都心のマンションを中心に外観からインテリアまで数々のプロジェクトを手掛けてきた建築家の三沢亮一さん、モデルでありコラムニストとしても活躍しSUMAUでも連載を持つクリス-ウェブ佳子さん。お二人とも多くのアートやオブジェを所有するアートファンであり、自身の生活に素敵に取り入れています。今回は、三沢亮一さんのご自宅でコレクションを眺めながら暮らしとアートについてお話いただきました。

オブジェが生活をより豊かなものにしてくれる

―まず、お二人がアートに興味をもつようになったきっかけを教えてください。

三沢「絵画はもちろん、オブジェなどもふくめて、広い意味でアートだと捉えているんですけれども、学生時代には早大のオリエント研究会に所属して中近東やシルクロードなどにたいへん興味があったんです。そのようなところからスタートして、アンティークを集めるようになったのがきっかけだったと思います」

クリス-ウェブ「私は、実家と祖父母の家にサイドボードがあって、小さい頃そこに飾ってあるウィスキーやオブジェを並べ替えて眺めるのが大好きだったんですね。今の家はそもそもサイドボードがないので、適度に物を散らして飾るように心がけているんです。例えば、麦わら帽子を集めているんですが、カンボジアやベトナム、タイなどいろんな場所に行っては農村の人たちがかぶっているような帽子を露天商で買って、壁に並べています」

適度にものが散りばめられたクリス-ウェブ佳子さんのリビング

三沢「それはとてもいいですね。私もラオスやタイなど、各地でカウベルを集めているのですが、並べてみるとその形状や造り方が少しずつ違っていて、それがすごく面白いんですよね。そこに国民性や背景が描き出されている気がします」

クリス-ウェブ「私も農村でカウベルを買ったことがあります。ココナッツ畑のおじさんが飾っていたものを購入したのですが、私がネックレスだと思ってつけて歩いていたら通り過ぎる人が笑うので、なぜかと思ったら『それはカウベルだよ』って教えられたんですよ(笑)」

三沢「私も、ものすごく大きなカウベルだと思っていたら、ゾウ用のものだったことがあります。いまのお話で、アートというと普通は絵画を思い浮かべますけど、ベルや帽子などの立体物、オブジェなどが思い出の品としても生活を豊かにするために必要なんだと改めて感じますね」

世界中で集められたベルの数々

トライバルアートと呼ばれる、かつてアフリカや南太平洋などの各地で固有の部族が使用した祭器や貨幣など

―本日(撮影時)は、三沢さんのお宅にお伺いしていますが、ご覧になっていかがですか。

クリス-ウェブ「面白いものがたくさんあって、ひとつひとつにどういったストーリーがあるのか聞きたくなります。アートやオブジェが部屋中に置いてあることで、ぐるっと見回したくなりますし、空間そのものが楽しいと感じます」

三沢「佳子さんのお部屋の写真も見せていただきましたが、こんなふうにインテリア空間にアートやオブジェがあふれているのは、かつての日本ではあまりなかった事なんです。潔く何もないほうが良いとされて、和室の床の間に1点だけ何かを飾るというイメージが皆さんにもありますよね。建築的な話をするとかつての日本の住宅は壁がなくて、もっと開放的だったんです。近年は構造的な意味からも、一戸建てもマンションも壁が多くなる傾向があり、必然的に演出すべき空間に結びつく。どのように魅力的にすべきか、というところで、いま模索をしている最中の方が多いはずです。すでに佳子さんのような表現を発信されているのは素晴らしいですね」


高価なものではなく自分が良いと感じたものを飾る

―お二人はどのような作品をお持ちですか?

クリス-ウェブ「高価なものはもちろんいいんですけれども、一見なんでもないガラクタに見えるようなものでも、思い出と共に家に持って帰った時に、新しい価値がそこで生まれると考えているんです。自分でその物をアートとして扱うことで、もっと自由に楽しめると思っています。以前、子供たちとレストランに行ったときに、初めて長女がコルクをあけたのですが、そのコルクが水でふやけてしまったんですね。それが人の顔のような形になったのも、長女が創り出したアートだと思い飾っています」

三沢「おっしゃる通り、自身の関心の有るモノ、歴史を感じられたり実際に使われたモノこそ、我々の周囲で特別なインテリア空間を作り上げていくと思います。さらに主観的に評価することが魅力的な空間を造っていくと思います。そのような意味では、我々はトライバルアートと呼ばれている、例えばアフリカの祭器など、かつて未開の部族が実際に使用していたものは、素朴で力強く、多様性があってモダンな空間に限りなくマッチする魅力を感じますね」

クリス-ウェブ「やはり旅先で見つけることが多いのでしょうか?」

三沢「旅は日常から離れて、新しい発見をする機会が多いですからね。その国のものもいいですし、先日はローマで古い日本の着物の見本帳を骨董品店で買ったのですが、そのように海外で改めて日本を発見するというのも面白いですね。また、アートフェア東京に展示する予定のシャルオさん(Gerard Charruau)の作品は、13年ほど前に偶然パリのギャラリーで見つけて、和紙を使っていることに、やはりどこか近しさや懐かしさを感じて感銘を受けたんです。それは、絵画では初めて心惹かれました」

クリス-ウェブ「私も旅先では、そういった偶然の出会いから購入することが多いですね。また、昨年訪れたパリで『フランシス・ベーコン展』へ行ったのですが、3番目の恋人を描いた『Triptych – In Memory of George Dyer』のピンクがとても印象的で刺激を受けました。こんなにエキセントリックで毒気があって、神経にささるピンクに出会ったことがなかったので、いまインテリアにピンクを取り入れたい欲望に駆られています。ベーコンの絵は高額すぎて購入できないですが、こんな風にインスピレーションを受けたことを生活にいかすこともあります」

クリス-ウェブさんはお子さんの絵もたくさん飾っているそう

―これからアートを生活に取り入れようを考えている方に、お2人からアドバイスをいただけますか?

クリス-ウェブ「まずアートとの出会い方でいうと、幸運なことに私は仕事柄、海外含め、様々な場所でいろいろなことに触れさせていただく機会が多いのですが、それは難しい方も多いと思うんです。もちろんFIACなどのエキシビションも素晴らしいですが、日本でも大きなエキシビションがあるので、そのチャンスはぜひ逃さないでほしいですね」

三沢「本来生活を楽しむための住空間を更に魅力的に表現するためには、建築の壁や床は固定されているので、空間を変えようとすると費用や時間もかかるし、そのための引っ越しとなるともっと大変ですよね。オブジェやアートを使えば空間を手軽に永続的に変えることができます。作品を飾る際には自分の個性を出すこと、自分を知ってもらうことを考えて、第一印象を与えることができるのがエントランスです。扉を開けたときの素晴らしい印象的なアートやオブジェで、住まう方の感性が伝わります」

クリス-ウェブ「私は玄関には、まだ何も飾っていなくて、合うものを探しているんです」

三沢「それも非常に楽しい時間ですよね。リビングには、スペースがあるので多様性で表現する事が重要です。寝室にはあまり人が入ることはないと思うので、自分が好きなものを飾る。絵やオブジェでなくても、家具でもいいですね。アートを置いて自分を表現することは、人にどうやって理解してもらいたいかという裏返しでもあるんです。他人との接点のなかで、そういった表現方法を知っておくといいと思います」

クリス-ウェブ「私の場合は、絵やオブジェ、インテリアにはそれぞれ適所があると思っていて。しっくりくるまでに何度も移動して眺めて…と繰り返して、あ、ここだったね、という場所が見つかった時が本当に嬉しいです。まずは置き場所を決め込まずに、色々と動かして試してみるというのも良いと思います」

―最後にアートを生活に取り入れることで、感じていることについて教えてください。

三沢「建築は年をとらないことが重要なんですが、人間は変化していくので、そういったところでも変化をつけられるアートは生活に必要なものではないでしょうか。建築と人間を結びつけるものがいるはずで、カーテンなどは物理的ですがアートやオブジェは精神的に結びつけるものではないかと思っています」

クリス-ウェブ「部屋を見回したときに、視線を送る場所がたくさんあって、その先に幸せを感じられるというのが私にとっての喜びですね。一つでも無くなってしまうと寂しいですし、幸せの数だけオブジェが増えていってもいいのかなと感じています」

三沢「私もアートの向こうにある、“何か”を求めています。アートそのものに集中しすぎてしまうと局所的になってしまうので、外に目を向けるきっかけとして、アートが存在していることが重要ではないでしょうか。閉鎖的にならずに未来志向で、開放的に…アート作品を通してそういった気持ちにつながるのではないかと思います」



三沢亮一

株式会社ミサワアソシエイツ一級建築士事務所 代表取締役、株式会社M・A・I 代表取締役、早稲田大学理工学部建築学科卒業。都心のハイエンドマンションをはじめ、数多くの共同住宅プロジェクトを担う。2009年には渋谷区神宮前に「ギャラリーRYO」を開設。UDMプロジェクト委員長。一般社団法人HEAD研究会理事・ライフスタイル塾 塾長。アートフェア東京2020では、 “Living With Art”をテーマとした株式会社モリモトのブースを手がける。


クリス‐ウェブ佳子

モデル、コラムニスト。1979年10月、島根生まれ、大阪育ち。4年半にわたるニューヨーク生活や国際結婚により、インターナショナルな交友関係を持つ。バイヤー、PRなど幅広い職業経験で培われた独自のセンスが話題となり、2011年より雑誌「VERY」専属モデルに。ストレートな物言いと広い見識で、トークショーやイベント、空間、商品プロデュースの分野でも才覚を発揮する。2017年にはエッセイ集「考える女」(光文社刊)、2018年にはトラベル本「TRIP with KIDS―こありっぷ―」(講談社刊)を発行。interFM897にてラジオDJとしても活動中。SUMAUでは、「理想の“おうち”」を隔月連載。

取材&文・SUMAU編集部

撮影・古本麻由未

衣装協力・TOMORROWLAND

スタイリスト・朝倉 豊

ヘアメイク・YUMBOU(ilumini)


Share

LINK