この連載では、暮らしの中で知っておくとちょっと得する知識や、今さら周囲の人には聞きづらい疑問などについて、毎回その道のプロから教わります。

今回は、ビアジャーナリスト・ビアソムリエの五十嵐 糸さんに、おすすめのクラフトビールやおいしく飲むためのコツを教えていただきました。


空を見上げると、青空にむくむくと立ち上る入道雲。そんな景色を見ると本格的な夏の到来を実感します。太陽が照りつけ、空気がむっと熱を帯びるようになると無性に飲みたくなるのが、よく冷えたビールではないでしょうか。

軽やかで飲みやすいものから、トロピカルな香りが広がるものまで、ビールの味わいは驚くほど多彩です。今では150を超えるビールのスタイルがあり、その奥深さに魅了された造り手たちが増えたことで、日本国内のビール醸造所は900軒以上にのぼります。

最近では「クラフトビール」という言葉もすっかり定着し、個性豊かな味わいを楽しめるようになりました。ただ、種類が豊富なだけに、どれを選べばいいのか迷うのも事実です。

私自身、年間700種類以上のクラフトビールを飲んでいますが、季節や合わせるお料理、飲むシーンによって最適なビールがあると感じます。

本稿では、おうちで気軽に楽しめる、この夏おすすめのクラフトビールをご紹介します。クラフトビール選びのヒントとして、ぜひお役立てください。

ビールと料理の美味しい関係「ペアリング」

ビールのスタイルに合わせて料理を選ぶことで、どちらの美味しさもいっそう引き立てることができます。ビールと料理、それぞれが持つ風味が調和することで、相乗効果が生まれ、味わいに深みが加わるのです。また、ビールの酸味が料理の脂っこさを和らげるなど、気になる部分を相殺する効果もあります。

こうした関係性は、ワインでは“マリアージュ”と呼ばれていますが、クラフトビールでは“ペアリング”という言葉で親しまれています。

今回は、3つの代表的なビールのスタイルとそのペアリングのヒントをご紹介いたします。

夏のおすすめクラフトビール ① Pilsner-ピルスナー-

​​日本で長年親しまれてきた、黄金色に輝く定番のビール──それが「ピルスナー」です。喉越しがよく、爽快な飲み心地が特徴で、特に暑い夏の日には欠かせないスタイルとして、多くの方に愛されています。

このように幅広く親しまれているからこそ、世界中のビール職人たちが日々技術を磨き、最高の一杯を目指して切磋琢磨しています。そんな中、今年5月に行われた世界的なビールの審査会「WORLD BEER CUP 2025」のピルスナー部門で、日本のビールがなんと上位を席巻する快挙を成し遂げました。品質の高さが世界に認められた、日本代表のピルスナー3選です。

(左から)横浜ベイブルーイング  ベイピルスナー abv 5%、箕面ビール ピルスナー abv 5%、ハーヴェスト・ムーン ピルスナー abv 5.5%

・横浜ベイブルーイング  ベイピルスナー abv 5%

WORLD BEER CUP 2025 Bohemian-Style Pilsener部門にてアジア勢初の金賞受賞。世界一のピルスナーを造ることを目標に掲げてきたブルワリーの渾身のビール。チェコの伝統的製法によってもたらされるカラメルアロマ。しっかりとした苦味とクリーンなフィニッシュが特徴。

・箕面ビール ピルスナー abv 5%

WORLD BEER CUP 2025 Bohemian-Style Pilsener部門にて銅賞受賞。チェコ産ザーツホップのみを使用。ノーブルなホップの香りと奥行きのある風味、研ぎ澄まされたクリーンな味わい。

ハーヴェスト・ムーン ピルスナー abv 5.5%

WORLD BEER CUP 2022 Dortmunder/Export or German-Style Oktoberfest 金賞受賞。「きれいな味のビール」を目指して造られた、爽快感のあるすっきりとした仕上がり。深みのある苦味も効いています。

ピルスナーと楽しむ、旬野菜のひと品

ピルスナーは、気品ある繊細なホップの香りと、心地よい炒り麦のモルト香が魅力です。その豊かな香りを存分に味わうためにも、最初の一杯として楽しむのがおすすめです。

そんな爽やかな味わいにぴったり合うのが、ピクルス。茗荷やアスパラなど、夏の野菜を加えれば、季節の味わいも一緒に楽しめます。さっぱりとした一品が、ピルスナーのすっきりした飲み心地をより引き立ててくれますよ。

夏のおすすめクラフトビール ②  IPA-アイピーエー-

IPAは「インディア・ペールエール」の略で、クラフトビールの中でも人気の高いスタイルのひとつです。鮮烈なホップの香りと、強い苦味が特徴で、比較的アルコール度数が高めなのもポイントです。

IPAの主役は、なんといってもホップ。その種類や使い方によって、ビールの香りや味わいが大きく変わります。たとえば、レモンやグレープフルーツのような柑橘系、マンゴーやパイナップルのようなトロピカル系、バラのように華やかなフローラル系、など香りのバリエーションは実に豊か。ホップの組み合わせによって、まったく違う味わいが楽しめるのも、IPAの大きな魅力です。

(左から)オラホビール 雷電カンヌキIPA abv 6%、COEDO 毬花-Marihana- abv 4.5%、Y.MARKET BREWING ヒステリック IPA abv 7.7%

・オラホビール 雷電カンヌキIPA abv 6%

黄桃やパッションフルーツのようなトロピカルで華やかな香り。非常にクリアな口当たりでドリンカブルな1杯。初めてIPAを飲む方におすすめ。

・COEDO 毬花-Marihana- abv 4.5%

アルコール度数を控えめで仕上げた「セッションIPA」というスタイル。グレープフルーツの果皮をぎゅっと絞ったときのような、ビターで爽やかなシトラス感が印象的。

・Y.MARKET BREWING ヒステリック IPA abv 7.7%

パッションフルーツ、ライチ、グレープフルーツ、様々な果実が顔をだす複雑味のある芳醇な香り。時間をかけてゆっくり味わいたい。

ハーブを加えて料理とビールに一体感を

IPAは味も香りも強めなので、牛肉のステーキやハンバーガーなど、味付けのしっかりしたお料理とよく合います。また、ホップは、植物由来のハーバルな香りのニュアンスを持っています。そのため、お料理にもハーブを取り入れると、全体の味わいがよりまとまります。例えば、ローズマリーで香りづけをしたり、サラダにルッコラやディル、パクチーなどを加えてみてください。ハーブの風味が加わることで、IPAとの相性がさらに良くなります。

夏のおすすめクラフトビール ③ サワー系

ここ数年、注目を集めているビールのスタイルに「サワー系」と呼ばれるものがあります。名前の通り、酸味が特徴で、「ビールなのに酸っぱい?」と驚かれる方もいらっしゃるかもしれません。

実はこのサワー系ビールは、日本ではあまり馴染みがないものの、ベルギーや北ドイツといった地域で昔から伝統的に造られてきたスタイルです。

酸味のもととなっているのは、果物や発酵時に使われる特別な酵母からくるもの。近年では伝統を活かしつつ新しい解釈でつくられた現代的なサワー系クラフトビールも多く登場しています。

(左から)忽布古丹醸造 フルーツエール (ハスカップ)  abv 7%、奈良醸造 ECHOES abv 4.5%、MAHOW BREW Juliet abv 10%

・忽布古丹醸造 フルーツエール (ハスカップ)  abv 7%

富良野産ハスカップと上富良野町産ホップを使用。ハスカップのフルーティでチャーミングな酸味とハーバルな香りが重なり、まるで果実味あふれるワインのよう。

・奈良醸造 ECHOES abv 4.5%

マンゴーやパッションフルーツの華やかな香りと甘さに、爽やかな酸味が加わった濃厚な甘酸っぱさ。トンカ豆が桜の香りを添え、時間とともに広がります。

MAHOW BREW Juliet abv 10%

ブラックチェリーの甘酸っぱさとライムの酸味に、沖縄の香辛料「カラキ」のスパイシーさが加わり深みのある味わいに。アルコール度数は高めながらも驚くほど飲みやすく、つい飲みすぎてしまう一杯です。

酸味がレモンやお酢のようなアクセントに!

サワー系のビールは、実は少しこってりとしたお料理と驚くほどよく合います。たとえば、肉汁たっぷりの焼売など。ビールの酸味が、お肉の脂っぽさをほどよく和らげてくれるので、後味がすっきりと軽やかになります。中華料理でお酢を加える場面があるように、酸味は脂と非常に相性が良く、料理全体のバランスを整える役割を果たします。

また、デザートとのペアリングもおすすめです。しっとり濃厚なチーズケーキにフルーティな甘酸っぱさが加わると、まるでフルーツソースを添えたかのようなリッチで華やかな味わいに。お食事の締めくくりにもぴったりの組み合わせです。

ビールを注ぐ前に、グラスの温度にご注意を

これまでさまざまなビールとお料理のペアリングをご紹介してきました。では、いよいよご自宅で一杯…と、その前に。夏の時期だからこそ、ぜひ気をつけていただきたいポイントが一つあります。

それは、「ビールを注ぐグラスの温度」です。

暑い日が続くと、室温が高くなるのはもちろん、食器棚の中も熱がこもりやすくなります。そのため、棚から取り出したグラスがほんのり温まっていた、という経験はありませんか? 冷蔵庫でしっかり冷やしたビールも、温かいグラスに注いでしまえば、その温度は上がってしまいます。本来ビールにはスタイルごとに適した提供温度がありますが、夏場はやはり冷えた状態で楽しみたいもの。グラスの温度を整えるひと工夫を取り入れて、より爽やかに楽しみましょう。

1.飲用するグラスを用意し、軽くすすいでホコリや汚れを取り除きます。
2.グラスの縁まで氷を入れ、水を注いで氷水を作ります。これにより、グラス全体が冷やされます。
3.グラスの外側がうっすらと曇り、すりガラスのようになったら冷却完了のサインです。
 ※このときの氷水を別のグラスに移せばチェイサーにもなって一石二鳥。
4.よく冷えたグラスに、お好みのビールを注いでお楽しみください。

暑さが和らぐ夕暮れや、ゆったり過ごす夏休みの昼下がり -そんなひとときを引き立てるのが、やっぱり一杯のビールです。今回ご紹介したビールのスタイルやペアリングは、クラフトビールの楽しみ方のほんの入口にすぎません。気軽に、自由に、お好きな一本を選んで、自分だけの美味しいひとときを見つけていただけたら嬉しいです。夏の時間が、ビールとともに彩り豊かになりますように。それでは、乾杯!

プロフィール

五十嵐 糸(いがらしいと)

ビアジャーナリスト・ビアソムリエ

化粧品会社で16年間にわたり、営業・宣伝・PR業務等を経験。クラフトビールの魅力にはまり、経験を活かしてフリーに転身。ビールを通したローカルコミュニティの活性化を狙い渋谷区限定のクラフトビール「渋生」をプロデュース。ビールの美味しい飲み方や魅力を日々SNSで発信。

https://www.instagram.com/beeregoist

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