私が魯山人を意識したのは美術史を学んでいた学生時代のこと。その頃は、祖母が亡くなった直後で、彼女の残したものを使うことで存在を身近に感じていた。そして私にしっくりきたのは祖母が手作りした器に料理を盛ることだった。食べ物を盛り付けてみると、合うもの合わないものがあって、ぴたりと収まる料理が入ると、不思議なほど器の魅力が増した。料理と器が互いの良さを引き出す面白さをこの時知ったのだ。それがきっかけで、日に日に食器に興味を持つようになり、学部の書庫で焼き物に関する本を手当たり次第読み漁った。
そして出会ったのが魯山人だった。北大路魯山人は大正から昭和前期に活躍した篆刻(てんこく)家で書家、陶芸家、そして美食家で料理人という1つの枠に囚われない肩書を持つ人物。器は料理の着物として、料理に合わせた器を選ぶことや、天気を見て料理をすること、また料理は技術を身につければ良いというのではなく作る人の人格を表すものであること、また優れた料理人であるためには様々な美しいものに触れていくべきであることなど当時の私には目から鱗だった。
大人になってからは物の良さを知るためには手に入れる必要があるという考えにも影響を受けた。料理もそうだが、確かに食べただけでわかったようになっただけでは、それはわかっておらず、実際に調理場に立ち経験することで、その料理の何が優れているのかということがはじめて理解できるようになることと同じなのではないか。
魯山人は京都の上賀茂神社の社家のひとつに生まれ、生後すぐに不遇のため幾つかの家を転々とし、15歳の時に習字の懸賞一字書きで3つも賞を受けて頭角を現した。その後書道を教える傍ら、篆刻も学び、さらに各地の有力者の書生として金沢と京都などを転々とした。その頃出会った内貴清兵衛の食と芸術への見識に大いに影響を受け、魯山人自身も古美術の収集をするようになる。それが高じて「大雅堂芸術店」に携わることとなり、のちにその店の一角で売り物の器に料理を盛り付ける会員制の食堂「美食倶楽部」を立ち上げた。これが今の私と同じ年齢38歳のときだそうだ。
その後、大戦を挟み4年後には芝公園内の花の茶屋を買い取り、「星岡茶寮」の顧問兼料理人となり、昭和2年には北鎌倉に「星岡窯」を築窯し、お店で使うための器を製作した。魯山人の作る器は全くのオリジナルということは少なく、先人の作品を自分らしく昇華させたものが多い。焼き物を作ると、思い通りに焼けないものがいくつも出るが、それを無駄にはせずに、装飾をすることで新たな命を吹き込んだという。魯山人は食材に対しても同様に、野菜の皮すらも捨てずに使っていたという。


魯山人が収集した骨董を競売にかけたときに出版された書籍『北大路家蒐藏 古陶磁展覽會』には桃山時代の黄瀬戸輪花向付が掲載されている。今回ご紹介するこの器は、これをお手本にしたのかもしれない。


淡い黄色に発色した胎土に口縁から釉薬が流れ落ちる。私は輪花型の器が大好きなのだが、今回も例外ではなくこの器に出会ったとき、たっぷりとした深みと存在感に一目惚れした。
料理は鰹のカツにクリーミーな胡麻だれをかけた一品だ。今年になって、懐かしい場所が続々と閉店していくという寂しい情報がたびたび飛び込んできた。特にハワイのDFSやNeiman Marcus閉店のニュースはかなりの衝撃を持って受け止めた。嫌な予感がして幼い頃によく通っていた懐かしいレストランを調べてみると、こちらも閉店。この店の海苔で巻いたマグロのフライに、山葵醬油のソースをかけたものは絶品だった。もういただけないのならということで今回はその料理から連想した一品を作ってみた。鰹は1年のうち2度旬があり、初夏のこの季節は「初鰹」としてさっぱりといただける。表面はサクサクで、中身はレアに、そして爽やかな薬味とともに食感のグラデーションを楽しんでいただきたい。
鰹カツと魯山人黄瀬戸輪花向付

―材料(2人分)
- 鰹 1柵
- 生姜 5g
- 醤油 15g
- 小麦粉 適宜
- 卵 1個
- パン粉 適宜
[胡麻だれ]
- 白練り胡麻 30g
- 生クリーム(36%) 25g
- マヨネーズ 25g
- 米酢 10g
- 醤油 10g
- ごま油 3g
- 砂糖 15g
- 塩 1g
- 大葉 適宜
- 茗荷 1個
- 胡瓜 2分の1本
- 花穂紫蘇(あれば)適宜

① 生姜をすりおろす。鰹を袋に入れて、すりおろした生姜5gと醤油15gと一緒に揉み込んで冷蔵庫で30分以上休ませる。

② 胡麻ダレを作る。白練り胡麻30g、生クリーム25g、マヨネーズ25g、米酢10g、醤油10g、ごま油3g、砂糖15g、塩1gをダマが残らないようにしっかりと混ぜておく。
③ 大葉は細切り、茗荷はみじん切りに、胡瓜は小さな角に切っておく。


④ ①の鰹を袋から取り出して、表面の水分をキッチンペーパーで拭き取る。小麦粉、卵、パン粉の順にくぐらせて衣をつける。
⑤ フライパンに分量外の米油を入れて④の鰹の表面だけ揚げ焼きにする。



⑥ 鰹を食べよい幅に切って、器に入れる。上から胡瓜、胡麻ダレをたっぷり、再び鰹、胡麻だれ、胡瓜、大葉、茗荷の順に重ねる。あれば上から花穂紫蘇を散らすと香りだけでなく見た目も華やかになる。

料理家 千 麻子
学習院大学文学部哲学科および経済学部経営学科を卒業し、同大学史料館に勤めた。また美味しいもの好きが高じて美食の街、リヨンのポールボキューズ料理学校をはじめ、国内外問わず料理を学び、フランスではミシュラン3つ星のレストランの厨房でも研鑽を積む。
Instagram:@asako_sen













