アーティストインタビュー

2018.06.06

「映画は私をアップデートさせてくれる存在」
映画ソムリエ 東 紗友美さん

映画ソムリエとして雑誌やラジオ、テレビ番組など、多くのメディアを通じて映画作品の魅力を伝えている東 紗友美さん。7月からはSUMAUにて、映画の連載を予定している。東さんに、仕事との向き合い方や、映画への思いをうかがった。

 

「年間を通して観る映画は500本程度。それでも少ないほうなので、もっと多くの作品に触れていきたいです」

 

 

映画から得たものを

自分の言葉で伝えたい

 

――“映画ソムリエ”というのは面白い肩書きですね。

 

5年前に広告代理店から独立を決めたときに、人それぞれに合う映画を紹介しますという意味をこめて“映画ソムリエ”と名乗り始めました。映画業界は年功序列の厳しい世界。それでも、いまの時代はSNSで自ら情報を発信できるし、キャッチーな肩書きとそれに伴った実績を持っていれば道を切り開けると思ったんです。最初は飛び込み営業に行って、「映画ソムリエ、なにそれ?」と失笑されることもありましたね。最近では私以外にも映画ソムリエという肩書きを使ってくださる方が少しずつ増えてきて嬉しいです。

 

――広告代理店から映画ソムリエに転身された理由を教えてください。

 

私、自分に飽きてしまうのがイヤなんです。自分のことを好きでいるために、常に新しい自分でいたい。映画は私をアップデートさせてくれる存在で、子どものころから大好きでした。覚悟は必要ですが人生のどこかで一番好きなことを仕事にしたいと思って、ずっとタイミングを計っていたんです。

 

実は広告代理店でも、映画関連の仕事に関わっていました。『スノーホワイト』の公開時には、交通広告の企画賞を頂きました。それでも、広告で関わるだけじゃ物足りなくて。自分の体験で実感したのですが、好きなものとどのように関わるかはよく考えるべきですね。

 

映画に関わる仕事として、監督になる、女優になる、宣伝をする…などたくさんの選択肢がありますよね。でも、私は映画について話すことしかやりたくなかった。自分の感情を自分の語彙力や経験のなかから伝えたい。好きなものとどう関わるかを考えた結果、映画ソムリエになるしかないと強く思いました。自分の決断に迷いはなかったので独立するのは、怖くなかったです。

 

「自分自身の思いを貫いて、周囲に自分の気持ちを伝えるようにしています」

 

 

良いことも悪いことも

すべてが人生の材料になる

 

――お仕事が軌道に乗ったのはいつごろでしょうか?

 

3年目辺りからでしょうか。SNSによるセルフプロデュースこそ未来を切り開く鍵と信じ、自分の仕事をSNSで拡散することにしました。たとえば、映画チラシにコメントを書く仕事でも、書いて終わりではなくて、できたチラシをTwitterやInstagramに掲載する。それを続けているうちに、同じ内容でも東 紗友美に頼んだ方が広がりがあると思っていただけて、仕事の依頼が以前よりも来るようになりました。SNSの役割は私の想像を遥かに超え、私の薦めた映画は必ず観てくれるフォロワーさんや毎回イベントに遊びに来てくれる映画ファンの方にも出会えました。

 

いまは本当に幸せなことに、人生でしたいと思っていたことが全部できているんです。5、6歳から映画番組の前説に憧れていたのですが、29歳でテレビでの前説の仕事が決まりました。

 

これは、私のポリシーでもあるのですが、周りに自分の思いをはっきり伝えるようにしています。無謀と思われるようなことでも、言うと叶うんです。それも「絶対自分がやりたい」って言うんです。人って100点を取りに行っても実際取れるのは80点程度じゃないですか。だからやりすぎということはありません。そうやって、周囲の人に思いを伝えることで、応援していただけたからこそ、いろんなことが叶っていると感じます。

 

――映画ソムリエになってよかったと思うことは何ですか?

 

確実に自分の知識が増えたと感じます。20分のトークショーに出るだけでも、何時間もかけて勉強をしますから。映画の勉強に夢中になるあまり、登場人物と同じ資格を取ったこともありました。

 

また、いまの仕事に就くまでは、本当に自分に自信が持てなくて、容姿や体型についても過剰に気にしてしまっていたんです。でも自信がある人は、内面から輝いて見えますよね。仕事に自信を持てたいまは、自分のことを愛せるようになりました。

 

もちろん、大変なこともありますが、好きなことのなかで起きていることなので乗り越えられます。そして、イヤなことが起きても1つの経験として映画につながるので、人生のすべてが仕事の材料になっていると信じています。

 

――特に思い出深いお仕事を教えてください。

 

毎回、お仕事で関わる映画の恋人になったような気分で、とてもひとつは選べません。ただ、大林宣彦監督のトークショーに行った際に、監督が私の映画の感想を気に入って急遽一緒に登壇させてくださったり、『ブレードランナー』のお仕事ではSF映画界の神様のような中子真治さんとお話させていただいたりと、普通の生活ではお会いできないような方とご一緒できたときは、喜びが大きいですね。もし、映画ソムリエになっていなかったらお客さんとして来ていたんだろうなぁと思う映画イベントの舞台に立つことができるのが感激です。

 

また、個人的に映画のロケ地巡りが好きで、もっとも通った年は年間200箇所ぐらい行っていたのですが、いまそれが仕事になっているんです。趣味でやっていたことが、仕事になっていくのも嬉しいですね。

 

――好きなことをお仕事にされていますが、オンとオフの時間の切り替えはどうされていますか?

 

映画の仕事で苦しんだり悩んだりすることもあるけれど、私を救うのもまた映画。だから特に切り替えがなくてもいいかなって思っています。

 

映画を観る以外は、大体のことを30分で済ませるようにしています。原稿を書いたりご飯を作ったり。いろいろなことをやっているほうが燃えますね。

 

「映画の記録は財産になると思い、エクセルにキーワードとともに書き溜めています。いま5000本分ほどのデータベースになっています」

 

 

能動的に映画を観て

何かを得てほしい

 

――東さんならではの映画の観方を教えてください。

 

これは皆さんにおすすめするのですが、能動的になって観ていただきたいです。映画って、何かを得ようとして観ないと何も得られないんです。たとえば、ストーリーがつまらないと思っても、主人公のファッションに注目して観てみたり、自分に合わなくても「失恋したばかりの10代の女性が観たらおもしろいかも」と考えてみたり。本来はダメな映画ってないはずだと信じて映画と向き合っています。映画館で無駄な時間を過ごしてしまうのはもったいないですから、何かを吸収して帰ってほしいですね。

 

――7月からSUMAUで、連載がスタートしますね。どんな連載になるのでしょうか。

 

映画に出てくる素敵な家をイラストや間取り図を使って紹介したいと考えています。もちろん、ストーリーのおもしろさや、どんな方に観ていただきたいかもお伝えしていきます。普通の映画紹介は、ジャケット写真や場面カットだけで構成されることが多いですが、登場人物の家を見られることで目にも楽しい連載になるのでは、と思います。家ってその人のすべてが表れる場所ですよね。

 

――ちなみに、東さんの家はどんな雰囲気ですか?

 

統一感はないですが、カチンコや、オスカー像のレプリカなど、家のいろんな場所で映画を感じられるようになっています。私にとって、家と映画は切り離せないもの。映画を観るのは映画館か家ですから。連載では、家で映画を観るときの楽しみ方などもご紹介したいですね。

 

――映画ソムリエとしての、今後の夢を教えてください。

 

日本には映画賞がたくさんありますが、映画好き以外の人が見るとなかなか違いがわからないという意見も耳にします。なので特徴的且つ新しさのあるこれまでにない映画賞をいつか作りたいと思っています。審査員が全員女子高生の「女子高生映画賞」や、ハタチの男女しか審査できない「20歳映画賞」とか、エッジが効いた映画賞を作りたいです。実は、大ヒット映画があっても、日本全体でみると興行収入って毎年大きくは変わらないんです。そんな厳しい局面にもある映画業界に新しい風を吹かせたい。

 

もし、自分の名前がついた賞ができたら…本当に素敵ですよね。無謀な夢かもしれないですが、発言することでチャンスが巡ってくるかもしれない。

 

これまでの自分と、自分が愛した映画がくれる力を信じて、今後もがんばります!

 

(取材&文・SUMAU編集部 撮影・古本麻由未)

 

 

 

 

映画ソムリエ 東 紗友美(ひがし・さゆみ)さん

1986年6月1日生まれ。2013年3月に4年間在籍した広告代理店を退職し、映画ソムリエとして活動。レギュラー番組にラジオ日本『モーニングクリップ』メインMC、映画専門チャンネル ザ・シネマ『プラチナシネマトーク』MC解説者など。

 

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