デザインインフォメーション

2017.06.05

膨大なコレクションから創造の本質を探る
「片山正通的百科全書」

インテリアデザイナーとして国内外で数々のプロジェクトを手がけ、世界的に注目を集めるワンダーウォールの片山正通氏。デザイナー歴25年の節目である今年、自ら会場構成を手掛けた展覧会「片山正通的百科全書 Life is hard… Let’s go shopping.」が東京オペラシティ アートギャラリーで開催されている。

 

今回展示されているのは、膨大な数のアート、家具、骨董、剥製、書籍、CD、など500点以上の「モノ」。コレクターとしても知られる片山氏の多様なコレクションを美術館の中でどう見せるかに注力し、片山氏のクリエイティヴィティの深層に迫る展示となっている。

 

片山正通氏が収集してきた膨大な数のコレクションを、独自の分類で展示している。写真は「Room13 骨董、オブジェ、その他」のエリア。

片山正通氏が収集してきた膨大な数のコレクションを、独自の分類で展示している。写真は「Room13 骨董、オブジェ、その他」のエリア。

 

片山正通氏のオフィス「ワンダーウォール」で所蔵されている、美術や建築の書籍ほか、多彩なジャンルのCDが、そのまま展示されている。

片山正通氏のオフィス「ワンダーウォール」で所蔵されている、美術や建築の書籍ほか、多彩なジャンルのCDが、そのまま展示されている。

 

膨大な物量に驚く展示

片山氏独自の分類と編集の視点に柔軟な発想力を感じる

 

片山氏が率いるワンダーウォールは〈ユニクロ グローバル旗艦店〉〈INTERSECT BY LEXUS〉〈PASS THE BATON〉〈ピエール・エルメ・パリ 青山〉をはじめ、現在ロンドンで進行中の〈JAPAN HOUSE〉など次々と注目の空間を手がけている。インテリアデザイナーとして活動25年となる節目に、「片山正通的百科全書 Life is hard… Let’s go shopping.」と題した展覧会が、現在東京オペラシティ アートギャラリーで開催されている。

 

インテリアデザイナーの展覧会といえば、これまでの作品を振り返り、進行中のプロジェクトを紹介するのが一般的である。しかし今回、片山氏が展示しているのは、自らが収集してきた現代アートや家具、骨董、剥製、多肉植物、書籍やCDなどの幅広いコレクションだ。しかも、その数が半端ではない。本展で片山氏は、自分にインスピレーションを与える様々なモノを独自の視点で分類し、展示室を17の部屋に区切ることで鑑賞者が街の中でウィンドーショッピングをするような構成を考えた。鑑賞者は、次々と現れる作品やアイテムを見て、まるで片山氏の脳内迷路に迷い込んだ気持ちになるだろう。

 

コレクションには、ライアン・ガンダー、サイモン・フジワラ、村上隆など国内外の現代アート、ジャン・プルーヴェやシャルロット・ペリアンらの家具なども含まれる。普段はワンダーウォールのオフィスに展示されているが、すべてを展示しきれないため倉庫に保管している作品も多いという。本展はコレクションをまとめて見ることのできる絶好の機会でもあるのだ。

 

 

「Room 1」では、「ワンダーウォール・オフィス・ツアー」として、映像と模型でオフィスの様子を紹介。

「Room 1」では、「ワンダーウォール・オフィス・ツアー」として、映像と模型でオフィスの様子を紹介。

 

詳細に表現された模型から、片山氏がアートを日常に取り込んでいる様子が見て取れる。

詳細に表現された模型から、片山氏がアートを日常に取り込んでいる様子が見て取れる。

 

「Room 1」から始まる展示は、「ワンダーウォール・オフィス・ツアー」として、映像と模型でオフィスの様子が紹介される。映像内でオフィスを案内するのは、片山氏本人だ。地下から屋上へと続く吹き抜け階段回り、打ち合わせ室や設計室などにも、数々の作品やアイテムが置かれている様子がわかる。

 

スケール感がわかる緻密な断面模型は、各階の空間構成とともに、アート作品まで再現されている。すべてのモノが違和感なく配置されているが、本人は『置く場所を決めて作品購入することはないんですよ』という。

 

今回の展示の見どころは、ジャンルも時代も異なる多様なコレクションを片山氏が自ら分類・編集し、どう構成するのかという点だ。片山氏のコレクションは、真剣勝負で獲得してきたショッピング遍歴を表すものであるが、知人やアーティストから贈られたものも含まれ、成り立ちを考えても特殊なコレクションと言えるだろう。

 

窓から外光が入る「Room 4」では珍しい多肉植物が並び、庭をイメージさせるスペースとなっている。

窓から外光が入る「Room 4」では珍しい多肉植物が並び、庭をイメージさせるスペースとなっている。

 

写真やドローイングだけでなく、ドナルド・マクドナルドの人形なども展示された空間は、「人と動物」というモチーフによる分類方法が印象的だ。

写真やドローイングだけでなく、ドナルド・マクドナルドの人形なども展示された空間は、「人と動物」というモチーフによる分類方法が印象的だ。

 

展示の導入部分は両側の壁面に美術や建築の書籍がギッシリと納められた「Room 2」、様々なジャンルのCDが並ぶ「Room 3」と続き、窓から外光が入る「Room 4」では多肉植物が並び、ワンダーウォールの屋上庭園をイメージさせるスペースとなっている。既存の空間の特性を活かした、片山氏の巧みな展示構成の一端が感じられるだろう。

 

本展覧会のスーパーバイザーである那須太郎氏(TARO NASU)とコレクションの全体像を改めて見渡していたところ、「人と動物を扱った作品」が多いことに気づき、絵画やイラスト、グラフィックアートや写真などのジャンルに囚われず分類と編集が行なわれコレクションの特徴として抽出した。結果、「Room 5」から「Room 8」までは「人と動物」というカテゴリーとなっている。異なる背景をもつモノをつなぎ合わせて新しい価値を生み出す、普段の片山氏の仕事とも共通している。

 

 

各部屋をゆるやかにつなぐ白いカーペットが敷かれた通路には、巨大なシロクマの剥製が置かれている。

各部屋をゆるやかにつなぐ白いカーペットが敷かれた通路には、巨大なシロクマの剥製が置かれている。

 

大竹利絵子による大きな木彫の少女像も、シロクマの剥製と同様にインパクトを与える。

大竹利絵子による大きな木彫の少女像も、シロクマの剥製と同様にインパクトを与える。

 

「既成概念を疑う作品やモノ」に

クリエイションの源流をみる

 

「Room 8」の先には、白いカーペットが敷かれた通路があり、様々な視覚体験が待っている。写真家・映画監督のラリー・クラークの作品を見いって振り返ると、そこには巨大なシロクマの剥製が仁王立ち。キツネやアライグマなどの剥製の隣りには大竹利絵子による巨大な木彫の少女像が現れる。訪れる人の意表を突き、ワクワクさせる構成もまた、片山氏の空間デザインにおける仕掛けのひとつである。

 

「Room 12」は、日本のロックバンド「サカナクション」の山口一郎が本展のために制作した作品が特別に出品されている。この展覧会は写真撮影もSNSなどへの投稿も可能だが、本作品だけは見聞きした内容を他者と共有せずに、自分だけで感じ、考えることが求められている。

 

(左)「Room 9」は「白と黒」をテーマとした写真作品を展示。 (右)壁面に展示されているのは、写真家・松江泰治の作品。

(左)「Room 9」は「白と黒」をテーマとした写真作品を展示。
(右)壁面に展示されているのは、写真家・松江泰治の作品。

 

(左)「サカナクション」の山口一郎の作品を鑑賞するために設計された「Room 12」では、片山が山口から譲り受けたギターも展示。 (右)「Room13 骨董、オブジェ、その他」のエリアは、まるでショップのように作品がディスプレイされている。

(左)「サカナクション」の山口一郎の作品を鑑賞するために設計された「Room 12」では、片山が山口から譲り受けたギターも展示。
(右)「Room13 骨董、オブジェ、その他」のエリアは、まるでショップのように作品がディスプレイされている。

 

さまざまな骨董やオブジェの中にアートがさりげなく置かれ、洗練された感覚に目を見張る。

さまざまな骨董やオブジェの中にアートがさりげなく置かれ、洗練された感覚に目を見張る。

「Room 13」では、骨董やオブジェが配置されている。ひとつひとつのモノが持つ力に圧倒され、同時にそれぞれがヒエラルキーなく洗練された感覚で並べられている様子が面白い。

 

続く「Room 14」では、シャルロット・ペリアンやジャン・プルーヴェ、ピエール・ジャンヌレなどによるミッドセンチュリーの家具が置かれている。一際目立つのはプルーヴェがデザインしたアルミニウム製のサンシャッター(日よけ)。こうした建築部材も貴重なものだ。巨匠と呼ばれるデザイナーの創意工夫も、片山氏の創造の源となっているのだろう。

 

後半の「Room 15」から「Room 17」までは、コンセプチュアル・アートが続く。同会場で個展が開催されたこともあるサイモン・フジワラやライアン・ガンダーの作品が充実している。ライアン・ガンダーは片山氏にとって、本格的にアートを集めるキッカケになったアーティストだという。

 

ガンダーの作品の魅力は既成概念を疑い、物ごとの価値を見つめ直す強固な「コンセプト」にある。こうした思考の転換を促す体験もまた、片山氏のクリエイションを支える重要な要素となっている。

 

 

シャルロット・ペリアンや、ピエール・ジャンヌレ、ジャン・プルーヴェなどによるミッドセンチュリーの家具も展示。アルミ製の建築部材はプルーヴェによるサンシャッター(日よけ)。

シャルロット・ペリアンや、ピエール・ジャンヌレ、ジャン・プルーヴェなどによるミッドセンチュリーの家具も展示。アルミ製の建築部材はプルーヴェによるサンシャッター(日よけ)。

 

KAWSのフィギュアやペインティングの中には、個人的な交流から贈られたものも含まれている。

KAWSのフィギュアやペインティングの中には、個人的な交流から贈られたものも含まれている。

 

2016年に同館で大規模な個展を開催し、話題を呼んだサイモン・フジワラの作品。

2016年に同館で大規模な個展を開催し、話題を呼んだサイモン・フジワラの作品。

 

片山氏は、展覧会に次のようなメッセージを寄せている。『PUNK ROCKを聴いてしまった少年時代、僕の価値基準はたった一つになった。「既成概念に蹴りを入れる物が好き」 そんな暴力的な理由で集まってきた物、モノ、もの。カテゴリーについての意味なんて知ったこっちゃない』と。

 

こうして集められた多様なモノに囲まれることによって、片山氏は常にインスピレーションを受けているのだ。

 

冒頭の映像で語られていた『本物を見ると、恥ずかしいものをつくれない』という言葉は、片山氏が常に抱く決意を表しているだろう。そして今回、コレクション全体を見渡すなかで、片山氏自身が新たな発見をしたはずである。これからも片山氏の発想から生まれる「ワンダー」な空間に、さらに期待が高まる。

 

(取材・文/加藤純、撮影/川野結李歌)

 

 

ライアン・ガンダーの作品群を展示した「Room 17」。ライアン・ガンダーは片山氏にとって、本格的にアートを集めるキッカケになったアーティストだという

ライアン・ガンダーの作品群を展示した「Room 17」。ライアン・ガンダーは片山氏にとって、本格的にアートを集めるキッカケになったアーティストだという

 

片山氏に代わりお辞儀をする福助人形が、来場者に足を運んでくれたことへのお礼として展覧会は完結する。

片山氏に代わりお辞儀をする福助人形が、来場者に足を運んでくれたことへのお礼として展覧会は完結する。

 

 

片山正通氏 撮影:操上和美

片山正通氏
撮影:操上和美

山正通(かたやままさみち)/インテリアデザイナー

1966年、岡山生まれ。

ワンダーウォール代表、武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科 教授

 http://wonder-wall.com/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

片山正通的百科全書

Life is hard… Let’s go shopping.

会期:2016年4月8日(土)~ 6月25日(日)

会場:東京オペラシティ アートギャラリー

開館時間:11:00-19:00(金・土は20:00まで/最終入場は閉館30分前まで)

休館日=月曜日

入場料=一般1200円/大学・高校生800円/中学生以下無料

住所:東京都新宿区西新宿3-20-2

電話:03-5770-8600(ハローダイヤル)

http://www.operacity.jp/ag/exh196

 

 

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