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2019.02.08

モフモフした猫や哀愁ただよう河童も!
葛飾北斎が描いたアニマルたち。

葛飾北斎「冨嶽三十六景 駿州大野新田」すみだ北斎美術館蔵(後期)

葛飾北斎、いわずと知れた浮世絵の大家。

 

北斎といえば、世界的に有名な「神奈川沖浪裏」「凱風快晴」に代表される『冨嶽三十六景』をはじめ、風景を表現した絵がよく知られている。一方『北斎漫画』の中のスケッチの数々などでは、人物や動物の動きや表情を映した絵がたくさん描かれ、風景画にも実は多くの動物たちが登場しているのにお気づきだろうか。

 

北斎が描く、そんなキャラ立ちした動物にフォーカスした展覧会「北斎アニマルズ」が、2月5日すみだ北斎美術館で始まった。

 

葛飾北斎『三体画譜』すみだ北斎美術館蔵

 

北斎は今から約260年前、西暦でいえば1760年に江戸の本所、今の墨田区に生まれ、90年という長い生涯のあいだに数え切れないほどの名作を残した。

 

長崎の出島から陶器の包み紙としてオランダへと渡ったり、シーボルトが出版した『Nippon』の挿図に『北斎漫画』が使われたりして、ヨーロッパに知られていった日本の浮世絵の存在。

 

そして1867年、日本で大政奉還が行われる直前まで開催されていた「パリ万国博覧会」。この一大イベントで日本の文物が大々的に展示され、評判を呼び、浮世絵をはじめとする日本文化の影響は決定的なものになった。そのブームは「ジャポニズム」と呼ばれ、ヨーロッパの絵画やデザイン、その他の文化に大きなインスピレーションを与えたことはよく知られている。

 

葛飾北斎『富嶽百景』二編 すみだ北斎美術館蔵

 

影響を与えたのは、浮世絵の大胆な構図や色彩だけではなかった。

 

博物学的な意味あいで静物のように描かれることの多かったヨーロッパの動物絵画と違って、北斎の描く動物は今にも動きだしそうだったり、擬人化されていたり。瞬間をとらえた表情の豊かさは、ドガやゴーギャンなど当時の画家たちを夢中にさせたという。

 

 

展覧会の1章「生けるがごときアニマル」では、こうした鳥、動物、魚介、虫・爬虫類、両生類といったあらゆる種類のまさに表情豊かなアニマルたちが登場する。

 

葛飾北斎「桜に鷹」すみだ北斎美術館蔵(前期)

 

写実というよりは、その身体のなりたちとか動きのとらえかたが鋭いという感じだろうか。そして北斎の描き方のなによりの特徴は、動物たちの眼が妙に人間くさいところだ。

 

 

2章は「かわいいアニマル」と題して、北斎やその門人たちが描いた愛嬌たっぷりの動物たちを見ることができる。うなだれたような表情のふくろう。定規とコンパスで描いたお茶目な猿など、そのタッチも多種多様。筆一本でこの生き生きとした描写ができる北斎の力量にはつくづく頭が下がる。

 

葛飾北斎『北斎漫画』 草筆之部 すみだ北斎美術館蔵

 

葛飾北斎『略画早指南』初編 すみだ北斎美術館蔵

 

そして3章では、動物園では見られない、あるいは実在しない生き物まで出現。おもちゃになった動物、服の柄のデザインとして動物が描かれたりもする。伝説や怪談に登場する河童や人魚も、他の動物と同じように、あたかも実在するかのように描かれているところが面白い。

 

葛飾北斎『北斎漫画』 三編 すみだ北斎美術館蔵

 

特にこの河童は秀逸だ。甲羅を乾かしているのか、紙面の端にちょこんと体育座りし、ウロコびっしりの足を抱えるようにしてうなだれている。そして眼はまるで人生に疲れているかのようだ。

 

 

6歳の頃から絵を描いていたとされる北斎。森羅万象、この世のあらゆるものを描き尽くそうとした彼は、その画法の研究熱心さと探究心において並々ならぬものを持っていた。

 

葛飾北斎「南瓜花群虫図」すみだ北斎美術館蔵(前期)

 

北斎75歳の時に出版された『富嶽百景』初編の最後には、自分の絵は取るに足らないもので、73歳にしてようやく動植物の骨格や出生を悟ることができたと述べている。そして80歳ではさらに成長し、90歳で絵の奥意を極め、100歳で神妙の域に到達し、百数十歳になれば1点1格が生きているようになるだろうと、自ら名乗った「画狂老人」として衰えない意気込みを語っている。

 

それほどまでに、北斎はこの世界の躍動感を描き出すことにしつこいほどの執念を見せた。そんな北斎の鋭い眼が動物たちをどう見つめ、描いたのか。かわいいだけではないその姿をぜひ展覧会で見てほしい。

 

 

すみだ北斎美術館は、江戸時代には弘前藩津軽家の大名屋敷があったところに2016年に誕生した。建築家・妹島和世が設計したことで世界にも知られるそのデザインにも注目だ。

 

すみだ北斎美術館 外観 © Forward Stroke

 

その館内では、今回の「北斎アニマルズ」展のような企画展のほか、常設展示も見られる。

 

常設展示室(AURORA) © Forward Stroke

 

 

ここでは、北斎の長い画業人生を時代ごとに追い、各期の代表作(実物大高精細レプリカ)とともにその生涯を辿ることができる。錦絵の制作工程が映像で紹介されていたり、北斎が84歳の頃に住み、制作していたアトリエを再現する模型など、作品が生まれた背景がわかるのも興味深い。

 

世界的な北斎コレクターとして知られたピーター・モースの総数600点近い北斎作品や研究資料。そして浮世絵研究の第一人者、収集家であった楢崎宗重のコレクションなど、貴重な収蔵品を所有するすみだ北斎美術館。北斎ファン、江戸文化ファンならずとも、これからの展示企画に注目したいスポットだ。

 

葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴」すみだ北斎美術館蔵

 

北斎アニマルズ 展

会期:(前期)2019年2月5日(火)〜3月3日(日)

(後期)2019年3月5日(火)〜4月7日(日)

 

すみだ北斎美術館

所在地 〒130-0014 東京都墨田区亀沢2-7-2

開館時間 9:30~17:30※入館は17:00まで

休館日 毎週月曜日(月曜が祝日または振替休日の場合はその翌平日)

観覧料:一般1,000円、大学・高校生700円、中学生300円ほか

※詳細はウェブサイトをご確認ください。

公式ウェブサイト http://hokusai-museum.jp/

 

 

文/杉浦岳史

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