友人が訪ねて来たら連れて行きたいお気に入りの店が誰にでもひとつはあります。街の人々に愛される店こそ、胸をはって紹介したい“わが街の味”。この連載では、そんな街で人気のお店を紹介しています。今月の街は品川区・旗の台。東急池上線と東急大井町線という2つの路線が交差する、利便性に富んだ街で愛されるフレンチレストランです。

紹介する街●旗の台

【フレンチ】 

夫婦で営む、住宅街の人気店

人生の転機は、時として突然やってくる。

料理人歴40年というシェフの山口俊明さんが、パティシエの奥さまと店を開いたのは3年前。50代後半にさしかかってからのことだった。コロナ禍を経て、これからの生き方を見つめなおしたとき、自分の店を持つという道が思いがけず見えてきたという。

しっくい風の白い壁に包まれた、落ち着いた空間。穏やかな照明の光が優しい。

店は駅を出てすぐ。ビルの2階にあり、ちょっとした隠れ家のような趣がある。外階段を上がると、シックな木製の扉。そこから一歩ふみ込めば、外の喧騒とは無縁の静けさが広がっている。

場所は東急線・旗の台。駅前こそ賑やかだが、少し歩けば昔ながらのお屋敷が並ぶ、歴史ある住宅街だ。この街を選んだのは、たまたまだったという。けれど、いざ店を始めてみると、ゆったりとした土地柄で、夫婦が二人三脚できりもりするにはほどよいリズムが流れていた。

優しい笑顔の山口シェフは、食材ありきで、料理のおいしさを引き出す。

山口シェフは、数々のフレンチレストランで厨房に立ち、クルーズ船「シンフォニー」で腕を振るった実力派。その手から生まれる繊細で鮮やかな一皿は、特別な日のテーブルに華を添えてくれる。

料理において何より大切にしているのは、レストランで食べる特別感を届けること。フレンチらしい手をかけたメニューはもちろん、家庭ではあまりなじみのない食材を取り入れることで心躍る演出も忘れない。

『ル・カルム』特製“旬の素材” 前菜5種盛り合わせ
ディナーコースの前菜。内容は日によっても変わるが、この日は、手前から時計回りに、アーティチョーク、舞茸のバリグールと生ハムのサラダ仕立て、秋鮭とクリームチーズのカンノーロ、ブルーベリーラッシー、華味鶏のガランティーヌ。

その特別感を支えるのが食材選び。買い付けには自ら足を運び、魚の目利きから野菜まで、旬のいいものをじっくり吟味して仕入れている。リピーターが多く、なかには毎週のように通う常連も。その顔を思い浮かべながら、シェフは、日々のメニューを考える。

メニューは、ランチ、ディナーともにコースが2種類。ランチは、シェフおまかせのメインディッシュがつく「微笑みのメニュー」が4620円、フルコースの「歓びのメニュー」が5940円。ディナーは、おまかせメインディッシュがつく「希望のメニュー」が6490円、フルコースの「幸福のメニュー」が7920円。グラスワインも豊富に揃い、ペアリングも楽しめるので、コースがいっそう味わい深いものになる。

本日の鮮魚をその時の調理法で ベルモット風味
この日は『ホウボウのカダイフ巻きフリット』。下に敷いているのはベルモット風味のクリームソース。トマト、ほうれん草、ハーブ、ムール貝など具沢山。カリッとしたカダイフがいいアクセント。うま味の濃いホウボウはソースとよく合う。

『Le calme(ル・カルム)』とは、フランス語で「穏やか」という意味。

「肩ひじ張らずに、リラックスして食事を楽しんでいただける店にしたかったので」と、シェフは笑顔で話す。そこで、テーブルにはナイフとフォークだけでなく、お箸も並ぶ。料理もお箸で食べやすいことを念頭に仕込んでいるという。

店内のあちこちに飾られたクリムトの絵が、さりげなく華やぎを添えている。

フレンチというと、少し構えてしまうところがあるが、そんな堅苦しさを少しでも取りのぞきたいという思いから、店内は温かな空気に包まれている。ここにいると時間はゆっくりと流れ、ゲストの笑顔も自然にこぼれる。人生の転機から生まれた小さな店は、街の人々の居心地のいい場所になったのだ。

Le calme

ル カルム

住所:東京都品川区旗の台3-12-2 マドレーヌビル 2F

電話:03-6426-8650

営業時間:12:00~14:00 17:30~20:00

定休日:火曜日、第1・3水曜日

※掲載価格は税込価格です(2026年10月現在)

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