行ってみたいデザイン空間

2016.01.07

神奈川県立近代美術館 鎌倉
2016年3月末閉館、64年の歴史を閉じる

古都鎌倉・鶴岡八幡宮の境内に位置する神奈川県立近代美術館。通称「鎌倉近代美術館」、略称「カマキン」として多くの人に愛されてきた美術館が、2016年1月末まで最後の展覧会が行われ、3月をもって閉館を迎える。日本を代表するモダニズム建築は、ル・コルビュジエに師事した建築家の坂倉準三による代表作でもある。すぐに取り壊されることはないというが、今後の活用方法は未定。カマキン草創期の活動を振り返る現在開催中の展覧会とともに、名建築の佇まいを心ゆくまで堪能しておきたい。

 

 

鎌倉八幡宮の自然景観を取り込んだ白亜のモダンな建物。

2016年3月をもって閉館を迎える神奈川県立近代美術館。1月末までは最後の展覧会が行われている。

 

 

左:鎌倉八幡宮の自然景観を取り込んだ白亜のモダンな建物。右:日本を代表するモダニズム建築は、建築家の坂倉準三の代表作。正面の階段を上って展示室に入る。

左:鎌倉八幡宮の自然景観を取り込んだ白亜のモダンな建物。右:日本を代表するモダニズム建築は、建築家の坂倉準三の代表作。正面の階段を上って展示室に入る。

 

 

中庭を取り囲むような回廊型の美術館。中庭から空が見えて開放感にあふれている。

中庭を取り囲むような回廊型の美術館。中庭から空が見えて開放感にあふれている。

 

 

 

鎌倉八幡宮の周辺環境と対峙しながら同化する

日本のモダニズム建築を代表する名建築

 

鶴岡八幡宮の正面向かって左側、平家池越しに見える白亜の建物。いかにもモダンな建物が、1951年に日本で最初の公立近代美術館として誕生した神奈川県立近代美術館である。

 

日本を代表するモダニズム建築は、ル・コルビュジエに師事した建築家の坂倉準三の代表作でもある。

 

地面から切り離されたような四角い外観が、南からの光に照らされて周囲の杜から浮かび上がり、そのシルエットが水面に映り込む。

 

まずは外側から、この美術館の特徴を見ていこう。2階の白い外壁は、高圧プレスされたアスベスト・ボードをアルミの型押し出し目地材で固定したもの。1階の壁には、栃木が原産地の大谷石が積まれている。

 

どちらも、当初の仕上げそのままである。ボードと石材は坂倉氏が好んだという互い違いの馬乗り目地(破れ目地)で張られている。竣工当時は磨き上がられた2階外壁表面が光を受けて輝いていたという。戦後間もない時期には、驚きと羨望の眼差しをもって迎えられたことは想像に難くない。

 

とはいえ、当時は極端に建築資材が不足していた頃。主要な構造であるI型の鉄骨はリサイクル材だというし、屋根の三角トラスも細い鉄骨で組んでいた。ボードなどの工業製品を使ったのは手に入りやすいという大きな理由があったし、工事期間を圧縮するための手立てであった。

 

正面アプローチは、池を回りこんで西側にある。1階左手のチケット売り場から、正面の大階段を登って2階の展示室へ。

 

現在、大階段の正面は乳白色のポリカーボネートで覆われているが、竣工当初は何もなく抜けており、中庭上部を通して空が見えていた。階段を登り切ると左手から室内に入り、展示室が続く。展示室は、中庭を取り囲む回廊型の空間だ。

 

 

シンプルで白い空間の展示室。開館当時は自然採光であったが、改修で天窓はふさがれ人工照明になった。

シンプルで白い空間の展示室。開館当時は自然採光であったが、改修で天窓はふさがれ人工照明になった。

 

 

展示室はシンプルな白い空間だが、最初の展示室の左奥にはガラス張りの陳列棚が壁に造り付けられている。ガラスの上部が手前に倒れかかっているのは、トップライトの反射を避けると同時に、鑑賞者がガラスに映り込むのを避けるためである。

 

天井には現在、壁際にボールト状の意匠が施されているが、当初は平滑な天井面であった。そして、当初はライン状にトップライトが展示室天井の真ん中に設けられていた。床はリノリウム敷きのものが、改修でカーペット敷きに変えられたという。

 

両壁面にある展示を見ながら折れ曲がり、進んでいくといったん屋根の続く半外部空間に出る。ここで入館者は中庭を見下ろし、空を見上げることになる。

 

眼下の中庭には、現在はスレートが張られているが、当初は斜めに延びる敷石のほかは玉砂利が敷き詰められていた。そして中庭北側2階の外壁面には映写用のロールスクリーンが設置され、展示によってはフィルムが上映されていた。

 

半外部空間に続く喫茶室からは、テラスを通じて平家池を望むことができる。また喫茶室の上部には、当初は集会室として想定されていたスペースがある。閉館までは特別に公開中で、坂倉氏が考案した椅子や製図台が展示されて座ることができる。

 

喫茶室で休憩した後は、最後の小さな展示室へ。最も奥のスペースは、元は貴賓室であったところ。現在はミュージアムショップとして使われている。

 

 

喫茶室の吹き抜け部分には、田中岑(たかし)によって描かれた壁画が飾られている。

喫茶室の吹き抜け部分には、田中岑(たかし)によって描かれた壁画が飾られている。

 

 

左:喫茶室のテラスからは平家池を望むことができる。右:当初、集会室だったスペースには坂倉準三が考案した椅子や製図台が展示されている。

左:喫茶室のテラスからは平家池を望むことができる。右:当初、集会室だったスペースには坂倉準三が考案した椅子や製図台が展示されている。

 

 

 

 

 

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