デザインインフォメーション

2016.04.04

芸術は、着れる。「PARIS オートクチュール
世界に一つだけの服」展が開催中

ジェローム イヴニング・ドレス《楽園》 1925年頃 ガリエラ宮パリ市立モード美術館蔵
(C)Katerina Jebb @ mfilomeno.com

SUMAUでも以前紹介した三菱一号館美術館で、パリの至宝であるオートクチュールを俯瞰する展覧会が開催中だ。草創期から現在までを網羅した作品は、どれもその時代を代表する名品ばかり。中には本展以降向う何年かは門外不出となる作品も多数来日し、見逃せない企画となっている。

 

バレンシアガ イヴニング・ドレス 1951年秋冬 ガリエラ宮パリ市立モード美術館蔵  (C)Katerina Jebb @ mfilomeno.com

バレンシアガ イヴニング・ドレス 1951年秋冬 ガリエラ宮パリ市立モード美術館蔵 (C)Katerina Jebb @ mfilomeno.com

 

 

パリで誕生したオートクチュール

世界最高の職人技による美術作品としての価値

 

今や安売りされている感もあるオートクチュールという言葉。

 

しかしこの展覧会は本物の、あるいはその字義どおりのオートクチュールに接することのできる得難い機会となっている。

 

「PARIS オートクチュール-世界に一つだけの服」展は、2013年にパリ市庁舎にて展示されたガリエラ宮パリ市立モード美術館所蔵コレクションの東京巡回展といえる。

 

同館館長のオリヴィエ・サイヤールは、話題をさらうファッションの展覧会を次々と仕掛ける名物キュレーターであり、当然この東京展の監修も務めた。

 

展示総数73点(デザイン画や写真等を除く)のうち約20点は本展のためにあらためて選ばれ、その中には新収蔵品からの展示もあり本国よりも早く日本で初披露となった作品もあるとか。

 

ちなみに高級仕立服などと訳されるオートクチュールだが、これを名乗るには厳格な基準をクリアしなければならない。

 

年に2回ショウを開催し規定の数のお針子を抱えるなどして、初めてパリ・クチュール組合「サンディカ」の一員となり、晴れてオートクチュールとなるのだ。

 

僅かなスペースを埋めるのに何十時間を費やすとも言われる刺繍、ビーズやスパンコールなどで彩られたドレスたちは、服であると同時に当代随一の工芸品となった。美術作品としてコレクションされるのも頷ける。

 

クリスチャン・ラクロワ イヴニング・アンサンブル 《クー・ド・ルーリ》 1991年秋冬 ガリエラ宮パリ市立モード美術館蔵   (C)Katerina Jebb @ mfilomeno.com

クリスチャン・ラクロワ イヴニング・アンサンブル 《クー・ド・ルーリ》 1991年秋冬 ガリエラ宮パリ市立モード美術館蔵
(C)Katerina Jebb @ mfilomeno.com

 

クリスチャン・ディオール イヴニング・ドレス《パルミール》1952年秋冬 ガリエラ宮パリ市立モード美術館蔵  (C)Katerina Jebb @ mfilomeno.com

クリスチャン・ディオール イヴニング・ドレス《パルミール》1952年秋冬 ガリエラ宮パリ市立モード美術館蔵
(C)Katerina Jebb @ mfilomeno.com

 

 

女性を輝かせるために最高の技を尽くす

それがオートクチュールの美しさ

 

本展は時代に沿って草創期から順に展示されている。

 

まず目に飛び込んでくるのはシャルル=フレデリック・ウォルト(このオートクチュールの先駆者は、実のところチャールズ・ワースというイギリス人だが)の、ウエストをコルセットで絞り上げヒップを強調したバッスルスタイル。さらに順路を進めば見覚えのある名前も現れてくる。

 

ランバン、ヴィオネ、シャネル…。コルセットから解放された女性のためのドレスを作るクチュリエ(=デザイナー)たちもまた女性であった。シンプルな構造で広くなった平面は、意匠と技が競い合う芸術のキャンバスとなっていく。

 

時代が下り、バレンシアガやディオールと馴染みの名前は増えていくが、高級既製服「プレタポルテ」の登場により、流行の発信源としての役割は変化を余儀なくされることに。

 

しかしオートクチュールが途絶えることはない。

 

ラクロワ、ゴルチエ、最近ではジャラールが新たにクチュール組合に参加した。プレタポルテ出身のゴルチエは参入後、逆にプレタポルテを閉めオートクチュールにビジネスを絞った。必ずしも衰退産業ではないということだろう。

 

 

ウォルト イヴニング・ケープ 1898-1900年頃 ガリエラ宮パリ市立モード美術館蔵  (C)Katerina Jebb @ mfilomeno.com

ウォルト イヴニング・ケープ 1898-1900年頃 ガリエラ宮パリ市立モード美術館蔵 (C)Katerina Jebb @ mfilomeno.com

 

創始者が没した後もなおオートクチュールを発表し続けているシャネルとディオール。

 

オリジナルと後継クチュリエの作品とが併置され、メゾン(=ブランド)の個性がどのように受け継がれているかがわかる(「女の膝は醜い」と語ったココ・シャネルの隣には、現クチュリエ、カール・ラガーフェルドによるミニスカートのシャネル・スーツを見たかった、とは言い過ぎか)。

 

オートクチュールとはすべてが手縫いというだけの豪華版既製服であるはずもない。展示作品の中にパルミールと名付けられたディオールのドレスがある。

 

時の英国王を退位させた「王冠を賭けた恋」で知られるウォリス・シンプソンのために誂えられたものだが、ショウでの床を掃くほどのロングドレスを小柄なウォリスに合わせ裾をバッサリ短くしたのだ。

 

顧客の体型に合わせてサイズを調整するのはもちろんだが、その顧客1人の要望にしっかり応え彼女を輝かせるために最高の技を尽くす。それこそがオートクチュールなのだ。

 

そして、そのオートクチュールの名品が一堂に会するこの展覧会自体も、パリで発表されたものを、クチュリエ(=サイヤール館長)が三菱一号館美術館のプロポーションに合わせ誂え直したといえよう。

 

(取材・文/入江眞介)

 

 

スキャパレリ イヴニング・グローブ《爪》1936年頃 ガリエラ宮パリ市立モード美術館蔵  (C)Katerina Jebb @ mfilomeno.com

スキャパレリ イヴニング・グローブ《爪》1936年頃 ガリエラ宮パリ市立モード美術館蔵 (C)Katerina Jebb @ mfilomeno.com

 

 

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PARIS オートクチュール-世界に一つだけの服

会期:3月4日(金)〜5月22日(日)

会場:三菱一号館美術館

住所:東京都千代田区丸の内2-6-2

開館時間:10:00〜18:00(祝日を除く金曜日及び会期最終週の平日は20:00まで)※入館は閉館30分前まで

休館日:月曜日(祝日及び5月2日、16日は開館)

観覧料:一般1700円、高校・大学生1000円、小・中学生500円(団体割引等あり)

問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)

展覧会サイト:http://mimt.jp/paris-hc/

 

〈半券提示による3館相互割引〉

三菱一号館美術館、ポーラ美術館、世田谷美術館では、2016年春、それぞれ異なるアプローチからファッション関連の展覧会を開催しており、これを記念して、この3館では各館の半券提示による相互割引を実施しています。

三菱一号館美術館/割引内容:半券 1枚につき100 円引き

ポーラ美術館/「Modern Beauty-フランスの絵画と化粧道具、ファッションにみる美の近代」

期間:3月 19 日(土)~9月4日(日) 割引内容:半券 1枚につき 5名様まで 200 円引き

世田谷美術館/「ファッション史の愉しみ ―石山彰ブック・コレションより―」

期間:2月 13 日(土)~4月10日(日) 割引内容:半券 1枚につき 5名様まで100円引き

 

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