WHISKY CHASER

2018.01.17

より上質に、個性的になった
バーボンウイスキー

アメリカ全土に新しいウイスキーの蒸溜所が増えている今、伝統を重んじてきたバーボンウイスキーの世界が少しずつ変わろうとしている。前回に引き続き、魅力的なバーボンウイスキーの世界を紹介していこう。

 

今夜ウイスキーがあったなら◇第7夜

——バーボンウイスキー 続編

 

 

アメリカ全土で続々と

小さな蒸溜所が立ち上がっている

 

 

プレミアムバーボンやクラフトバーボンという言葉が生まれるほど、

ここ数年でバーボンウイスキーの人気はうなぎのぼり。新規参入の蒸溜所も驚くほど増えている。

 

「いまやアメリカ全土にものすごい勢いでウイスキーの蒸溜所が立ち上がっています」

というのは、バーボンウイスキーを専門とする、ken`s barのオーナーバーテンダー松山謙さん。

 

前回は、バーボンウイスキーの入門編としてお話をうかがったが、今回はそこから一歩先の話を聞いてみた。ニューヨーク、ワシントン、カリフォルニア、モンタナ、テキサス、アイオワ、テネシーなどなど。アメリカの小規模の蒸溜所は、むしろバーボンの聖地であるケンタッキー州以外で増えている傾向があるという。それはなぜだろうか。

 

「ケンタッキー州でバーボンウイスキーを造ろうとすると、どうしても正統派でないとやっていけないという気風があります。だから新規で参入するにはハードルが高い土地なんですね。ただし今年は新しい蒸溜所がオープンするという情報が入ってきていますから、これからもっと面白くなっていきそうですよ」

 

 

バーボンの聖地ケンタッキー州。そこでは、バーボンウイスキーを愛する地元の人々が、誇りを持って商品を造っている。そんな土地柄であれば伝統を重んじるのは当然のこと。だからこそ、上質なバーボンウイスキーが生み出されているともいえる。

 

一方で、全米で立ち上げが続く若い蒸溜所は、例えばピートでスモークしたモルトを仕込みに使用したバーボンをリリースするなど、新しい試みにも自由にチャレンジしている。伝統を重んじる場所では想像もできなかった世界が開けつつあるのもまた確かだ。

 

「新しくスタートする蒸溜所は、バーボンウイスキーだけに限ったことではありません。こうした蒸溜所については、アメリカンクラフト・ウイスキーとして大きくとらえた方がいいかもしれませんね」

 

ケンタッキー州のバーボンウイスキーの歴史は長い。それを一足飛びに真似しようと思っても簡単にできるわけではないと松山さんはいう。

美味しいウイスキーには“寝かせる”という時間が必要である。新しい蒸溜所にはその時間がない。最初は若いウイスキーを出荷せざるを得ないのだ。ウイスキーを寝かせている間、ジンを造ってお金を回転させ、ウイスキーは長いスパンで考えるというところもあるが、いずれにしても道は長い。

 

「日本人と比べると、アメリカ人は大雑把というイメージがあるかもしれませんが(笑)、ことバーボンウイスキーに関しては、本当に丁寧に緻密に造られているんですよ」と、松山さんは笑う。

 

材料のトウモロコシは、契約農家にお願いし、無農薬で遺伝子組み換えをしていないものが大前提、その上で入荷の時に品質検査を行って条件を満たさないものは受け取らないというほどだという。ステンレスのタンクではなく、昔ながらの糸杉の発酵槽にこだわり続けるところも多い。おのおの熟成用の樽にも非常にこだわっている。

 

 

バーボンを使ったカクテルもおすすめですよという、オーナーバーテンダーの松山謙さん。

 

 

「樽はオーダーで作りますが、その前に木材を何カ月も乾燥させることが重要なんです。乾燥は樽木に含まれている、バーボンにいい影響を与えない成分を取り除くための工程なんです。だから乾燥の期間が長ければ長いほど樽木はピュアになって、いい成分だけが抽出されると言う訳です。それがバーボンの風味に関わってくるんですね」

 

さらに、樽を焼くレシピも蒸溜所ごとにこだわりがあるという。“チャー”と呼ばれる、強い熱で樽を焼く工程には4段階あり、その違いも最近はコンピューターで細かく制御されている。

 

上質なものはストレートで

それには理由があったのだ

 

多くのスタンダードバーボンは、冷却パイプの中を通すことでえぐみなどの元なる雑味を分離させ、最後にろ過装置で濾して飲みやすくしている。これはチル・フィルターレーションというが、シングルバレル(1つの樽からボトル詰めされたもの)の中でもバレルプルーフ(原酒のまま)でボトリングしたものはノンチルフィルタードといって、ろ過を行わないことがほとんどだという。

 

「ろ過を行わないことで、原酒が本来持っているえぐみや雑味を丸ごと旨みとして飲もうという考え方なんです」

 

バーボンをロックで飲む人は多いかもしれない。しかしシングルバレルがロックに向かないといわれる理由がこのノンチルフィルタードにある。氷を入れることでグラスの中で同じ状態が起きてしまうからだ。

 

「氷を入れると冷却パイプの中と同じようにえぐみが分離されて、白濁したり、渋みがたってしまうんですね」

 

バーボンの飲み方にはいろいろあるが、手間暇かけたものならば、スコッチウイスキーのようにストレートで味わうと断然違うのだ。

 

 

バーボンウイスキーの

新しい世界を知ろう

 

国際的なコンペティションで賞を獲得しているシーダーリッジ蒸溜所、ワイオミング州のワイナリーが造るウイスキーなど、若い蒸溜所のウイスキーがずらり。

 

 

松山さんに、ここ数年でオープンしたアメリカンクラフト・ウイスキーの主なボトルを並べてもらった。それが上の写真だ。この他にもまだあるそうで、かなり壮観な眺めである。

 

「うちは専門店ですから、飲みたいという方が多いのでなるべく置くようにしていますが、それでも追い付かなくなっているほど、数が増えているんですよ」

 

とはいえ、必ずしも万人にお勧めするとは限らないという。

若い蒸溜所のものは、クオリティと価格のバランスが取れていないものが多いからだ。全体に小さい蒸溜所が多いため、生産量もそれほど多くない。そこで日本に入ってくる数も少ないとあって、どうしても価格が上がってしまうからだ。その反面、先ほどの話のように、若いウイスキーであればあるほど、クオリティもこれからというものが少なくない。簡単に言えば、コストパフォーマンスがよくないということか。

 

メーカーズマーク プライベートセレクト。インナーステイブを使うことで複雑でリッチな味わいになる。

 

 

「味で言えば、王道のバーボンウイスキーの方がまだまだ勝っていますね。もちろん王道のものはコストパフォーマンスもいいので、これからバーボンウイスキーを飲み始めるならば、まずはそこから始めることをお勧めします」

 

今はアメリカのクラフト・ウイスキーはまだまだ発展途上であり、これから新しい蒸溜所がどう変化していくのかが楽しみな世界といえる。

 

それに加えて、伝統を重んじる老舗でも革新が起こっている。

例えば、メーカーズマークでは、“インナーステイブ“というフレンチオークなどの数種類の板を、熟成した原酒樽の中に沈めて数ケ月間後熟させるという製法の商品が生まれている。これは何を入れるかによって同じ原酒でもテイストが変化するのだが、そのレシピをインポーターや消費者ごとにオーダーで取り組もうという試みなのだ。

 

伝統と革新。

この2つが個性的で面白いアメリカのウイスキーのこれからのキーワードになりそうだ。

 

 

 

Ken’s bar 京橋本店

ケンズ バー キョウバシホンテン

 

2016年、12年続いたゴールデン街から京橋に本店を移した。バーボンウイスキーならばおそらく品揃えは日本一。本場アメリカやケンタッキーでも知られた存在だ。カウンターの奥には広いテーブル席と、その奥にステージがあり、ライブが行われることもある。ある有名バーボンウイスキーを樽で買って、日本の蒸溜所で寝かせたバーオリジナルのボトルも飲んでみたい。

 

住所:中央区八丁堀3-11-12 Floor and Walls Hacchobori B1

電話:03-6869-7887

営業時間:18:00〜翌2:00(翌1:30LO)、土曜・祝日:18:00~24:00

定休日:日曜

予算:3,000円~

 

※掲載価格は税別価格です(2018年1月現在)

(取材&文・岡本ジュン 写真・貝塚隆)

 

PROFILE  岡本ジュン

“おいしい料理とお酒には逆らわない”がモットーの食いしん坊ライター&編集者。出版社勤務を経てフリーに。「食べること」をテーマに、レストラン、レシピ、お酒、生産者、旅などのジャンルで15年以上に渡って執筆。長年の修業(?)が役に立ち、胃袋と肝臓には自信あり。http://www.7q7.jp/