デザインインフォメーション

2016.10.03

オランダのモダン・デザイン
リートフェルト/ブルーナ/ADO

オランダといえば、チューリップに風車…、だけではない。訪れる街の至る所で洗練されたデザインが感じられる、デザイン先進国である。異なる世代の3人のデザイナーの作品を通じて、オランダ・デザインの半世紀を俯瞰する「オランダのモダン・デザイン リートフェルト/ブルーナ/ADO」が、東京オペラシティ アートギャラリーで開催中だ。連続するオランダ・モダニズムの姿が、立体的に見えてくる展覧会である。

 

ADO 《散水車》 1939年 CODAミュージアム蔵 Copyright CODA / Gerhard Witteveen

ADO 《散水車》 1939年 CODAミュージアム蔵 Copyright CODA / Gerhard Witteveen

 

カラフルな色使いと素朴な温もり、そして斬新な試み。

オランダが産んだ巨匠たちからモダン・デザインの足跡をたどる。

 

「レッド・ブルー・チェア」など名作椅子の家具職人であり、世界遺産にも登録されている「シュローダー邸」を設計した建築家として知られるヘリット・トーマス・リートフェルト(1888-1964)。

 

そして、世界中で親しまれている「ミッフィー(うさこちゃん)」の絵本シリーズや数々のグラフィック・デザインで知られるディック・ブルーナ(1927-)。共にオランダのユトレヒト出身である。歴史ある街から輩出された、20世紀を代表するデザイナー2人の足跡に加えて、今回の展覧会では彼らを結ぶ存在として、オランダの国民的玩具シリーズADO(アド)が日本で初めて紹介される。

 

その企画趣旨は、最初の展示室から一貫して現れる。リートフェルトの家具、ブルーナのポスター、ADOの玩具が織り交ぜて展示され、それぞれの関係性を感じながら進んでいく構成だ。

 

あらかじめ断っておくと、リートフェルトの作品が含まれる写真は、諸般の事情からここでは紹介することができない。非常に残念ではあるが、ぜひ自分の目で確かめに訪れていただきたい。

 

ADO 《ドール・ハウス》 1927年 CODAミュージアム蔵 Copyright CODA / Gerhard Witteveen

ADO 《ドール・ハウス》 1927年 CODAミュージアム蔵 Copyright CODA / Gerhard Witteveen

 

最初の展示室では、家具職人から出発したリートフェルトの歩みから始まる。「レッド・ブルー・チェア」の前身となった、着色されておらず木目が出ている初期のアーム・チェアを見るのは新鮮だ。リネン棚や食器棚、裁縫テーブルといった作品も珍しい。

 

「ジグザグ・チェア」「ベルリン・チェア」といった名作ももちろん展示されている。いずれも、線と面で立体を構成することで旧来の装飾的な家具にはない造形に熱を上げている様子が感じられ、オランダの前衛芸術運動「デ・ステイル」へとつながる流れを見ることができる。

 

そして、リートフェルトの家具と、ブルーナのグラフィック・デザイン、ADOの玩具には共通する雰囲気があることに気づく。カラフルで限定した色使いに加えて、シンプルで素朴な暖かみや温もりといった優しさである。手仕事から生まれる造形や、彼らが育ってきた街の歴史や風土が作品づくりの感性に反映されているに違いない。

 

最初の展示室の後半では、リートフェルトの名作「シュローダー邸」が、写真や映像、模型、スケッチや図面で紹介される。室内の仕切りに大きな可動スライド壁を用い、自在に伸縮させる2階のワンルームの様子、外に向かって流れ出るような開放感の高い空間の様子、随所にちりばめられた家具職人らしい工夫が示される。

 

また、線と面や色彩のコンポジションというリートフェルトが追い求めていたテーマが、この住宅で結実していることが見て取れる。初期のスケッチで描かれた箱型の姿は、少し野暮ったく鈍重だ。面と線が交差しながらジョイントする構成は、単なる箱の形態や束縛を打破し、建築のスケールでも自由を獲得したのである。

 

日本で初めて紹介されるADOの玩具シリーズ。オランダ・モダン・デザインは人間味にあふれている。デザインと指導にあたったデザイナーのコー・フェルズーは、子どもの美的感性や想像力を伸ばすことを重視した。

日本で初めて紹介されるADOの玩具シリーズ。オランダ・モダン・デザインは人間味にあふれている。デザインと指導にあたったデザイナーのコー・フェルズーは、子どもの美的感性や想像力を伸ばすことを重視した。

 

独自の世界を広げるブルーナの作品群。

3人のデザイナーのエッセンスを感じ取る

 

続く展示室では、まずリートフェルトの「ソンスベーク彫刻パビリオン」が大きな写真とビデオなどで紹介される。このパビリオンでは素材や質感を通した体験も重視。水平が強調された建物の壁には孔の空いたブロックが用いられ、内と外の境が曖昧な流動的な構成となっていることが分かる。

 

そばに展示されるのは、リートフェルト自作の簡単な手のひらサイズの模型。「マケット」というこれらの模型では、1枚の厚紙を切って立体にするプロセスが分かって興味深い。

 

この展示室の一部からは、ブルーナの作品が中心になる。1951年から本の表紙やポスターを精力的に手がけたブルーナは、1955年から発刊されたペーパーバックの「ブラック・ベア」シリーズの表紙デザインを数多く生み出していく。ミステリーやサスペンスを黒色で暗示しながら展開した書籍が展示され、ブルーナがグラフィック・デザイナーとしてさまざまなアプローチを試みたことが紹介される。

 

ADO 《家具のトレーラー》 1953年  CODAミュージアム蔵 Copyright CODA / Gerhard Witteveen

ADO 《家具のトレーラー》 1953年 CODAミュージアム蔵 Copyright CODA / Gerhard Witteveen

 

続いて、ブルーナの絵本やポスターなどの作品を展示するエリアになる。壁面にはおなじみの絵本「ミッフィー(うさこちゃん)」のシリーズ、ワイヤーで中空に固定された初期の原画は用紙の両面を使って描かれた貴重なものだ。

 

振り返ると大きなポスターが並んでいる。親しみやすいキャッチコピーもブルーナ自身が考え、ビジュアルと共に強烈な印象を残すものだ。

 

「ポスターはひと目見て読み取られるものでなければいけない」 「それは一撃の効果を持つものでなければならない」「ポスターはまた、人間味を帯び、うんと親しみを感じるものでもなければならない」というブルーナの言葉がまさに当てはまる。

 

本展覧会では、ブルーナ特有の絵本制作プロセスも紹介される。線と色彩を別々に決める手段をとることで、線描の表情と、色彩の強さの両方を生かすことができている。また、あえて1人で複雑な手続きを経るなかで、表現にある種の距離感を保ち、客観性や普遍性がもたらされるという考察が添えられている。

 

ADO 《ジャンピング・ジャック(あやつり人形)》 1925年頃 CODAミュージアム蔵 Copyright CODA / Gerhard Witteveen

ADO 《ジャンピング・ジャック(あやつり人形)》 1925年頃
CODAミュージアム蔵
Copyright CODA / Gerhard Witteveen

ADO 《象の輪投げ》 1941年 CODAミュージアム蔵 Copyright CODA / Gerhard Witteveen

ADO 《象の輪投げ》 1941年
CODAミュージアム蔵
Copyright CODA / Gerhard Witteveen

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして展示後半では、ADOの玩具シリーズがずらりと並ぶ。もとは結核療養のためのサナトリウムで、木工制作の作業療法として始まった活動がオランダの社会で受け入られていったのだ。デザインと指導にあたったデザイナーのコー・フェルズーは、子どもの美的感性や想像力を伸ばすことを重視したという。

 

「実際の玩具の形は、シンプルかつ明晰にものの本質を表していなければならない。そうしたものだけが、子どもたちが想像力を心ゆくまで働かせることを可能にする」という彼の言葉は、リートフェルトやブルーナの作品にも共通するものとして受け取れないだろうか。

 

展示最後の廊下では、リートフェルトの名作椅子に腰掛けてブルーナの絵本を読むコーナー、そしてリートフェルトの名作住宅「シュローダー邸」にまつわるインタビュー映像作品を鑑賞できるコーナーがある。

 

展覧会の復習として、腰を落ち着けて見ていきたい。加えて、展覧会に合わせて刊行された本『オランダのモダン・デザイン:リートフェルト/ブルーナ/ADO』も、復習にはお勧めである。

 

(取材・文/加藤 純)

 

 

建築家・リートフェルトとグラフィック・デザイナーのブルーナ、そしてオランダの国民的玩具シリーズADO。異なる時代のユニークな三つの視点で、オランダのデザイン文化に触れることができる展覧会場。

建築家・リートフェルトとグラフィック・デザイナーのブルーナ、そしてオランダの国民的玩具シリーズADO。異なる時代のユニークな三つの視点で、オランダのデザイン文化に触れることができる展覧会場。

 

オランダのモダン・デザイン

リートフェルト/ブルーナ/ADO

会期:2016年9月17日(土)~ 11月23日(水・祝)

会場:東京オペラシティ アートギャラリー

開館時間:11:00-19:00(金・土は20:00まで/最終入場は閉館30分前まで)

休館日=月曜日(祝日の場合は翌火曜日)

入場料=一般1200円/大学・高校生800円/中学生以下無料

住所:東京都新宿区西新宿3-20-2

電話:03-5770-8600(ハローダイヤル)

http://www.operacity.jp/ag

 

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