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2019.01.21

アートの楽しみ方をちょっと贅沢に。
皇居のほとり、近代美術の殿堂。

世界的に、アートの楽しみ方が多様化している。

単に美術作品そのものを見るだけでなく、美術館にいる時間を楽しみ、それにあわせて食事やカフェを楽しむ。難しくアートをとらえずに、心を豊かにしてくれる場として、日常にはないインスピレーションを求めて美術館にやってくる人も増えているように見える。

 

そんなちょっと贅沢な時間を過ごしたい人に注目されているのが、皇居のとなり、北の丸公園にある東京国立近代美術館、通称MOMATだ。

 

 

東京国立近代美術館 外観

 

 

日本で最初の国立美術館として創設され、1969年、皇居のほとりに完成した現在の建物に移転した。設計は帝国劇場や東宮御所など東京のシンボルを数多く手がけた建築家の谷口吉郎。その時代を感じさせる大きなピロティとモダンなスタイルが近代美術館の名にふさわしい。

 

2012年、美術館誕生60周年を機に誕生して話題になったのがレストラン「ラー・エ・ミクニ」。東京・四ッ谷にある「オテル・ド・ミクニ」のオーナーシェフであり料理界の重鎮、世界にもその名を知られる三國清三氏がプロデュースした。

 

 

レストラン「ラー・エ・ミクニ」内観

 

 

ランチタイムなら、レストランの中に入って窓辺を眺めてまず驚く。なにしろ視界の先に広がる緑は皇居東御苑。その景色がすでに最高のおもてなしだ。

 

そして、美術館内という場にふさわしく「芸術と料理」をテーマに、フレンチとイタリアンの融合をアートする品の数々。繰り出される料理はどれもまず見た目から美しく、素材の彩りから盛りつけ、皿のセレクトまで、美意識で貫かれた繊細さを感じる。そして口にすれば、素材の旨みを大切にしたという贅沢な美味しさ。三國氏の「全身で堪能する」という言葉が実感できる。

 

 

※料理の内容は季節・日によって変わります。

 

 

食のアートを楽しんだあとは、美術館の展示へ。明治から現代まで、100年を超える日本近代美術の歴史を中心としたコレクションはかなりの見ごたえ。江戸時代、鎖国社会の中で独自の文化を発展させてきた日本が、開国と同時に欧米の文化にふれ、日本の伝統的な美意識と西洋の異文化とのはざまで揺れ動きながら新しい境地を探っていった当時の様子が見て取れる。

 

 

美術館は、横山大観、菱田春草、岸田劉生といった誰でも美術の教科書などで見たことのあるような作品、重要文化財を含む約13,000点を超える所蔵品を誇る。日本の名作はもちろんのこと、海外の作品も多くコレクションされていて、会期ごとに選りすぐりの約200点が所蔵作品展で展示されている。

 

 

岸田劉生 《麗子肖像(麗子五歳之像)》 1918年 油彩・キャンバス 45.3×38.0cm 東京国立近代美術館蔵 次回展示時期未定

 

 

画家・岸田劉生といえば、自身の娘を描いた『麗子像』のシリーズを知っている人も多いだろう。西洋画に影響を受けて画家としての活動をはじめた彼は、やがて写実的表現に取り組む。

 

 

岸田劉生 《道路と土手と塀(切通之写生)》 1915年 油彩・キャンバス56.0×53.0cm 重要文化財 東京国立近代美術館蔵 所蔵作品展「MOMATコレクション」にて展示(2019/1/29-5/26)

 

 

たとえば、この春展示される作品《道路と土手と塀(切通之写生)》は、重要文化財にも指定されている名作だ。舞台は渋谷区代々木4丁目に今も残る坂道。「写実」といっても写真のような画風ともまた違う、いやそれ以上のリアルさをもって伝わってくる。この時代、都市開発で変わっていく街の景色を、盛り上がる土や石、草、電柱の影までも克明に描くことで表現した。急激な開発で顕著になった、人間と自然の葛藤を込めた作品ともいわれている。

 

 

 

川合玉堂 《行く春》左隻・右隻 1916年 紙本彩色 屏風6曲 各183.0 × 390.0cm
重要文化財 東京国立近代美術館蔵 所蔵作品展「MOMATコレクション」にて展示(2019/3/19-5/26)

 

 

一方、花鳥画の四条派と骨法の狩野派をあわせ学んだ日本画家の川合玉堂は、この国の自然を愛し、独自の手法で多くの風景画を描いた。重要文化財の《行く春》は6曲1双、つまり6つに折れる屏風絵2枚で対をなす作品。秩父の長瀞を描いたといわれる絵には、自然の雄大さとうつろう季節の繊細さ、そこに生きる人々の生活から詩情豊かな世界を描いている。

 

 

萬鉄五郎 《裸体美人》 1912年 油彩・キャンバス 162.0×97cm 重要文化財 東京国立近代美術館蔵 次回展示時期未定

 

 

パウル・クレー《花ひらく木をめぐる抽象》 1925年 油彩・厚紙 39.3×39.1cm 東京国立近代美術館蔵 所蔵作品展「MOMATコレクション」にて展示(2019/1/29-5/26)

 

 

そのほかにも、フランスでの「ポスト印象派」や「フォーヴィズム(野獣派)」などに影響を受けた日本での芸術運動や、パウル・クレーなど海外の近代美術。さらに戦後の「もの派」や「具体」、そして写真や映像など多様化したメディアを使った現代の表現まで、時代を追って見られるところがいい。

 

 

池田良二《再生される扉》1988年 銅版(フォト・エッチング、その他)69.5×57.5cm 東京国立近代美術館蔵 所蔵作品展「MOMATコレクション」にて展示(2019/1/29-5/26)

 

そして、この美術館の特徴は、アートに親しむための工夫の数々だろう。毎日14時から開催している「所蔵品ガイド」では、ガイドスタッフや参加者同士がトークしながら、まるで作品の謎解きをするような鑑賞体験も可能。そのほか子どもたち向けの教育プログラムも充実している。

 

 

毎日14時に開催される対話型の「所蔵品ガイド」

 

 

鑑賞の途中で少し足を休めたいのなら、4階にあるその名も「眺めのよい部屋」へ。皇居の緑や丸の内のビル群の贅沢なパノラマビューには、すーっと疲れもほぐれていくようだ。

 

 

眺めのよい部屋

 

 

アートの楽しみ方が変わっていきそうなミュージアム体験。ぜひ展覧会へのお出かけの際には、さらに心を豊かにしてくれる美術館の多彩なアイディアもチェックしておきたい。

 

 

東京国立近代美術館 MOMAT

 

所在地 〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1

開館時間 火曜〜木曜、日曜 10:00~17:00

金曜、土曜は10:00〜20:00 ※入館は閉館の30分前まで

観覧料 一般500円、大学生250円等 詳しくはウェブサイトにて

公式ホームページ http://www.momat.go.jp

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