手土産に込められているのは、贈る相手に喜んで欲しいという優しい気持ち。それが、贈り手が住む街の逸品であれば、手土産としていっそう特別なものになるはず。
ここでは、大切なあの人の笑顔が浮かぶような、ささやかで愛らしい手みやげをご紹介します。
フランスで味わう、そのままのおいしさを届けたい
猫のイラストが描かれたクッキー缶で有名な『アディクト オ シュクル』。フランス語で“甘味中毒”を意味する店名は、どこかチャーミングな遊び心が漂っている。
アイコンである猫缶クッキーには、多彩な表情をたたえた猫たちが描かれている。そのモデルとなったのは、シェフの石井英美さんの愛猫だ。クッキー缶は、回を重ねるごとに様々な筆致で描かれたその子の姿が登場し、猫好きならずとも愛らしさに思わず微笑んでしまう。

クッキーにも保存料などを使わないため、ピュアなおいしさだ。
この店を一躍有名にしたのはクッキー缶だったけれども、石井さんが手掛けるお菓子のラインナップは実に幅広い。ぽこんと、でべそが膨らんだマドレーヌをはじめとする焼き菓子、艶めく琥珀色のクロワッサンなどのヴィエノワズリ、季節のコンフィチュール、オペラやサヴァランなどのクラシックなケーキまで。それらが美しく並ぶショーケースを眺めるだけで、ワクワクしてくる。それは、かの地・パリのパティスリーを訪れた時のような楽しさを感じさせてくれるからだ。

左上・クルミ入りのほろほろ食感の『ブールネージュ』、左下・バターが香る『サブレナンテ』、中央上・メレンゲ生地にオーガニックチョコレートやアーモンドをコーティングした『バトンマレショ』、中央下・カカオの風味が香る食感のいい『サブレショコラ』、右上・フランボワーズジャムをサンドした、バニラの香りの『サブレヴィエノワ』、右下・ヘーゼルナッツ、アーモンド、メレンゲの『クロッカムール』
この店が大切にしているのは、本場そのままのお菓子を知ってもらうこと。
「フランスで長く食べ継がれてきたお菓子には、ちゃんと歴史があります。その本物の味を伝えられたら」と、石井さんはほほ笑んだ。

様々な表情の猫たちがかわいい。
彼女がお菓子の世界に飛び込んだのは、社会人として働いていた時だった。いったんは一般企業に就職したが、胸に秘めていたお菓子への情熱を忘れることができず、「えいやっ」とこの世界へ飛び込んだのだ。
まずは基礎を固めようと「エコール キュリネール国立(現・エコール 辻 東京)」へ入学。そのフランス校での日々が、大きな転機となった。

「日本では、焼き菓子にしても形がびしっと揃っていますよね。でも、向こうでは意外と不揃いだったり、もっと素朴だったり、そのことに驚きました」と話す。
ある時、その疑問をフランス校の先生にぶつけてみたが、その時、すぐには答えをもらえなかったという。しかし、現地を発つ頃には、日本のようによそ行きのものではなく、フランスではもっと身近で日常のものだと実感するようになったのだ。
「きっと、現地での生活を通して学びとりなさいということだったのでしょうね」。
そこから、石井さんは生活に根差したお菓子の魅力に深く心を奪われた。そして、そんなフランス人がおいしいと思えるお菓子を、作り続けていきたいと思うようになったのであった。

『アディクト オ シュクル』は目黒区八雲の閑静な住宅街の一角にある。この街を選んだのは、どこかのんびりとした落ち着いた空気感が好きだったから。また、自由が丘や学芸大学という、個性豊かな2つの街へものんびり散歩がてら歩ける、そんな距離感も心地いいという。

「オープンから12年たって、ちょうど一回りしたような気がします」と、軽やかに言い放つ石井さん。店舗はリニューアルを経て、以前よりもゆったりとお菓子をプレゼンテーションできる空間に生まれ変わっている。歩んできた道のりは平たんではなかったけれど、それもまた思い出と笑う。今では、開店と同時にひっきりなしに人が訪れ、笑顔で買い物をする光景が繰り広げられる。
フランスのお菓子そのままに、人々の生活に寄り添い、親しみやすく、それでいてしっかりおいしい。そんな手仕事のよさを味わえる。それが、石井さんの目指す店なのだ。

Addict au Sucre
アディクト オ シュクル
住所:東京都目黒区八雲1-10-6
電話:03-6421-1049
営業時間:11:00〜17:30 ※商品がなくなり次第閉店
定休日:不定休
Instagram:@addictausucre
※掲載価格は税込み価格です(2026年9月現在)
取材・文 岡本ジュン 写真・豊田朋子
















