友人が訪ねて来たら連れて行きたいお気に入りの店が誰にでもひとつはあります。街の人々に愛される店こそ、胸をはって紹介したい“わが街の味”。この連載では、そんな街で人気のお店を紹介しています。今月は神奈川県川崎市の新丸子駅、そこに隣接する武蔵小杉駅周辺をご紹介。肩肘張らない上質な中華料理のレストランです。
紹介する街●武蔵小杉・新丸子
【中華】
素材選びの確かな目と、化学調味料に頼らないきれいな味わい
武蔵小杉駅前の喧騒から少し離れた場所に、ひっそりと佇む一軒、それが『UCHIDA-TEI』だ。
ホスピタリティと、ゲストの穏やかな笑い声に満ちたこの場所は、訪れる人が自分だけの秘密にしておきたくなるような、そんな艶やかな引力を持っている。オープンして10年以上、街の人々に守られ、育てられてきたからこそ、どこか親しみやすく、同時に凛とした空気が流れている。

カウンターでにこやかな笑顔を振りまくシェフの内田雅人さんが歩んできたのは、中華畑一筋の道。台湾料理から始まり、中華街の四川・上海料理、そして都内で培った広東料理ベースのヌーベルシノワと、積み重ねてきた技術は実に幅広い。2014年、この街で自身の店を開いて以来、その一皿は多くの食通を魅了してきた。
黒を基調としたスタイリッシュな空間に、フレンチレストランを思わせるショープレート。中華料理という枠を超えたシックなムードは、特別な夜を過ごす大人の隠れ家としても信頼されている。

しっとり蒸しあがったクエは、日本酒1100円と一緒に楽しみたい。豊潤でキレのいい高知県の日本酒『南』は、高知県出身の内田さんの親戚が作っているという。
特筆すべきは、やはりその料理のおいしさにある。
「化学調味料は使いません。素材が持つ力を引き出し、丁寧に出汁を重ねることで、深い味わいを作り出します」と内田さん。化学調味料ありきの中華料理にとって、その決断はなかなかに潔い。
また、魚の選び方ひとつにも、料理への真摯な思いが表れている。
例えば今日の魚は、神経締めされた五島列島のクエ。下処理が完璧なクエは鮮度をしっかりと保ち、程よくのった脂が、さっぱりとした蒸し煮にすることで繊細なおいしさを際立たせる。魚介はどれも付き合いが長いという河岸の仲買人が、内田さん好みの魚を目利きして送ってくれるという。

プリっとした大きな海老に、まろやかなチリソースが絡む。嚙みしめると、桜海老と大海老の2つのうま味が交差する。グラスワイン 1200円~
あるいは、異なる2種の海老でうま味の相乗効果を狙った『駿河湾産桜海老と大海老のチリソース』。こちらは、桜海老が大海老のうま味を底上げし、優しい味わいながらも余韻が長く、旨みが口中に静かに広がっていく。
調理方法はクラシックに軸足を置いている。その上で一つの料理と向き合い、様々な工夫を凝らしてより完成度を高める努力を怠らない。一皿ごとにサーブされる料理は、まるでフレンチのように美しく、運ばれてくるたびに食欲を掻き立ててくれる。

中華料理とワインのペアリングを楽しめるのもこの店のうれしいところ。
ワインに精通している内田さんが選ぶリストは秀逸だが、リスト外の銘醸ワインも数多いので、ワイン好きならぜひ相談してみたい。
ディナーは、カジュアルなものからフルコースまで5種類のコースを用意。一番人気は、前菜やフカヒレ、デザートなど9品がつく1万3200円のコースだ。その一方で、平日の夜はア・ラ・カルトもOKという使い勝手の良さがいい。

多くの企業を有する武蔵小杉にあることから、ビジネスの接待に使われることもしばしばという『UCHIDA-TEI』。その一方で、美食家の常連も多く、この地で10年余の時間を積み重ね、確かな輝きを放ち続けている。

UCHIDA-TEI
ウチダテイ
住所:神奈川県川崎市中原区新丸子東2-897-31
電話:044-982-9218
営業時間:月曜17:30〜22:30(最終入店20:30)、火曜~土曜11:30〜14:00(最終入店12:30)、17:30〜22:30(最終入店20:30)
休日:日曜、祝日
※掲載価格は税別価格です(2026年8月現在)
取材・文 岡本ジュン 写真・西﨑進也















