WHISKY CHASER

2017.08.16

日本はウイスキー蒸留所が
オープンラッシュ

世界的にウイスキーの人気が高まる中で、ジャパニーズウイスキーも海外から熱い視線を浴びている。さらに、ここにきて新しい蒸留所が続々とオープンし、国内でもその存在感はますますパワーアップ。そんなジャパニーズウイスキーの今と、その魅力を紹介。

 

今夜ウイスキーがあったなら ◆第2夜

  

熟成が魅力を生むウイスキー

新規蒸留所は数年先がお楽しみ

 

 

「ここ1年で、日本ではウイスキーの蒸留所がすごく増えているんですよ」とゾートロープの店主、堀上敦さんは言う。そこで、新しい蒸留所のウイスキーを並べて写真に撮りたいとお願いすると、ちょっと困った顔をした。

 

ウイスキーは蒸留酒の中でもとくに熟成が味に大きな影響を及ぼす酒である。ウイスキーを代表するスコッチでは、3年以上の熟成を経ていなければスコッチを名乗れないという規定も設けられている。つまり蒸留したての原酒を飲むことはまずない。熟成が少ない若いウイスキーは一般的にピリッとした刺激的なテイストがあり、ストレートで飲むには向かないとされるほどだ。

 

堀上さんが並べて見せてくれた新しい蒸留所のウイスキーたちも、植物で言えば芽が出たばかりの二葉のようなもの。これからどんな実がつくのか想像するしかないという段階なのだ。

 

「これらは、熟成させるとどう変化していくのかを見極めるためのいわばお披露目のウイスキーです。味わいを楽しむものではないので、一般のお客様にはおすすめしていないんですよ」。

 

ここ数年で再開したり、オープンしたウイスキーの蒸留所は、富山の若鶴酒造、福島の笹の川酒造、独歩ビールで知られる岡山の宮下酒造、常陸野ネストビールを造る茨城県の木内酒造など日本酒の蔵元が手掛けるところも多い。そのほかにも長濱浪漫ビール、酒類販売などを手掛けるガイアフローや北海道厚岸の堅展実業なども参入するなど、まさに驚くべき速さで増えている。蒸留所を移転したマルスウイスキーも気になるところで、ウイスキー業界全体が活発な動きを見せているのだ。

 

「つい先日もガイアフローさんの静岡蒸溜所のオープンファクトリーに行ってきたんですよ。外国人の建築家の設計ですごくモダンな蒸留所でしたよ。テイスティングした原酒もよくできていて、熟成が楽しみなウイスキーだと思っています」。

 

 

なぜこれほど急激にウイスキーの蒸留所が増えたのだろうか?

「日本のウイスキーは海外でも人気が出ていますので、オリンピックを見据えて、スコッチの基準となる3年熟成にするためには、今から仕込まないと間に合わないことも大きいでしょうね」という。

 

ゾートロープは、新宿西口の繁華街の中にある。カウンターとテーブル数席のこじんまりした店だが、ジャパニーズウイスキーにおいては右に出るものがいない。店主の堀上敦さんは、長年映像関係の仕事を手がけた後にバーを開店した。なぜ、ジャパニーズウイスキーのバーになったのだろう?

 

「若い頃からウイスキーが好きで飲み歩いていました。あるとき、日本のウイスキーを飲んで、『こんなに美味しいウイスキーが日本にあったのか』とびっくりしたのがきっかけです」と話す。

 

その時飲んだ銘柄はマルスウイスキーの「駒ケ岳」。マルスウイスキーの蒸留所は90年代にいったん閉鎖となったが、近年再稼働し、ヨーロッパで賞を取るなど注目を集めている。

 

「それ以来、あちこちのバーを回ったんですが意外と飲めるお店がないことを知って、それなら自分で作ってしまおうと(笑)」

 

老舗蒸留所から小さな蔵まで

その個性がジャパニーズウイスキーの魅力

 

堀上さんにお店でのおすすめを聞いてみると、まっさきに上がったのはニッカウヰスキーの竹鶴17年。実はこのボトルも今や貴重なのである。空前のウイスキーブームを経て、サントリーの山崎や白州、ニッカウヰスキーの竹鶴などは、熟成年の入ったボトルは販売制限や休売になっている。熟成を必要とするウイスキーは造ってすぐには販売できないため、原酒不足が続いていることがその原因だ。現在はゾートロープを始め、「竹鶴アンバサダー」の称号を持つ店だけがこのヴィンテージボトルを扱うことができる。

 

こうした誰もが知っている、ジャパニーズウイスキーの王道の銘柄がフルラインナップで揃うのはもちろん、ゾートロープでは、今まで出会ったことのない小さな蒸留所のウイスキーが飲めるのも楽しい。

 

 

例えば、1980年代からウイスキーを手がけてきた兵庫県明石の江井ヶ嶋酒造もそのひとつだ。

「ここは世界的にもユニークな醸造所じゃないでしょうか。日本酒蔵なので冬は日本酒を仕込み、空いている春に毎年ではないですが焼酎を仕込んで、夏はウイスキーを造るんですよ。これをひとりの杜氏さんが手掛けるのも他に類を見ないし、蒸留所のほとんどは暑い夏の時期はメンテナンスに充てるので、真夏に仕込むのもかなり珍しいことです。いやぁきっとすごく暑いでしょうねぇ」と笑った。

 

江井ヶ嶋酒造は明石の海に近いところにあり、潮風の影響も受けやすい。内陸にあるところがほとんどという日本の蒸留所の中でもスコットランドのウイスキーに近いテイストを持っているのではないか、と堀上さんは考えている。

 

日本のウイスキーは寿屋(現サントリー)の山崎蒸溜所から始まった。その初代所長を務めたのが、後にニッカウヰスキーを立ち上げる竹鶴正孝氏。ドラマにもなった、ジャパニーズウイスキーの父と言われる人物だ。

 

「ジャパニーズウイスキーでは、サントリー、ニッカウヰスキー、マルスウイスキーが竹鶴正孝氏から広がった系統なので、スコッチと同じ造り方なんです。唯一、キリンだけがカナダのシーグラム社の流れを汲んでいるので、少し系統が違うんですよ」。