本サイトSUMAUをはじめ、女性誌でも、フランスの暮らしを紹介する連載は変わらぬ人気があります。インテリア、食、花、アンティーク。こういった要素を個人主義に基づく「自分らしさ」を軸にして、まとめあげるフランスの暮らしには、日本の女性を惹きつける何かがあります。

イタリアやドイツの建築的なデザインを取材することの多い私ですが、フランス・パリの「メゾン・エ・オブジェ」やパリ・デザイン・ウィークを取材する機会を得ました。久々に体験したフランス・パリのデザイン。そこであることに気づきました。それはデザインの中にある「甘さ」です。
最初に強烈に感じたのは、メゾン・エ・オブジェ会場で展示されていた「フィール・ザ・シフト」という展示です。スペインのデザインデュオ「マスケパシオ」が手掛けたもの。

色、柄、カーテン、テクスチャーが幾重にも重なり、クラシックな引用と未来的なフォルム、ポップな色彩までが同居しています。

家具、照明、オブジェが集められた空間は、ミニマルとは正反対。かなり濃い。それなのに、不思議と心地よい「甘さ」がありました。

さらりとした粉砂糖のような甘さを刺繍で
対照的だったのが調理道具やテーブルウェアゾーンのシンボルイベントを手がけたサラ・エスペートのテーブルデコレーションです。

もとはグラフィックデザインを手がけていた彼女は、線を糸に変えて描くエンブロイダリーのリネンで一躍有名になったそうです。

長いテーブルクロスに刺繍された手や食器、人物の足。南仏の食卓や、人が集まって食事をする日常の情景を、リネンの上に細い糸で描いていきます。前出のマスケパシオとは正反対の、静かで可憐な甘さです。

濃厚な甘さと、可憐な甘さ。
この二つを見たあとで会場を歩いていると、今回のパリではプロダクトそのものにも「甘さ」があふれていることに気づきました。
アフリカや中東の異国情緒
バカンスで世界を旅することを愛するフランス人。インテリア製品にはエトランジェ(異国情緒)なムードを持つものも少なくありません。こちらは南アフリカのデザイナーのインテリアプロダクト。

コンテンポラリーでありながら、アフリカのカルチャーを交えたデザインです。
またギャラリーのような空間ではテラコッタ色の空間に、エスニックとモダンが混ざったようなオブジェが集められています。

日本や北欧のミニマリズムとは違います。イタリアの家具に感じる建築的な構成美や、ドイツの合理性とも少し違います。かといって、装飾を重ねたクラシックなデコラティブでもありません。
デコラティブとモダンの中間を、かなり自由に行き来しているのです。
デザインプロダクトの中に見るフランス
会場で見た家具にもそんな要素が見られます。花びらや葉が重なったようなテーブルはネルソン・アルヴェス+マクサンス・ボワソーが2015年にデザインしたもので、フランス国立コレクションにも収蔵されています。

「デザインディストリクト」というゾーンでは、どのデザインもそれぞれ違った方法で、暮らしに感情や気分を持ち込もうとする姿勢を感じました。

こうして並べてみると、「甘い」とは、単にかわいいという意味ではないのだと思います。

直線だけで終わらず、曲線を加える。無彩色だけで完結せず、色を差す。機能を満たしたところでデザインを止めず、柄や手触り、ユーモアをもう一つ加えてみる。

削ぎ落とすことで完成させるのではなく、少し「足す」ことを怖がらない。そこに、今のパリで感じた新しいモダンデザインの雰囲気があります。
パリではデザインの出発点が、必ずしも企業やマーケットではないということです。メゾンエオブジェの会場では、若手デザイナーの出展の割合がかなり多く、メーカーの開発力以上に個人のアイディアがデザインプロダクトの原点だという意識を感じました。
若手のアーティスティックな活動がデザインに
芸術の街パリですが、純粋なアートとは違う「デザイン」です。個人のアイディアに起点があるという感覚は、ファッションの世界を見るとさらにわかりやすくなります。

パリやロンドンでは、学生が発信する卒業制作や実験的な表現そのものが、次の才能を発掘する重要な場所になっています。学校を卒業し、企業に入って初めてデザイナーとして認められるのではなく、その前から一人のつくり手として作品を発信し、そこに業界の視線が注がれます。
市街のギャラリーでは1点ものアートに限定しない、デザインプロダクトを意識したアイディアを発表する場所が多くありました。

つまり、企業が市場を調査し、「次は何が売れるのか」と考えるところから始まるのとは逆の流れがあります。
「私はこれが好き」「こんなものをつくりたい」。そんな個人的な感覚からまず形が生まれ、それが人の目に触れ、ギャラリーや見本市、そして企業へとつながっていきます。
だからこそ、今回パリで見つけた「甘いデザイン」にも、どこか自由さがあるのかもしれません。

合理的であること、長く使えること、機能的であること。それらはもちろん大切です。でも、それだけでは暮らしは少しつまらない。色を一つ足してみる。曲線を入れてみる。少し不思議な形を選んでみる。

それは装飾への回帰というよりも、つくり手の感覚や、使う人の感情を削りすぎないデザインなのだと思います。甘さはかわいさではなく、感情を削りすぎないこと。

パリの「甘さ」とは、暮らしにそんな余白を許すことなのかもしれません。
Report & text 本間美紀(インテリア&キッチンジャーナリスト)

早稲田大学第一文学部卒業後、インテリアの専門誌「室内」の編集者を経て、独立後はインテリア、キッチン、デザイン関連の編集執筆、セミナー、企業のコミュニケーション支援など活動を多岐に広げている。著書「リアルキッチン&インテリア」「人生を変えるインテリアキッチン」「リアルリビング&インテリア」(小学館)で、水回りとインテリアと空間が溶け合う暮らしという新しい考え方を広げ、新世代読者の共感を得ている。ミラノサローネ、メッセフランクフルト、アルタガンマ財団など世界のインテリア見本市や本社から招聘され、イタリア、ドイツ、北欧など海外取材も多数。
Instagram:@realkitchen_interior
















