おもてなし料理

2018.12.07

年末年始の新定番!
備前焼と鰻のちらし寿司

寒い季節になると、食器棚の奥から出してくる器がある。個性はあるのに、強すぎる主張はなくて料理が映える。伊万里焼や九谷焼のような華やかさはないけれど、その堂々とした佇まいに安心できるのが備前焼の魅力だ。

 

備前焼とは、岡山県備前市周辺で作られている炻器(せっき)のことで、中世から続く日本を代表する窯の1つだ。縄文・弥生時代ともに野焼きで作られていた焼き物に変化が訪れたのは大陸との交流がきっかけ。穴窯が伝わったことによって高温焼成が可能になったのだ。

 

備前焼は、硬く焼きしまった須恵器の流れを汲むもので、庶民の日用雑器として作られた。記録として最古の備前焼が登場する一遍上人絵伝には、地面に無造作に置かれた備前焼の壷が描かれている。果たして中に酒を入れていたのだろうか、あるいは塩か、日常生活でどのように使われていたのかと、いにしえに想いを馳せるのはロマンがあってわくわくする。

 

一般的に私たちが想像しやすい焼き物は、表面がガラス質で覆われたつるっとした手触りのものだろう。一方で備前焼は手に持ってみると、ざらざら、場合によってはちょっとごつごつ感じられるかもしれない。焼き物を作るときには、土で形をつくったら、比較的低温で焼く。

 

柔らかく焼けたところに、釉薬というガラス質になる薬品をコーティングして、再度高温で焼いてようやく完成する。ところが、備前焼の焼きはたったの1度。釉薬をかけずに焼き締める一発勝負。窯の中の置く位置によって火のまわり方が異なるため、焼き上がりの風合いが大きく変わる。

 

器同士を重ねて焼くときに、上下がくっつかないように皿の間に稲藁を挟めば、稲藁の部分が襷(たすき)のように緋色に変色して見事な柄になるし、効率良く焼こうとお皿の上に徳利や猪口など小さな土ものを置けば、火の当たらない部分に思いがけない景色が現れる。

 

自然の土が火の力によって、想像もしなかった世界を見せてくれる面白さがある。また石が材料の磁器に比べ、保温力が高く料理が冷めにくい土ものは寒い季節に適している。

 

【鰻のちらし寿司】

今回は鰻を使ったちらし寿司をご紹介する。鰻というと、夏の土用の丑の日にいただく方も多いはず。そもそもこの習慣が広まったのは、江戸時代の策士、平賀源内によるもの。源内が、鰻屋から夏に鰻が売れないと相談されるなり、「今日は土用の丑の日、鰻を食べよう」なる宣伝をしたことがきっかけで爆発的に広がった。こうして滋養強壮にぴったりの鰻は夏の風物詩になったのだった。ところが実は鰻の旬は冬。寒い季節に向かって脂を蓄えた冬の鰻は美味しい上に、ビタミンが豊富なので、免疫力が落ちやすい季節にもいただきたい。冬の食卓は色彩が単調になりやすいが、錦糸卵のような明るい色が入ることによって一気にテーブルが華やぐ。

 

 

使用した備前焼は、物心ついた頃から実家にあって、特に冬の寒い季節に出番が多いもの。火のあたらなかった部分が牡丹餅のように丸々として可愛らしい。細々したものよりも、存在感のある材料をいくつかに絞ってのせると備前焼の魅力が存分に生きる。

 

 

材料(2~3人分)

・鰻(真空パック)1枚

・白米(炊いたもの)1合

・卵 2個

・サラダ油 適宜

・粉山椒 適宜

・三つ葉 適宜

・米酢 25ml

・砂糖 12g

・塩 5g

 

 

1、すし酢をつくる。(市販のすし酢を使用する場合は、この工程は省略可能)

米酢、砂糖、塩を合わせて沸騰させないように弱めの火にかける。砂糖と塩が溶けたら、器に移して冷ます。

 

 

2、錦糸卵を作る。卵を溶いて、ザルで漉す。

 

 

フライパンを中火で熱して油をひく。フライパンが温かくなったら、卵を流し入れる。固まってきたら端から丁寧に卵をはがして、裏返す。べたつきがなくなったら、フライパンから取り出す。

 

 

3、鰻を温める。真空パックの状態のまま、沸騰した鍋で3〜4分ほど温める。温まったら、真空パックから取り出して、ホイルに乗せて、魚焼き機かオーブンに2分ほど入れる。取り出して、食べやすいサイズにカットし、別添えのタレをかける。

 

 

4、卵が冷えたら、くるくる巻いて端から細めにカットする。

 

 

5、酢飯を作る。炊きあがった米をボウルに移して、しゃもじにすし酢を伝わせ、米全体にまんべんなく広げ、切るように混ぜる。すし酢の量は好みで調節を。

 

 

6、器に酢飯を盛る。卵をちらして、上から鰻をのせる。ポイントで三つ葉と粉山椒をかければできあがり。

 

※記事内で使用した器は私物です。

 

 

今回ご紹介する備前焼が手に入る、とっておきのお店は、備前焼ギャラリー青山。表参道駅から徒歩6分ほど、根津美術館のはす向かいにあるマンションの2階にお店を構えている。一見足を踏み入れにくそうな入り口だが、ひとたび扉を通り抜けると備前焼に囲まれた居心地の良い空間が広がっていた。向付、板皿や酒器などが並び、どれもすんなりと食卓に馴染む、使い勝手の良い品揃えだ。月ごとに作家が変わるというスタイルで営業されているので、定期的にのぞいてお気に入りの作品に出会いたい。

 

 

備前焼ギャラリー青山

住所:東京都港区南青山6-1-6 パレス青山206

TEL : 03-3797-4039

営業時間: 火~土曜日 11:00~19:00

日曜日・祝日  11:00~17:00

定休日: 月曜日

https://bizenpottery.com

 

 

料理人 豊田麻子

美術史を専攻し、都内の博物館に勤務。その後美味しいもの好きが高じてフランス随一の美食の街、リヨンのInstitut Paul Bocuseで料理を学び、ミシュラン三ツ星レストラン L’assiette champenoiseの厨房で研鑽を積む。地方を旅しながら歴史と文化を肌で感じ、心に残った食べものを再現することが愉しみ。

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