友人が訪ねて来たら連れて行きたいお気に入りの店が誰にでもひとつはあります。街の人々に愛される店こそ、胸をはって紹介したい“わが街の味”。この連載では、そんな街で人気のお店を紹介しています。今月の街は千駄木、根津、谷中周辺。山手線の内側に残る昭和レトロな街で古くから愛されてきた喫茶店です。
紹介する街●谷中
【喫茶】
形を変えながらも街を見守る
地元で愛される喫茶店
昭和の街の面影を残す台東区谷中。この街のシンボルが築100年を超す古民家のカヤバ珈琲だ。上野桜木の交差点に面した建物は推定大正5(1916)年建築。古い町家の風情を色濃く残す木造の2階家で、軒を前面に張り出した出桁造りの外観も印象的だ。

カヤバ珈琲店が登場したのは昭和13(1938)年。その前にはミルクホールやあんみつ店などがあったという。そのオープン以来、カヤバ珈琲店は地元の人々に愛されてきた。東京芸術大学が近いこともあり、大学関係者も多く通い、芸術や文化の香りが漂う喫茶店であった。
後継者がいないことなどから平成18(2006)年にいったんその歴史に幕を閉じたが、閉店を惜しむ声に支えられ、NPO法人たいとう歴史都市研究会が借り受けて平成20(2008)年にカヤバ珈琲として復活させた。

店舗は古きよき町家の良さを残しつつ、リニューアルされて使いやすく蘇り、居心地のいい空間になっている。さらにメニューもかつての人気メニューは残し、そこに現代らしい新しいものを加えてパワーアップした。

カヤバ珈琲といえばのシグネチャーは『たまごサンド』。こちらも健在だが、玉子焼きとマヨネーズの組み合わせは受け継ぎながらも、パンは墨田区本所のベーカリー『マークト』、マヨネーズにはディルを忍ばせるなど、ブラッシュアップされてさらにおいしくなっている。

焼き立ての卵焼きをレーズン酵母の山食パンに挟んでいる。
もうひとつの名物メニューはココアとコーヒーをミックスした『ルシアン』だ。この2つを混ぜるという発想はいかにも昭和のドリンクのようで楽しい。ただし、ココアはチョコレートとミルクから作る自家製。コーヒーは、カヤバ自慢のドリップコーヒーで、いわゆる濃くてビターな喫茶店のコーヒーではなく、豆の特徴を活かしたフルーティーなコーヒーがベースと、細部はしっかり現代に置き換わっているのだ。

カヤバ珈琲の名物のひとつ。コーヒーとココアを半分ずつ混ぜ合わせたドリンク。
カヤバ珈琲の営業は朝8時からと早い。近所に宿泊している旅行者が朝ごはんを食べにきたり、地元の人たちが出勤前にコーヒーを買いに来たり、と街の一部として見事に機能している。

「谷中は昔ながらの建物や路地などの風景が美しく、街の人たちもつながりがあり暖かい雰囲気が魅力です」というのは店長の谷川さん。
変わらずあり続ける存在として、街に住む人々や、喫茶をお客様にホッとする時間を過ごしてもらえる場所にしたいという。
「カヤバ珈琲は谷中のシンボルとして昔ながらの下町の雰囲気と共に1日でも長く変わらず残していきたいと思っています。」と続けた。
時代は移り変わっても、どこか懐かしく温かな谷中の街で、カヤバ珈琲は続いていくのだ。

カヤバ珈琲
かやばこーひー
住所:東京都台東区谷中6-1−29
電話:03-4361-3115
営業時間:8:00~18:00(LO料理17:00、ドリンク17:30)
定休日:月曜(祝日の場合は翌火曜)
※掲載価格は税込み価格です(2024年12月現在)
