11月から始まるクリスマスのライトアップ。輝く街並みの向こうに、1年の思い出が走馬灯のように駆け巡る……そんな季節が到来。フランス語でノエルと呼ばれるクリスマスは一年で最も大切な行事。華やぐ街を歩きながら、ノエルの楽しみ方をご紹介します。

 クリスマスのパリで真っ先に訪れたいのがシャンセリゼ通り。今年は11月24日に点灯式を開催する。毎年、俳優や歌手などの著名人が点灯スイッチを押すが、今年はパリオリンピックの会長、トニー・エスタンゲがその役を担う。イルミネーションの点灯は午後6時30分。シャンゼリゼ通りはその前から歩行者天国となり、午後4時30分かブラスバンド、コンサート、DJの演奏が繰り広げられる。また、今年は凱旋門の近くに、高さ13.5mのリサイクル可能なクリスマスツリーを設置。ツリーは大通りのライトアップと同様にLEDでドレスアップされる。

左2018年〜2021年に使われた赤のLED。右は2014年〜2017年のLEDで、雨のしずくのように光が木の枝を伝うデザイン。

 ライトアップのデザインは3〜4年ごとに変わり、前回は「フランボワイヤン(炎)」がテーマの赤いライト、その前は星をイメージしたイルミネーションが使われた。省エネルギーの観点から、ライトアップ廃止が協議されたこともあったが、主催者のシャンゼリゼ通り委員会は「伝統の維持」「世界で最も美しい大通りが模範となるようなエネルギー対策を行う」と二つの課題に取り組んでいる。

 今年は11月17日から来年1月5日まで約7週間、ライトアップを開催。そのうち終夜点灯は12月24日と31日のみだ。以前は午前2時までの点灯だったが、シャンゼリゼ委員会は2022年から点灯時間を短縮し、午前0時に終了する。以来、電力消費量は40%削減した。そしてここ数年、LEDライトの装飾を担当しているフランスの企業、ブランシェール・イルミナシオン社によれば、LEDを100%点灯させないことで電力を削減。LED採用前の2006年の消費量は480,000kWhに対し、2023年は13,300kWhまで抑えられたという。

チュイルリー公園のクリスマスマーケット。シャレーと呼ばれる山小屋では、フランス各地のグルメを賞味できる。移動遊園地のアトラクションが多く、大人も子供も大興奮。
フランス東部のアルザス地方の名物であるプレッツェルや、スパイスを使ったケーキ、パンデピス、ジンジャークッキーなども販売。サヴォワ地方のラクレットチーズを用いたサンドイッチもクリスマスマーケットの定番。綿菓子やチュロスなど、お祭りに欠かせないスイーツも見つかる。
©️Léa Sotton-Paris je t’aime

 ライトアップを堪能した後は、パリ最大級のクリスマスマーケットが開催されるチュイルリー公園を訪問。11月16日から来年1月1日まで開催される。約80軒のシャレーでは、フランス各地の食を提供。アルザス地方の名物、プレッツェルや、サヴォワ地方の名物、ルブロションチーズとジャガイモ、ベーコン、タマネギを用いたグラタンのようなタルティフィレット、大きなラクレットチーズを溶かして、パンにはさんだサンドイッチなどに舌鼓を打ちたい。ホットワインをお供に熱々のフードをいただけば、体の隅までほっこり温まる。移動遊園地では大観覧車やフライングチェアなどの絶叫マシーン、ゴーカートなどさまざまなアトラクションを設置。アイススケート場が設置され、パリの中心でスケートが楽しめるのも嬉しい。

左・アンジェリーナ×メゾン・サラ・ラヴォワンヌのコラボ。右・赤いフルーツのビュッシュはブール・フリュイ・ルージュ。

 クリスマスの食卓を飾るスイーツといえば、ビュッシュ・ド・ノエル。Bûche de Noëlを和訳すると「クリスマスの切り株」。定番のビュッシュ・ド・ノエルは切り株型だが、近年はさまざまなデザインや味が発表されている。

 チュイルリー公園の前に本店を構える老舗サロン・ド・テ「アンジェリーナ」は今年、インテリアデザインブランド、メゾン・サラ・ラヴォワンヌとコラボレーション。メゾンの人気商品である、スラヴ風キャンドルスタンドから着想したそう。中身は軽いメレンゲとクリーミーな栗風味のムースとフルーティーなカシス。外側はダークチョコレート、軸のへこみに細く絞った栗のクリームを飾る。

 ブール・フリュイ・ルージュは和訳すると赤いフルーツのボール。ドーム型が美しいケーキは繊細なビスキュイ、ホワイトチョコレート、ラズベリーのムースとクリームで構成。表面は赤いミラーアイシングと金箔で仕上げている。

左・メゾンの名物、モンブランのビュッシュ。右・リヴォリ通り沿いの本店の創業は1903年。ココ・シャネルもお気に入りの店だったという。店外まで行列ができるほどの人気店だ。

 アンジェリーナのアイコンといえばモンブラン。そのビュッシュバージョンがこちら。メレンゲ、軽いホイップクリームを重ね、上に細く絞った栗のペースト、クリームとマロン・グラッセでデコレーション。モンブラン好きにはたまらない!

 ビュッシュ・ド・ノエルは6〜8人用でテイクアウトが基本だが、ブール・フリュイ・ルージュは1人用サイズも展開。シャンゼリゼ通りやクリスマスマーケットの散策後、120年の歴史を誇るという優雅なサロン・ド・テでほっと一息つきたい。

ノートルダム大聖堂は12月7日、約5年ぶりに扉を開ける。一般公開は12月8日から。写真は2017年12月に撮影。

 散歩の終着点はノートルダム大聖堂。火事の損傷を受けてから約5年の歳月を経て、12月8日からいよいよ一般公開がスタート。再開から1週間は、宗教的な儀式を開催するというから見逃せない。入場は予約制で、11月下旬から専用アプリケーションによる予約システムが導入される。(入場は当面無料)。1163年に着工し、200年をかけて完成した初期ゴシック建築の傑作であり、「パリの魂」と呼ばれる大聖堂。均等に円柱が配される内部は中世ヨーロッパの森をイメージしたという。一年を無事に過ごした感謝を神に捧げ、クリスマス散歩を締めくくってはいかがでしょう。

(文)木戸 美由紀/文筆家
女性誌編集職を経て、2002年からパリに在住。フランスを拠点に日本のメディアへの寄稿、撮影コーディネイターとして活動中。株式会社みゆき堂代表。マガジンハウスの月刊誌「アンド プレミアム」に「木戸美由紀のパリところどころ案内」を連載中。インスタグラム@kidoppifr

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