パリで輝く女性たち

2019.04.22

世界を夢中にするパリジェンヌスタイル。
「マイ・リトル・パリ」成功の舞台裏。

パリにあるMy Little Paris の本社オフィス

センスが良くて可愛いデザイン、まるで気の利いた友達と一緒にいるかのような語り口で、あらゆるパリの出来事や最新のスポットを伝えてくれるニュースレター&オンラインマガジンがある。それが「My Little Paris マイ・リトル・パリ」だ。

 

2008年、創設者のファニー・ペショダと妹のアマンディーヌが、50人の友達にメールを送ることから始まったニュースレターは、現在仏英バイリンガルでフランスばかりでなく全世界の読者を獲得。2011年からパリの香りを可愛らしい小包で運ぶ「My Little Box マイリトルボックス」を開始するとこれも話題になり、今やプロジェクト全体で約400万人のファンがいる存在にまで成長した。

 

10年前に拠点を構えたサクレ・クール寺院のふもとのオフィスは今もそこに。パリジェンヌの憧れの職場とも言われるその場所を訪れ、話を聞いた。

 

話を聞かせてくれたのはMy Little Paris / My Little Box国際担当ヘッドのアデルさん(右)と日本プロジェクト担当のフローラさん(左)

 

 

彼女たちを動かした最初の原動力は「知らない」こと。

 

スタイル発信型のオンラインメディアの草分け的な存在で、スタートアップ企業の理想と紹介されるほどのMy Little Paris。街とメディアを知り尽くしたパリジェンヌが始めたのかと思っていたら、意外な答えが返ってきた。

 

「実は、創設者のファニーとアマンディーヌは、根っからのパリジェンヌではなくて、出身がクレルモン・フェランという地方都市だったんです。パリについて色々知りたいのに、情報はステレオタイプなものが多くて、自分たちに合うものがなかった。そして10年前はまだウェブの世界も草創期で、ニュースレターといっても書類みたいな味気ないものばかり。ファニーをはじめ、彼女たちはデジタルについてはまったくの素人だったけれど、それだけに型にはまらず自分たちのイメージをふくらますことができたんです。この「パリのことをまだ知らない」「ウェブのことをよく知らない」という2つが、My Little Parisのオリジナリティの源泉になりました。それは「ほかとは違う」ことを求め続ける私たちのコンセプトにつながっています」

 

発想も豊かになりそうなミーティングスペース

 

確かに情報はどこよりも新鮮で、しかも読み手をひきこませる。コンテンツやビジュアルでほかと一線を画す独特の世界観を創りあげていて、それをキープしつづけているのも強みだ。

 

「パリのことを知らないぶん好奇心はひと一倍。すでにどこかで語られているパリではなくて、時にはまだ工事中の店の扉をたたいて、プレスリリースが出る前に誰も知らない情報を手に入れていち早く配信、といったこともしていました。語り口も、自分たちと同じような女性たちに話しかけるような文体で。そしてなにより、創設の早い段階でイラストレーターのKanako(九重加奈子さん)が入ることによって、手作り感や独特の温かな世界観を作ることができたことが大きかったですね」

 

「新鮮なパリを探し続けて、今ではスポッターというトレンド担当や120人に増えた全スタッフの情報がありますが、最初の頃は私たちスタッフが好奇心のままに新しいことを見つけて、それを次の日エディターに話し、いちばん面白いことをセレクトして配信していました」

 

少人数の打合せは遊び心いっぱいのミニ会議室で

 

ニュースレターが一躍話題を集めて人気が出てくれば、企業とのタイアップという話も出てくる。しかし彼女たちはウェブマガジンやニュースリリースに広告のバナーが出てくることを良しとしなかった。

 

「もうすでに私たちの世界観もKanakoのイラストという財産もあったので、別のイメージを入れたくなかったんです。そこで広告というカタチではなく、私たちの記事に取り込れることでそれを成立させようとしました。ブランドのことやお店のことにしても、今はもう発信側が情報を押しつける時代ではなくて、受け取る側、つまり私たちパリジェンヌ、パリジャンが、自分が受け取りたい情報を自分たちの視点で選ぶ時代、ということなんだと思うんです。だから私たちも自分たちのスタイルで咀嚼し、読者の立場で知りたいこと、聞きたいことを追求していった。ウェブビジネスの最初の時代にあって、それはとても斬新なことだったと思います」

 

明るい光が差し込む廊下がオフィスをつなぐ

 

単なる情報でなく、それを自分たちの感覚や暮らしと結びつけて、ライフスタイルとして発信する。だから読者にとって親近感が湧くし、まるで友人に教えてもらったとっておきの話みたいにワクワクする。それはやがて読者がMy Little Parisに寄せる期待や信頼にもつながっていく。

 

 

2011年、それまで「メールボックス」にワクワクを届けてきたMy Little Parisの成功をベースに、今度は「自宅」にドキドキを届ける「My Little Box」の提供をはじめることになった。

 

今年4月に配達されるMy Little Boxパッケージ © My Little Box

 

 

届けるのは、ほかに真似のできない「サプライズ」。

 

「このボックスという発想自体はすでにNYで始まっていました。コスメ系グッズの試供品を女性たちに送り、買う前に試せるというコンセプトだったんです。このアイデア自体も良いのですが、私たちはそれよりも「何が送られてくるかわからない」という「サプライズ」のほうに興味を持ったんです。毎月、郵便受けにプレゼントが贈られてくるワクワク感。それまでMy Little Parisのニュースレターで、メールボックスに素敵なことをお届けしてきたので、それのリアル版があってもいいんじゃないかと」

 

© My Little Box

 

ボックスの中身は、オリジナルコスメのMy Little Beauty、アクセサリーなどのファッションアイテム、ブランドコスメ、ステーショナリーやトートバッグなど。月ごとにさまざまなアイテムが、パリのエスプリとMy Little Parisの世界観がつまったパッケージに詰め込まれて届けられる。

 

しかし、ボックスを企画、制作し、送るという時間を考えると、毎月毎月サプライズを生みだしていくのは簡単なことではなさそうだ。

 

「最初は試行錯誤の連続でした。でもそれが好奇心の強いスタッフにとっての楽しみで、デザインや包装やその素材の細かな演出とか、スタッフ同士のブレーンストーミングもたくさんして、ともかく誰よりも考えて一歩先を行く。設立の時もそうでしたが、既存の常識を壊すというのがMy Little Parisのベースにあって、その想いが私たち自身をも動かしている感じがします」

 

My Little Box担当チームのオフィス

 

 

「My Little Box」日本への提供開始で一躍人気に。

 

My Little Boxは、フランスでの成功をもとに外国への提供を始める。最初にローンチされたのは、ドイツ、イギリスそして日本。新しい挑戦に不安はなかったのだろうか。

 

「文化の違う国でのビジネスはかなりチャレンジ精神のいることで、特に日本はフランスとはまったく文化も違うと思うのですが、私たちが心がけている細かな気づかいと美意識には共通点があるし、なにより日本の方々がパリの文化やライフスタイルにとても良いイメージと関心をもってくれていることが心強かった。私たちはまさにそのパリにいて、その今を知っている。そのエスプリを箱に詰めてお送りできれば、と思いました」

 

今ではMy Little Parisのパリ本社スタッフ120人のうち、40人がBoxを中心としたEコマースに携わっている。そして、日本とドイツにはそれぞれ現地スタッフもいて、情報収集やマーケティング、顧客とのコミュニケーションにあたっているという。

日本での現在の定期購入者はフランス本国の10万人に次ぐ4万人。ドイツにおける1.5万人の3倍近くにのぼる。

 

「実はここだけの話、イギリスではうまく行きませんでした(笑)。フランスと近いのですが、エスプリが違ったみたいで・・・」

 

 

 

この夢のようなオフィスからすべてを生みだす

 

 

My Little Parisといえば!というほどパリでは知られた存在なのが彼女たちのオフィスだ。Kanakoさんのイラストはもちろん、遊び心いっぱいのインテリアやたくさんの本、隠れ家のようなミーティングルームなどが迷路のようにつながる。かつてメリーゴーランドの工場だった吹き抜けの建物を合わせ、ひとつのアパルトマン全体がMy Little Paris本社、吹き抜けの真ん中には気球まで飛んでいる。

 

「ここに約120人のパリスタッフ全員が働いています。編集、クリエイター、WEBデザイナー、Box担当など社内のスタッフみんなが一緒の空間で仕事をし、同じ時間を過ごすことが大事なんです。『自分たちがクリエイティブでいるには、場所もそうでなければいけない』という信念があって、同じ建物の一室から始めた当初から一環してスタイルを創ってきました。My Littleのスタイルは、まさにこの場所の空気を映していると言ってもいいくらいです」

 

 

 

パリジェンヌたちのほんとうのスタイルを知ってほしい。

 

等身大だけど、徹底的なリサーチ、とことんこだわったスタイルでパリを伝えてきたMy Little Paris。日本に向けてそのエスプリを発信するいま、日本の人々に伝えたいことを聞いてみた。

 

「日本の方にお届けしているMy Little Boxは、パリという世界のひとつの入口です。日本にあるパリの情報はまだステレオタイプなところもあって、エッフェル塔とか、若い女性は映画の『アメリ』みたいでとか、ベレー帽をかぶっていてとか(笑)。それはそれでパリの一部なんですが、パリ、パリジェンヌのスタイルにまだまだ日本の方が知らない他の面があることを知ってほしいですね」

 

そうした想いから、日本で書籍も出版した。My Little Parisのオフィスに加え、スタッフや友人たちのリアルなパリジェンヌのアパルトマンや日常生活を見せる『マイリトルボックスからの贈り物 素敵なパリスタイル!』。今まで雑誌で見たりしたのとは違う、普段着のパリ流の暮らし方がそこにはある。

 

 

いくつもの小さな輝きがつまったパリの「とっておき」を発信しながら、女性たちの暮らしにときめきやサプライズを贈ってきたMy Little Paris。次はどんな驚きを伝えてくれるのか、彼女たちから目が離せない。

 

『マイリトルボックスからの贈り物 素敵なパリスタイル!』紹介ページ

https://www.shogakukan.co.jp/books/09682292

 

My Little Box (日本版)公式ウェブサイト

https://www.mylittlebox.jp/

 

My Little Paris (仏語版)公式ウェブサイト

https://www.mylittleparis.com/

 

 

(文・杉浦岳史)