パリとアート

2018.10.19

パリが屋外美術館になる。
「芸術の都」がきらめく10月。

国際アートフェアFIAC2018開催会場のグラン・パレ/ Lang Baumann, Street Painting #10

 

9月のデザインウィーク、ファッションウィークが終わると、パリはぐっとアートにシフトする。毎年10月第一土曜日の夜に開催されるニュイ・ブランシュ、そして中旬に開催される国際アートフェアFIACを中心に、街のいたるところでアート、舞台、コンサートなどのイベントが繰り広げられ、秋めいたパリをさらに芸術のヴェールで包んでくれる。

 

 

パリのニュイ・ブランシュは「白夜」あるいは「徹夜」の名の通り、なんと一夜限り夜通し行われるアートイベントで、2002年に初めて開催されてから今年は17回目。パリで人気を呼んだこともあって今では世界各地でニュイ・ブランシュが行われる。日本ではパリ市と姉妹都市提携を結ぶ京都のイベントが有名だ。

 

毎年、イベントの指揮を執る芸術監督が選出され、今年はインディペンデント・キュレーターとしてフランスアート界で評価を高めるガエル・シャルボーがその役目を担った。

 

 

パリDrawing Lab.創設時の「盛圭太」展覧会にて。右端がキュレーターのガエル・シャルボー。

 

 

テーマは「パリの星座」。市内に大きく4つの「星座」を描くようにゾーンが設定され、あわせて110以上ものスポットで土曜日の日没から日曜日の夜明けにかけて光や音のアートインスタレーション、パフォーマンス、コンサート、映像イベントなどありとあらゆるジャンルの展示やイベントが人々を迎える。一部のメトロは終夜運転して、多くの美術館や博物館も真夜中まで無料開放。これを目あてに大行列ができる。

 

 

「星座」のひとつは、音楽系のミュージアムやホール、科学産業博物館などが約55万㎡の公園の中にそろうラ・ヴィレット地区。科学産業博物館の入口では、哲学者プラトンの「洞窟の比喩」という逸話から構想したという芸術家エリック・ミシェルと照明デザイナー石井明理リサによる光の作品が人々の視線を奪った。

 

 

科学産業博物館エントランス

 

 

 

 

その先では、超巨大なミラーボールのようなオムニマックスシアター「ラ・ジェオード」を幻想的にライトアップし、稲妻のような光が突然走る「TremenSs」の作品。そして、赤粘土のまざった不気味な水が数分ごとに間欠泉のように噴き上がるファビアン・レオスティックの作品。それらはまるで地球をときどき襲う猛烈な自然災害を思い起こさせる。

 

 

TREMENSS / WARDENCLYFEE

 

 

FABIEN LEAUSTIC / GEYSA

 

 

そのほか建築家ジャン・ヌーヴェルの設計した複合コンサートホール「フィルハーモニー・ド・パリ」ではエリック・サティの曲を音楽家が一晩中奏でつづけるマラソンコンサートなど、ニュイ・ブランシュにふさわしい企画で会場前に長蛇の列をつくった。

 

 

 

パリの中心部では、パリ市庁舎周辺と、ナポレオンの棺があるアンヴァリッド周辺に設定された2つの「星座」がきらめきを放つ。

 

 

パリ市庁舎広場 UGO SCHIAVI / SOULEVEMENT

 

 

アレクサンドル3世橋のたもとに設置されたプラネタリウムには星座を形どったパリのマップ

 

 

パリでいちばん美しい橋とされるアレクサンドル3世橋を中心に、アンヴァリッドからシャンゼリゼ大通りまで約1kmの道のりを市民に開放。エッフェル塔が見える橋の上は、まるで星空の下のナイトクラブのように人であふれた。

 

 

アレクサンドル3世橋

 

 

ニュイ・ブランシュは、アートと人々を近づける絶好の機会でもある。パリ18区の区役所では、クラシックな庁舎の中に子供たちが大人と一緒に楽しめるアートプロジェクトを企画。パリで活躍する日本人美術家で、糸を使ったドローイングアートで知られる盛圭太が起用された。

 

 

パリ18区の区役所会場で。中央が盛圭太さん。

 

 

彼は、約4時間をかけて子供たちとひとつの作品を一緒につくろうと巨大なボードを用意。しかし次々に集まった地元の子供たちの手で、1時間もしないうちに画面いっぱいに糸が張りめぐらされた。「アート作品に実際にさわれて、しかもそこに自分の手で参加できるってすごくいい経験になると思う」と盛さん。「人種や階級の違う子供たちが、さまざまな色の糸をそれぞれの思いを込めてつけていってそれが調和のようなカオスのような壁画を形成していくさまは、まるでパリやこの世界の縮図のよう」と、想像以上の反応に笑顔を浮かべた。

 

 

ニュイ・ブランシュが終わると、パリモーターショーをはさんで、10月中旬に開催されるパリ最大の国際アートフェアFIAC(フィアック=Foire Internationale d’Art Contemporain) を中心にしたアートウィークに向けてパリが動きだす。グラン・パレがこのFIACの会場になるのだが、これに合わせ出展するギャラリーとのコラボレーションによる美術作品の屋外展示が市内で繰り広げられる。ルーブル美術館に隣接するチュイルリー庭園はそのメイン会場。約25haもの広さの水と緑のオアシスに、大型の現代彫刻が立ち並ぶ。

 

 

ALICJA KWADE / REVOLUTION (GRAVITAS)

 

 

植松奎二 / Floating Vertical

 

 

名和晃平 / Ether#34/Ether #35

 

 

今回は、現在ルーブル美術館のガラスピラミッド内に作品が展示されている日本人美術家の名和晃平、そして植松奎二のほか、いま話題の美術家が世界中から作品を寄せ、秋色に染まる庭園を屋外美術館に変える。FIACの期間中はルーブル美術学校の学生達がそれぞれの作品の前でガイドをつとめ詳しい解説をしてくれるそう。ニュイ・ブランシュでも多くの学生ボランティアやNGOが現場に立ったが、ただ作品を展示するだけではなく、その意義を市民や世界から訪れる人々に伝え、対話しようというところがフランスらしい。

 

 

 

 

そのFIACは今年45回目。フランスを中心に世界27ヶ国から厳選された195のアートギャラリーが集結し、いまいちばん旬の現代アートを披露する。アートコレクター、プレス、アートファンなど約75,000人の入場者を見込む、文字通りパリ最大のアートフェアだ。

 

10月はまさに「芸術の都」の本領発揮。街を歩けばすぐにアート作品に出会えるようなこの時期のパリは、いつにも増して刺激的だ。

 

 

 

杉浦岳史/ライター、アートオーガナイザー

コピーライターとして広告業界に携わりながら新境地を求めて渡仏。パリでアートマネジメント、美術史を学ぶ高等専門学校IESA現代アート部門を修了。ギャラリーでの勤務経験を経て、2013年より Art Bridge Paris – Tokyo を主宰。現在は広告、アートの分野におけるライター、キュレーター、コーディネーター、日仏通訳として幅広く活動。