最近、デザイン家具の世界でよく聞く言葉が「コレクタブル家具」。コレクタブルとは「収集する価値がある」という意味です。ヴィンテージの服やオールドトイ、時計など、特定のものに価値を感じる趣味の世界のように、暮らしの道具である家具にも「収集」「鑑賞」「所有する喜び」という新しい価値が加わっています。
そんな傾向を反映するように2026年のミラノ国際家具見本市では「サローネラリタス」というゾーンが登場しました。12カ国から28のギャラリーが参加し、希少性が高いもの、作家性の強いもの、手仕事の価値を宿した、個性的な家具がそろいました。

エディションブランドはいつでもカウンターカルチャー
イギリスの「エスタブリッシュド&サンズ」は2005年にロンドンで生まれた英国ブランドです。デザイナーで起業家のセバスチャン・ロング(Sebastian Wrong)らによって創業。従来の家具メーカーとは異なり、デザイン、アートを追求したエディション(編集型)ブランドの先駆けと言えます。限定モデルから実際の暮らしで使える家具までを発表してきました。

少量生産を基本に、世界的デザイナーの独創性を尊重しながら、前衛性と量産性の境界を探るプロダクトを発表してきました。その作品の多くは美術館やギャラリーにも収蔵され、ブランド自身も「手が届く前衛的なデザイン」を掲げています。家具という「もの」よりも、デザインそのものをブランド価値とする姿勢が特徴です。

この製品は2008年に発表したストレージ「スタックス」。デザインユニット、ロウエッジの才能を早くから見出し、2026年にミラノサローネで再発表。色を現代的に再解釈して発表していましたが、現代のインテリアにも新鮮な存在感を放っていました。

浮遊するように積み重なる引き出しは本来、収納としては合理的ではありません。けれども手元に置いておきたい。眺めておきたい。そんな感情を呼び起こすのが、コレクタブル家具なのです。リュクスなハイブランド家具に対するカウンターカルチャーとも言えます。
リュクスブランドとアートを両立する
ハイエンドブランドで量産家具を手掛けながら、一方で実験的なアートピースも制作するデザイナーもいます。
フランス人デザイナーのクリスチャン・デルクールは2025年からモルテーニに参画し、幾何学的なフォルムと異素材の組み合わせで衝撃的なデビューを果たしました。下はモルテーニで発表した家具です。とてもエレガント!

一方でこちらも同じくクリストフ・デルクールのデザイン。「デルクールコレクション」としてブランドの方向性や商業的な縛りから離れた自由な創作家具として発表しています。多くが工房や職人、小さな企業でつくられ、量産はできません。けれども彼の素直な感情が伝わってきます。

クラフト感があり、とても同じ人のデザインとは思えません。こういった才能を味わう審美眼を持った人の目にかなうのが、コレクタブル家具の一つの側面ですね。

あり得ないテーマにも挑戦できる
急に話は変わりますが、ブラジルのカポエイラという舞踏武術を知っていますか?
そこから発想したソファもあります。

アンナ・マヤはブラジル人のデザイナーですが、このソファは「ジンガ」という名前。ジンガとはカポエイラの基本のステップで、体を側転させたり屈伸させる動き。その時に演者の服に寄る皺や、足先での円形の動きを、感じるままに立体へと翻訳したようなフォルムです。

そんな自由な発想からきているのに、非常に機能的なモジュールソファで、サークルベースのユニットを組み合わせて、かつ球状の張地に生まれるしわが人体を思わせます。愛らしくて、つい背もたれを抱えたりもたれ掛かったりしたくなる。触れ合いを呼びおこす家具です。
どちらも価値があり、どちらも意味がある
量産できるデザイン家具と、1点ものであるアートピースの違いは何か? 家具のデザインやブランドが世界中に広がり、幅広い世代に知られる中で、そんな問いかけをするブランドが増えるようになりました。ブランドは広く知られたい。しかし広まりすぎれば、希少性は薄れてしまう。多くの企業の葛藤が、コレクタブル家具の中に見えます。

世界で最も有名な家具ブランドのカッシーナも若手作家支援プログラム「パトロネージュ」を背景に、アートピースと量産プロダクトを並置するイベントを支援しました。

一般に家具は人を主役とし、居心地の良さを生み出し、(特に日本では)主張しないものが好まれます。その一方でカウンターカルチャーとして、ギャラリーで扱われるような実験的デザインを家具として発表する動きは長く続いています。そのブームがこの数年、盛り上がってきているのです。

多くの人が手にするデザイン家具も、数に限りがあったり、アーティスティックゆえの個体差があるコレクタブルファニチャー。どちらも意味があり、どちらも価値があります。

もし心を動かされる家具に出会ったら、その前で少し立ち止まってみてください。使うためだけではない家具の価値に、きっと気づくはずです。

Report & text 本間美紀(インテリア&キッチンジャーナリスト)
早稲田大学第一文学部卒業後、インテリアの専門誌「室内」の編集者を経て、独立後はインテリア、キッチン、デザイン関連の編集執筆、セミナー、企業のコミュニケーション支援など活動を多岐に広げている。著書「リアルキッチン&インテリア」「人生を変えるインテリアキッチン」「リアルリビング&インテリア」(小学館)で、水回りとインテリアと空間が溶け合う暮らしという新しい考え方を広げ、新世代読者の共感を得ている。ミラノサローネ、メッセフランクフルト、アルタガンマ財団など世界のインテリア見本市や本社から招聘され、イタリア、ドイツ、北欧など海外取材も多数。
Instagram:@realkitchen_interior















