴きながら眠るというロマン溢れる休暇のひとつであり、自然の中に身をゆだねる究極のネイチャー旅といえるでしょう。そのキャンプのイメージに、かつては‘ゴージャス’や‘ラグジュアリー’などという概念はありませんでした。しかし、いつしか豪華なもうひとつのキャンプスタイルとして、‘グランピング’が流行りはじめ、ここ数年であっという間に以前とは解釈の違う贅沢なキャンプとして登場したのです。

そんな中、星野リゾートは2015 年10月30日に、日本初のグランピングリゾートとなる「星のや富士」を誕生させました。そのコンセプトは「丘陵のグランピング」。グランピングという言葉は、グラマラスとキャンピング を掛け合わせた造語です。サービスがホテル並みであることも特徴的で、しかも野外で様々に愉しめるキャンプ相当の野趣あふれる体験や、自然の中で体感する醍醐味が味わえることで女性やファミリー層にも浸透していきました。

グランピングの起源をたどると、なんと1100年代のモンゴル帝国まで遡ります。ヨーロッパでは1600年代になると、欧州の貴族階層にテント内を豪華に飾る風習が生まれました。特に、現代の‘グランピング’発祥の地と言われる英国では、1700年代に現在のグランピングの原型がすでに生まれていたといいます。例えば、アフリカでのサファリに訪れた英国人貴族たちは、テントにお抱えシェフを呼びよせ、グルメな食事をし、テント内を飾り何不自由なく過ごしていたと言われています。

実は私自身も、南アフリカ、ボツワナ、ザンビアなど、野生動物を観察するサファリのためにアフリカ各国を訪れています。サファリでの宿泊には豪華なテントやロッジに滞在(今でいうグランピング)、経営者は英国企業や英国人であり、施設造りも、もてなしも、食事も、当時から贅沢そのものでした。ダイニングテントの他、アフタヌーンティー専用テントのある施設もあり驚きでした。



四季を通じて美しい自然環境を堪能。写真は桜満開の春のキャビン。客室数は全40室、すべてがレイクビュー。



「星のや富士」でグラマラスステイ

森の活力を浴びる、旅の醍醐味


本格的な‘グランピング’を、日本でいち早くデビューさせた星野リゾートは、

「日本の観光をヤバくする」と、以前から公に掲げ、日本の観光促進に邁進する施設を全国に展開し、常に新たな旅の提案を牽引してきました。そしてこの‘グランピング’にも星野リゾートならではの‘楽しみ方の流儀’が見えています。敷地は富士五瑚最大の湖、河口湖を見晴らす緑深い山の丘陵地。宿泊は、テントの代わりにキャビンスタイルでミニマルなデザインの宿泊棟が作られました。涼やかな河口湖を見晴らし、好天ならば富士の姿が見える丘陵地に、様々な施設と共にグランピングの贅沢な施設が点在しています。

いずれのキャビンも湖を望み、キャビン周囲の赤松の森との一体感を味わえるよう、客室インテリアの色遣いは数を制限し、シンプルモダンでミニマルな設計が施されました。客室からテラスに出れば、何もしないで自然を感じているだけで、フィトンチッドに癒される森林セラピーのような空気感です。

森に覆われる丘陵地の敷地高低差は約100m、自身の足で上ったり下りたりしながら各施設を楽しむことになります。斜面を歩きながら、普段から運動不足の私は息を切らしながらも、森の木漏れ日にパワーをもらい、木の香りに癒され、とにかく五感が研ぎ澄まされるような満足感を感じました。この森は貴重な‘針広混交林’のため土砂流出や地力低下の防備に利点があるとされ、生物多様性や、四季の変化を目視することのできる魅力あふれる森なのです。



ツインタイプのスタンダードなTキャビン。大きなソファが設置されたテラスリビング。



ツインベッドの並ぶTキャビン内。



朝食にはスキレットやダッチオーブンで仕上げた、熱々の料理、焼き立てパンが並ぶ。ゆっくり楽しむにはキャビンのテラスリビングで。木箱に詰められた「モーニングBOX」をルームサービスで。「グランピングフルーツ朝食」(夏季限定)や、クラウドテラスでのアウトドアダイニングでは好みの食材を挟む「プレスサンド朝食」も。


グランピングだからと行動的に過ごすだけが目的ではありません。とはいえ、‘森の遊び’として季節ごとに様々な提案がされている「星のや富士」ですから、頼りになるグランピングマスターと共に自然の中に身を投じてみるのもお勧めです。一方で、一人旅の女性が森の高所にあるクラウドテラスで読書に勤しむ姿も見かけました。こういう一人の静かな世界も、時には現代人に必要なのかもしれません。このクラウドテラスでは、タープの下で寝転んだり、コーヒーを淹れたり、キャンプファイアーで語り明かしたりなど、グランピングならではのアクティブな過ごし方も可能です。

私は、車で富士の麓の樹海まで連れて行ってもらいました。神秘の樹海を散策し、まるで秘密基地のような竜宮洞穴を訪れたり、知らない植物を観察したり…興味は尽きませんでした。富士の太古のエネルギーに抱かれ、知らないことだらけの自然界に言葉を失うほど感動したのです。グランピング「星のや富士」の滞在で改めて知った‘人と自然との共存’の大切さや難しさ、そして‘自然の驚異’への敬意など、楽しみと共に学びの多い滞在が心に強く残っています。



紅葉が美しい森の中、敷地の最上部に造られたクラウドテラスの一部にはウッドデッキの張り巡らされた場所がある。グランピングマスターが「森の遊び」を指南。



クラウドテラスのライブラリーカフェにある薪ストーブ。



秋に提供される夕食は黄葉に囲まれた特別席で。狩猟肉と山梨ワインを堪能する「秋の狩猟肉ペアリングディナー」や、他に季節の「グリルディナー」「グランピングカレー」などメニューが豊富。



グランピングマスターと楽しむ「薪割り」や、精通したガイドと共に上る「プライベート富士登山」「グラマラス月光ステイ」、全身で樹海を体験し癒されるウェルネスプログラム「樹海リトリート」などアクティビティも豊富に提案。



春の桜開花時期限定の「桜アペロ」は、キャビンエリア内にある桜の花見を楽しみながら、カクテルと桜餅で夕食前のひと時を過ごす。




取材・文/せきねきょうこ

Photo: 星のや富士




せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト

スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数、21年4月、新刊出版。

http://www.kyokosekine.com


DATA

星のや富士

 山梨県南都留郡富士河口湖町大石1408

📞: 050-3134-8091

https://hoshinoya.com/fuji/

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