ホテル「The Shinmonzen」は、京都祇園を流れる清らかな白川に沿い、しっとりと佇む瀟洒なブティックホテル。ここは「祇園新橋伝統的建造物群保存地区」でもあり、ホテル周辺は昔ながらの建築様式が厳重に守られ、京都に於いても貴重な一画なのです。今でこそ、このホテルは京都随一の古美術商が立ち並ぶ町の一角で、伝統的な家並にすっかり溶け込み人気を集めていますが、開業は10年以上もかけた大変なプロジェクトだったといいます。建物の表には敢えてホテル名を示す看板も出さず、白川沿いの目立つ場所にありながら黒っぽい建物は多くを語っていません。まるで隠れ家のような雰囲気を保つ不思議な魅力を讃えているのです。
そんなホテルを目指すには、黒一色の大暖簾の中央に白で描かれたスタイリッシュなホテル名の頭文字「S」のロゴを探すこと。よくよく見れば、シンプルな暖簾からは充分過ぎるほどオーラが伝わってきます。私自身、初めてこの暖簾をくぐる時には少しだけ緊張し、深呼吸をして背筋を伸ばしたのを覚えています。
暖簾の奥にあるエントランスの最初のドアが開くと、表の静謐な雰囲気とはガラっと趣が変わり、長いコリドーには眩いほど煌びやかなゴールドの壁が続き、そこを歩いてレセプションに足を踏み入れると、空気は一変します。緊張どころか、落ち着いた雰囲気の中で笑顔のウェルカムを受け、ホッと一息つけるのです。このホテルではスタッフもグローバルな雰囲気の中、さすがに世界中からやってくる観光客で賑わう京都らしさを感じます。


上質なホテル造りに快適な滞在
訪れるより住みたいホテル
ホテル造りにあたり、関係者から「古都の伝統に敬意を払い、今を生きる現代、そしてさらに未来に向けての新しいライフスタイルとしての空間造り」が成されたと教えていただきました。過ぎ去った歴史を今に表すのは実は容易いことではないのですが、オーナーでありアートに精通したアイルランド人、パディ・マッキレン氏の意思や、建築家の安藤忠雄氏の美意識が相俟って館内に表現され、理屈ではない居心地の良さが生まれていました。
客室内のデザインも‘和と洋’の魅力が重なっています。たった9室だけの限られたブティックホテルの客室はそれぞれに趣が違い、いずれの部屋も、まるでフランスに暮らしているような印象を素直に感じさせてくれました。室内は奇をてらうデザインではなく、日常のライフスタイルの中にある、上質でセンスの良い家具やこだわりのアートがとても自然に映ります。高級なアパルトマンのごとく、部屋に入ると自宅に着いたときのような居心地の良さも感じるのです。バスルームのアメニティはソープ、ローションが「The Shinmonzen」オリジナルでヒノキとスギのもの、シャンプー、コンディショナー、シャワージェルはオーナーが経営するフランスの姉妹ホテル「Villa La Coste」(ヴィラ・ラ・コスト 2016年創業)のものを揃えています。ホテル1階には、有名なミシュランシェフのジャン-ジョルジュが監修したファインダイニング「Jean-Georges at The Shinmonzen」があります。世界的に名高い巨匠、ジャン-ジョルジュ・ヴォンゲリステンが手がけるモダンフレンチレストラン。そのコンセプトは「地元の旬の食材を多く使用し、フレンチ、アメリカン、アジアンの要素を融合させた、季節ごとに進化する繊細で優美な料理」と掲げています。また、オーナー自身が所有するフランスのワイナリーから仕入れるフランスワインをはじめ、世界の逸品など3,000本のワインが常備され、食事時にはワインのマリアージュも楽しめます。食事以外にも、リバーサイドのテラスで楽しめるアフタヌーンティーが大人気。季節ごとのテーマを設け、コーヒー・紅茶の120分間フリーフロー付きで楽しめる美しいアフタヌーンティーは優雅な時間となるはずです。




カルチャー、現代アート、食に
京都とフランスの‘洗練’を感じます!
2024年6月には、ホテル1階の路面店として「OGATA at The Shinmonzen」が開業。日本茶、菓子、器、香りなど、‘上質な京都’が買えるブティックであり、「自然との共生により受け継がれてきた日本の伝統文化に基づき、現代における暮らしの作法を提唱」と掲げ、様々な文化体験の場としてフランスにも「OGATA Paris」が展開中です。
京都の真っただ中にフランスが香る「The Shinmonzen」。アイルランド人オーナーのパディ・マッキレン氏は、美しい自然が印象的な南フランスのエキサンプロバンスとリュベロン自然公園の中間に広がる広大な敷地に、姉妹ホテル「Villa La Coste」を経営。ヴィラは、季節も風景も穏やかなプロヴァンスで、バイオダイナミック農法を実践するワイナリー「シャトー・ラ・コスト」の敷地内に位置しています。「The Shinmonzen」では、館内の随所にアートを愛するオーナー所有の作品が飾られています。きっと、南仏のヴィラ同様に愛情を込めてお気に入りのアートに包まれた空間を表現しているのでしょう。
「The Shinmonzen」の建築家は安藤忠雄氏であり、氏の言葉が公開されています。「おもてなしを大切にする日本と、喜びを大切にするプロヴァンスの姉妹ホテル「Villa La Coste」の心を大切に」と。数多のホテルが存在する京都に於いても、唯一無二であることの存在感があるのです。贔屓目と言われそうですが、日本にはこれまでなかったホテルの個性に、快適さや幸せな滞在が倍増するのです。



取材・文/せきねきょうこ
Photo: THE SHINMONZEN
せきねきょうこ/ホテルジャーナリスト
スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのアドバイザー、コンサルタントも。著書多数。
Instagram: @ksekine_official
DATA
THE SHINMONZEN
京都市東山区新門前通西之町235
📞+81 75 533 6553












