デザインインフォメーション

2017.11.17

オートクチュール刺繍の技術が描く、
想像力あふれるアートの世界。

日本橋三越本店で展示の『La Fleur et son nid -3』(2017)(部分)

世界を代表するフランスモード界の頂点を極める「オートクチュール(高級注文服)」。華やかなファッションショーの映像は見たことがあっても、そこで使われる技術を知る人はあまりいないのではないだろうか。実はオートクチュールの輝きの大部分は、施される手刺繍の美しさにある。色も形もさまざまなスパンコールやビーズ、羽根などの素材を職人たちが針で刺していくわけだが、このオートクチュールに特有の技法は、我々がよく知っている刺繍とは少し違う針を使う。

 

「リュネビル刺繍」は、フランスで生まれた小さく繊細な「かぎ針」を使う技法で、これがオートクチュール刺繍の大きな部分を占める。絵柄が見えないように職人は生地の裏側を自分に向けて針を刺し、その下の見えない部分では手の感触だけでビーズなどの素材を留めつけていく、極めて特殊な技術だ。

 

細いかぎ針を刺しながら裏側で素材を留めつけていく「リュネビル刺繍」の手法

 

シャネル、クリスチャン・ディオールなど、一流ブランドの刺繍を手がけるパリのアトリエで職人として仕事をしながら、その技法を自分の創作に採り入れ、世界でも他にない芸術表現をするアーティストが、杉浦今日子さん。11月21日(火)まで、日本橋三越本店で彼女の展覧会『unlimited アンリミテッド』が開催されている。

 

日本橋三越本店 本館6階アートスポットで開催の展覧会『unlimited』

 

かつては東京で刺繍バッグなどを製作・販売。刺繍教室も開いていた杉浦さん。2009年にフランスに渡り、この刺繍のメソッドを学ぶと、瞬く間にその魅力と可能性に目ざめ、手刺繍のフランス国家資格を取得した。

 

このカギ針の刺繍は、針を素材の穴に通すのではなく、糸にあらかじめ通った素材をその糸を布に留めることによって付けていく。つまり、糸に通るのであれば、どんな小さな素材も使うことができるのが特徴。

 

日本橋三越本店で展示の『La Fleur et son nid -3』(2017)(部分)

 

1mm以下の極小ビーズから、クリスタルの大玉、自作のウッドピース、さらには京都の金箔や伝統技法で染められた糸まで、日本とヨーロッパの文化と職人技から生まれたあらゆる素材が使われ、まさに「unlimited(無限)」の表現がキャンバスに描かれていく。

 

糸で留められた素材の上に京都の金箔を貼る。細かな作業の連続。

 

19世紀に始まったオートクチュールの技術をベースに、独自の素材やモチーフを開拓しつづけ、繊細な手業を限りなく積み重ねていく彼女の手法は、「伝統と革新」を常にテーマとするフランスの工芸アートの世界でも高く評価されている。パリ市のクリエイターズグランプリでは2014年・2015年と2年連続でノミネートされファイナリストに。2017年は、グラン・パレ、パリ市庁舎、そしてロマン派美術館で展示され、10月にはサンジェルマン・デ・プレ地区のギャラリーで個展、そして今回の日本橋三越本店と展覧会がつづく。

 

パリを拠点に、ヨーロッパや日本でますます活躍の場を広げる杉浦今日子さん。これからの動向と作品の進化から目が離せない。

 

パリ、グラン・パレでの展覧会『Révélation』(2017)

 

パリで開催された個展 『Symbiose(共生)』(2017) Galerie Bettina

 

 

会期:2017年11月8日(水)~11月21日(火)

会場:日本橋三越本店 本館6階 アートスポット

住所:東京都中央区日本橋室町1-4-1

電話:03-3241-3311(大代表)

時間:10:30~19:30(会期中は無休)

ホームページ:Kyoko Création BRODERIE http://www.kyokocreation.com

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