好きなアートをインテリアに素敵に取り入れている大日方久美子さん。ジャンルにとらわれず、幅広い作品に親しんでいるという大日方さんが、日頃アートにどのように触れているのか。コレクションの一部を見せていただきながら、大日方さんらしい、アートとのかかわり方を教えていただきました。


知的欲求を満たしてくれる

アートの面白さ


―アート作品を日ごろどのように楽しんでいますか

話題の美術展を観に行ったり、海外で有名な美術館に訪れたりということはよくしていますね。テレビや記事でたまたま情報をみて、海外で好きなアーティストの美術展が開催されていると知ったら、それに合わせて旅行を計画することもあります。

世界的に有名な作品に関しては、作家の背景や生い立ちを調べて観に行くのが楽しくて。ピカソは特に面白いですよね。ピカソ美術館に行くと10代から生涯にわたって描かれた作品があって、心境とともに作風が変わっていく様を一連で観ることができるんです。様々な作品を描きながら、最後には子どもの頃のような発想で描きたいと行きついて、一生懸命に子どものようなタッチに戻ろうとしたと聞きました。改めて、子どものように無垢になることの難しさと幸福さを感じましたね。

そんなふうに、アートからは自分が持ち合わせてない才能や、考えたこともない思想を教えてもらえるんです。考え方や、見える景色まで変わってくることがありますね。私はそもそも知的欲求が強いので、知らないこと、見たことないもの、考えたことのないことにすごく刺激を受けるんです。

パッと見て素敵な作品だと思ったら、このアーティストはどんな人なんだろうと気になって、すぐに調べます。そうすると「ピカソの元カノだった!」ということもあって(笑)。ピカソの作品と、元恋人の作品が並べてあった時は並べた人の意図まで感じ取れて、さらに面白くなりますよね。



―アートを購入するようになったのはどういった経緯でしたか?

もともと主人のお母さんが画家で、彼にとってアートはとても身近で知見もあったんですね。そんな彼と一緒に暮らすようになったことは大きいです。また、株式会社を設立する際に社会貢献活動の一環として、若手アーティストのパトロンになることにしたんです。純粋に素敵だと思える作品を制作しているアーティストに声をかけていて、SHOHEI TAKASAKIというアーティストとは長期にわたって交流があります。



―特に思い入れのある作品を教えてください。

フランスのストリートアーティストのJR(ジェイアール)の作品でしょうか。「アートで世界を変えられる」という想いから、貧民街や被災地などに訪れて街全体をキャンバスに、モノクロのポートレートを使って巨大な作品を生み出している人です。世界中から注目させることで、その街がどのような情勢になっているか、多くの人に伝えることまで含めて、彼にとっての作品になるんですね。その思想にとても共感して、彼の作品が青山のワタリウム美術館に来ると聞いて買いに行きました。

ラピュタのセル画も「目玉焼きは半分こ」というタイトルがついているんですが、彼が「僕たちは、何でも半分こしながら生きていこう」、という意味を込めて買ってくれました。そういう想いがあるものはやっぱりいいですよね。

大日方さんがその考え方に共感するというJRの作品

ろう下に飾られた天空の城ラピュタのワンシーンのセル画

―どのようなタイミングで作品を買うことが多いですか?

意識的に集めているわけではなくて、出会ったタイミングと気持ちや状況がぴったり合ったときに買いますね。例えばこのスター・ウォーズの浮世絵を購入した時は、クラウドファンディングで制作のプロジェクトを見つけて制作者の想いを知ったこと、主人がスター・ウォーズの大ファンだったことと、もちろん作品が素敵だということもあって、購入しました。

日本の伝統技術で作られ、公式にも認められている浮世絵スター・ウォーズ「星間大戦絵巻 惑星補巣の戦い」

1本1本の線のタッチが気に入って購入したというfoxco(フォクスコ)のイラスト

旅先で、たまたま個展をやっているところに出くわして、作品を買ったこともあります。そうなると旅の想い出も付随するので、さらに自分にとって大切なものになっていきます。

日本には、まだまだアート作品を買うという文化が根付いていないのかなと感じることはよくあります。

以前、人気写真家の個展を見に行ったときに、広い会場にたくさんの若い人がいたのですが、その日、実際購入した人は少ないと聞きました。

若い方は買えることを知らない可能性もありますし、単にまだ買えるだけの経済力がないのかもしれませんがアートを買うことは、アーティストに対する敬意の気持ちだとも思っています。展示を見て感動したら、それを買うことで感謝の気持ちを伝えられる部分もあると思います。もちろん、私も買えないときもありますが、買える範囲であれば何かしらで還元したいという気持ちでいます。

まずは自分を知ることで

好きな作品が見えてくる

―アートに興味があっても購入のきっかけがつかめない方にアドバイスはありますか?

自分のいる空間にその作品があったら心が豊かになる、家にいるのが楽しくなる、おしゃれに見える…そんなふうに少しでも気持ちが動いたときに買えばいいんじゃないかな。

何を選べばいいかわからないという人は、まず自分が好きなものを知ったほうがいいと思います。生きていくうえで、何が好きで何が嫌いかをわかっていたほうがとても楽ですよ。その感覚は日常のなかで、何かを好きだなと感じたらなぜ好きなのか、と分析してみることで、すこしずつ磨かれていくはずです。

人の評価だけ気にして高額だという理由だけで飛びついたとしたら、その価格がついていることに対して価値があると思っているだけで、自分の価値とは違うはずです。例えば500万円のバッグをあげるって言われても、いらないと思う場合もあるし、5万円でも一生大事にしようという場合もありますよね。絵も全く同じことだと思います。

パトロンをしているSHOHEI TAKASAKIに関しては、彼自身にも作品にも本当に恋をしてサポートしていたのですが、どんどん人気が出ていて、それはそれですごく嬉しいですよ。映画にもなっている『ハーブ&ドロシー』というニューヨークに住む老夫婦の話があるのですが、若手のアーティストの作品を買うのが趣味で、その夫婦に買われると、みるみるうちにアーティストが有名になっていくんです。老夫婦のコレクションは何十億もの価値がつくんですが、彼らは決して裕福ではないのに売ることはしないんです。ただ好きな作品を集めて、アーティストたちの成長を楽しんでいるんですね。その気持ちもすごくよくわかります。

デッキ(スケートボードの板)とデッドストックのスピーカーを組み合わせた作品は、アーティストの松田雪音さんに直接オーダーしたそう

―大日方さんにとってアートを所有することで感じる一番の喜びはなんですか?

絵を見た時にそのときの感情を思い出せることかな。墓石に近いものがあるんですが、高いお金を払って、お墓を作る意味があるのかって若い時は思っていたんですね。でも、あるときお墓に行くことでその人のことを思い出せて、そのころの自分に立ち返ることができる、そのために必要なんだと気付いたんです。同じように、彼とケンカをしてもラピュタのセル画を見たら「そうだ、なんでも半分こなんだ」って気持ちを改めますし、ほかの作品でも買ったときの気持ちや交わした会話も細かく思い出せるんです。絵を買うってコンビニでジュースを買うのとは違って、何か思いがあって買うものですよね。思い出も一緒に飾っているような感覚です。

ご主人が手掛けた広告のアートワークと、コレクションの一部

例えばこれも、主人がラフォーレの広告を初めて指名で担当した時のものなんです。広告の仕事をしている人にとって、ラフォーレの広告を手がけることは目標のひとつにもなるんですね。その広告が掲出される日がちょうど私の誕生日で一緒に観に行きました。これこそ購入したわけではなく思い出の品を額に入れているだけなんですよね。

アートというと高尚な趣味のように感じる人もいますが、自分が好きなものを、アートを通して表しているだけなんです。アーティストたちも、自分の生き様や生きるための表現として、思いの丈をぶつけた結果が作品なんですよね。だから、あまり自分とかけ離れたものだと思わないほうがいいと思います。作品を理解できないと恥ずかしいということもないし、全てを理解しようとすることも無意味で、好きか嫌いか、素敵か素敵じゃないか、欲しいか欲しくないかという、もっと素直に気軽に触れるものがアートだと思います。

パトロンをしているSHOHEI TAKASAKIの作品

大日方久美子
インスタグラム:@kumi511976

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